Everyday I have the BLUES

10代の頃はハードロックに夢中だったのに、最近はブルースが心地いい。。。

一本のブルース

2005-05-28 01:36:52 | Weblog
おやじの誕生日。

終戦の年に生まれたおやじは、
今日で60歳。

18歳のときに、
徳島の山奥から大阪に出てきて、42年。
そこからずっと同じ会社に通いつづけて、
今日、定年を迎えた。

振り返れば、そこには、
一日一日を食いつなぐだけで懸命の暮らし。
安物の服を着て、安物の酒を飲んで。
金のかかる遊びには縁がなかった。
外で飯を食うことすら、
半年に一度あるかないかの家庭だったけれど、
おやじもおかんも、
そんなことで悲壮感を漂わせたりはしなかった。

家族を抱いて、
ふらふらになりながらも、
倒れず、朽ちず。

一つの山を登りつめた。
今日。

病気がちなおかんは入退院を繰り返しながらも、
まだなんとかこっちの世界で笑ってて。
一番上の兄貴は、相変わらず家にいるけど、
もう29年も生きてくれている。
真ん中の兄貴は、先月結婚して、
幸せになった。
で、一番下の俺は、再来月で24になる。


俺は今日、仕事を駆け足で終えて、
帰り道のコンビニで、
1リットルの一番搾りを買った。

いつからか発泡酒ばかり
飲むようになったおやじと一杯やりたくて、
バイクを飛ばす。

家に帰りつけば、時計はまだ9時過ぎ。
だけども既にもう、
布団の中で眠たげなおやじがいて。

「おとん、おつかれ。ビール、よかったら」
と声をかけると、
「おお、明日飲むわ」
と布団の中から、返事がある。

それでもう、じゅうぶんだ。


朝がきたら仕事に出ることの“当たり前”を、
42年間、貫いたおやじと、
何度も死にかけながら、
“生きているだけで感謝”が、口癖のおかんと。

二人の痩せっぽっちな背中に、力強い輝きを見て、
なんだかその眩しさに、
それ以上どうかっこよく生きれるんだろうかと、
涙をこらえた。

“ありがとう”なんて
口がさけても呟きはしないけれど、
マディの『FATHERS AND SONS』が心地よかった。

さがしものブルース

2005-05-17 01:12:57 | Weblog
目が覚めれば二日酔い。

天と地がひっくり返った世界に向かって、
「もう当分酒はいい!」と叫んでみても、

夜になればまた、欲しくなる。

そんなもんだ。

なんだって。


午前零時まで突っ走ってみても
満ちてくれない心の隙間に、
アルコールを詰めて、夜をごまかして。

こんな生活をいつまで続ける気だと、
心の何処かでは思っていながら、
また別の何処かでは、
こんな生活であっても、もう少し続けなきゃと、
ウイスキーの瓶を眺めてる。


いつ砕け散るのか危なっかしいガラス細工に、
琥珀色をとくとくとやりながら、

だけどもおいら、

諦めが悪いのか、
物覚えが悪いのか、

いくら呑んでも悪酔いしない美酒があればと、
そんな酒を、ずっと探してる。

今宵、何処かのバーで。

酔いどれブルース

2005-05-14 03:20:15 | Weblog
ここんとこ飲み過ぎで、
胃腸の調子がどうもよろしくない。

でなもんで、一週間ぐらい、
アルコールから離れて生きようと、
決めた矢先に。

学生時代の友人と会った。

立ち話もなんだから何処かへ入ろうか、
と、俺とそいつ。

茶店も飯屋も素通りして、
何のためらいもなく、足がバーへと寄っていく。

照明が落ちた薄暗い店内。
カウンターと、テーブルが4つ。

椅子に腰をおろすなり、
「エヴァンウイリアムズ、ロックで」
とツルんと滑っていく自分の声を、聞いた。

さっき描いたばかりの決心を、
目の前の琥珀色に溶かし込んで、
バーボンをぐっとやる。

口に含んだ瞬間に広がる、
とうもろこしの“臭み”。

喉を滑り落ちていくときの、
焦げるような、温もり。

たまらない。

  ・
  ・
  ・

気がつくと
体がぽかぽか気持ちよくて。

俺は6杯目ぐらいのエヴァンを手に、
憂歌団の『君といつまでも』を頭の中で鳴らしてた。

“幸せだなァ”
“ボカァ 君といる時が”
“一番幸せなんだ”

オールドファッションドグラスの中で
煌めく液体に、木村の声が溶けはじめると。

辛口なはずのエヴァンに、ちょっと甘みが増していく。


…でなもんで、
明日もきっと二日酔い。

ほっと一杯のブルース

2005-05-04 13:09:55 | Weblog
脈絡なく、
「リトルウォルターって、7歳のときから路上で演ってたんやなぁ」
なんて口にされると、ちょっとたまげる。

ふとした偶然で知り合ったブルースウーマンと飲んだ。

梅田のとある和食屋で待ち合わせ。
湿った黄土色の照明が店内の空気を柔らかくしていて、
足を踏み入れた瞬間に居心地の良さを感じた。

案内されたそこは、畳1枚ぶんぐらいの広さの個室で。
初対面の人との空間としてはちょっと
気を効かせすぎている気もしたけど、
落ち着いて話をするにはちょうどよかった。


ブルース好きで。
本好きで。
モノ書きで。

…いつも旅をしている。

人が好きで、そのつながりで自分の世界を豊かにして。
相手が今楽しんでいるかを、とても気にしてしまって。
自分一人の迷惑のことなら、ときには妥協を飲んだりして。
仕事や周りの迷惑のことなら、真摯にぶつかって。

会話の端々から薫りたってくる
自身に対する誠実な生き方に、

その過程での消耗を想像しながら、

この人はこういう生き方しか
できないんだろうなと思うと、胸が熱くなった。


俺の中で、いつからかからっぽだったグラスが
少しずつ満たされていくのを感じながら、
ちょっと前に親しくしていた女のことが微かに脳裏によぎった。

“あわよくば一夜をともに”的な思考は、
自分でも驚くほどに珍しく 何処かへ置き去りにしたままで、

この人の本質的な寂しさは、
いったい誰が満たせられるのだろうかと、
そんな余計な心配に気をもみながら、芋焼酎をなめた。

酒と肴がひと段落した頃、
目を細めて微笑みながら「な~んか楽しいね」という彼女に、
俺は心底ほっとしながら、温かい笑顔をする人だなと思った。