永らえて 美雨の日記

日々折々の感想です

母が生まれた日

2017-01-30 14:22:27 | 私は病気?

 徳富蘆花の本名は徳富健次郎。その旧居跡は東京都に寄付されて広い公園になっています。

 蘆花は田舎暮らしを志してそこがまだ千歳村と言われていたころに、東京から移り住んできました。明治42年に生まれた母よりも数年前でした。「みみずのたはこと」にそのあたりのことが詳しく書かれています。当時はまさに田舎そのものでした。蘆花は美的百姓と称して、畑を耕します。根っからのお百姓がハラハラするような場面もあったようですが、次第に新しい土地に馴染んでいきます。

 当時の地元の人たちに「文豪」としての存在がどれほど理解されていたかは知りませんが、手紙の代筆をしてもらった人は果報者と言えるでしょう。蘆花の葬儀には小学校の生徒もその葬列を見送ったと言います。母もその中の一人でした。

 「みみずのたはこと」の中の一章にある小春日和の日の出来事が書かれています。その日はちょうど、母が生まれた日でした。蘆花の作品との関連性はありませんが、心に残る箇所でした。昨日から「みみずのたはこと」を読み始めています。そこだけに見当を付けて探すことはせず、最初からゆっくりと読んでいます。

 旧千歳村は東京23区のはずれの世田谷区ですから田舎でしたが、現在はちんまりした都会です。蘆花がいながらにして見はるかしていた景色は消えています。私が育った家も姿を消しました。

 幾とせふるさと来てみれば……と始まる歌の歌詞では小川の流れも咲く花も変わりなくありますが、宅地開発で景色は一変しています。今私は、この本の中で遠い故郷に帰っています。