〇◎ “私が知りたいのは、地球の生命の限界です” ◎〇
= 海洋研究開発機構(JAMSTEC)及びナショナルジオグラフィック記載文より転載・補講 =
☠ 青春を深海に掛けて=高井研= ☠
ᴂ 第5話 地球微生物学よこんにちは ᴂ
◇◆ 「生命は地震から生まれた!」仮説に挑む =3/3= ◆◇
「水素こそ暗黒生命にとって至高のエネルギー」を唱えるワタクシが、このようなおいしいネタをずっと指をくわえて傍観していたはずがあろうか。いやない(反語)。 いずれこの連載でもクライマックスシーンとして描かれるはずですが、ワタクシの研究グループの一つの研究成果に、「約40億年前、地球最古の持続的生態系は大量の水素を含む熱水で誕生した」とするウルトラエッチキューブリンケージ仮説の完成があります。
これは、コマチアイトという太古の火成岩が大量の至高のエネルギー=水素の発生源となったことを意味する仮説です。 そのウルトラエッチキューブリンケージ仮説に至るストーリーや背景が描かれた力作「生命はなぜ生まれたのか――地球生物の起源の謎に迫る」(幻冬舎新書)(←コレは言うまでもなく実在する出版社です。念のため)があります。
実はその本の最後に「大量の水素は約40億年前の地球の地震によって供給された」とする新仮説が紹介されていた驚愕の事実があったのだ!と、息巻いてみても、多分著者であるワタクシ以外誰も知らないでしょう(涙)。
つまりワタクシの研究グループには、ウルトラエッチキューブリンケージ仮説に対するサイズエッチキューブリンケージ仮説(サイズはSeismicity=地震の略)なる対抗馬が存在していたのです。「生命は地震から生まれた!」。東スポ的見出しをつけるとすればそうなるでしょう。その可能性をいよいよたぎらせることになったのが、廣瀬達による男汁地震水素実験の成果だったのです。
しかし、サイズエッチキューブリンケージ仮説提唱の大きな関門として、いまの地球に地震水素によって支えられた海底下深部微生物生態系(いわばサイ・スライム)がちゃんと存在していることを示すことが必要なのです。
ガチガチの地震発生メカニズム解明航海に、微生物学者のワタクシがなぜか紛れ込んでいるその理由。それは、東北地方太平洋沖地震の尋常ならざるプレート滑りによって発生したに違いない超大量の水素の直接的証拠を得ること。そしてその地震水素に活性化されたに違いない海底下深部微生物生態系(サイ・スライム)の存在を証明すること。それらのミッションを成し遂げるためと言えるのです。
実は、このミッションは極秘任務でも何でもなく、正式な統合国際深海掘削計画(IODP)第343次航海研究計画に記されている第二研究目標です。なので、ワタクシがこの任務を明らかにしたからと言って、「ちきゅう」からつまみ出されることは勿論ありません。
しかし、34名も研究者が乗船していながらたった一人、ワタクシだけがその任務を負っているという寂しさから、つい気合いが入りすぎて長くなっちまったぜ。ふう。というわけで、この航海の表ミッションだけでなく、そんな裏ミッションの成果もぜひ楽しみにしていただけると嬉しいかなと思います。
= 超深海をめざす「しんかい12000」 (2/8)=
―2011年夏に6Kが東北地方太平洋沖地震の震源域である日本海溝の水深約3000m~5000mに潜航して、巨大地震の影響と思われる大きな亀裂を確認しましたね
磯崎:はい。震源域である日本海溝の水深は8000mを超えます。伊豆小笠原海溝は9780m、つまり1万m近い。日本周辺のこれら海溝域を探査したい。無人探査機もありますが、研究者がそこに行って五感+アルファを駆使して何が起きたのか、何が起きようとしているのか、調査するツールを持ちたいのです。
―五感+アルファのアルファとは?
磯崎: 第六感です。ダーウィンはビーグル号という船に乗ってガラパゴス島に着き、足を踏み入れたところ、それまで考えていたこととは違うのではないかと進化論のヒントを得て著書「種の起源」をまとめたと言われます。諸説ありますが私はそれを信じています。写真ではなく、現場に人間が行くことで、それまでの知見に加えて五感とインスピレーションによって発見をすることはままある。その場に研究者を運ぶことが大事なのです。
―無人機だけでは難しいということですか?
磯崎: 無人機から母船に送られてくる写真だけを見ていると、重要な発見を見逃すことがあります。たとえば2013年の世界一周研究航海(QUELLE2013)で、6Kに乗っていた生物研究者が深海底を見ていたら「石がちょっと違うんじゃないか」と気づいた。鯨の骨だったのです。世界で二番目に深いところで発見された鯨骨で、大発見になりました。無人機でさーっと通り過ぎただけでは気づかなかったのではないか。
―人間の目って、一瞬でとらえるところがすごいですね
磯崎: 長い間、そのテーマに心血を注いできた研究者が集大成として行っているわけですからね。私は(現状の深海探査は)「お釈迦様の手のひらの上にいるようなもの」と言っています。広く深い深海の中で今は水深6500mまでしかいけない。でも12000mまで深く潜れるようにすれば孫悟空の活躍できるエリアを広げることができるのです。深く潜りたい研究者はたくさんいるんです。
「無人か有人か」ではなく、「無人も有人も」
―資源探査についてはどうですか?
磯崎: もちろん資源探査のニーズもあります。ただ我々は研究機関ですから、資源を回収して利益をあげようという企業を手伝うというより、なぜそこに資源があるのか、たとえば鉄マンガンクラストや熱水鉱床がなぜここにあるのか、どうやって出来るのかを調べるのが仕事。なぜできたかがわかれば、どこにあるかがわかってくるのです。
―資源探査についても研究者が行ったほうがいいですか?
磯崎: 行く意味は大きいですね。ただし有人調査船ひとつではダメで、トータルで動かすことが大事です。有人潜水調査船は言ってみれば「ガンダム」型。人間が乗って動かす。そのほかに「鉄人28号」型と呼んでいる無人探査機(ROV)があります。ケーブルでつないで遠隔で動かします。動ける範囲に限界はありますが。電力を直接送れるし映像はリアルタイムでとれるメリットがあります。
そして今、非常に進歩しているのは自律型無人探査機(AUV)。「鉄腕アトム」型です。ケーブルはなく、自分で考えて海底の様々な調査をして帰ってくる。ただし映像を見るのは母船に戻ってからになります。さらに大型の海洋調査船がある。
順番としては、まず調査船で広い範囲にわたって海底の地形を見ます。ただしきれいな画像は得られないので、「ここは面白そうだ」というところにAUVをおろして構造を詳しく調べる。さらにピンポイントに絞り込んだ場所にROVを降ろしでサンプルをとる。最終的に6Kで人が潜る。
・・・・・・・・つづく・・・・・・・
動画 : 巨大地震発生メカニズムを調査! https://youtu.be/-tTqzoWE-9s?list=PL97pirzgh57Ms7dQy4rBYdXdGFoAdqmXY
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