ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

ローリング・ストーンズ Rolling Stones とカントリー・ミュージック

2007-07-29 | カントリー業界情報、コラム

 21世紀に入ってから我が国のロック・メディアでは、Rolling Stonesが最もクリエイティブだった1968年以降の数年間、ギタリストのキース・リチャーズ(Keith Richards)が親友Gram Parsonsから教授されたカントリー・ミュージックのエッセンスも投入しながら、バンドのアメリカ南部志向の音楽を確立して行った事が頻繁に語られるようになって来ました。この頃キースが発明し、ストーンズの重要な兵器となった”5弦ギター”が、つまりはバンジョーと同じチューニングである事など、カントリー、ブルーグラスとの繋がりを感じさせるエピソードとして挙げられたりします。しかし、Jagger/Richardsによるカントリーを消化した名曲("Dead Flowers","Sweet Virginia"など)は幾つかあるものの、特定のカントリー・ソングやアーティストからの影響が一般に語られる事はなく、カントリー曲のカバーもこの時期以降ではありません。むしろ、意外にもそれ以前のブリティッシュ・インヴェイジョン時代にカントリー・ナンバーをカバーしていたのです。



 その曲は、カントリー・レジェンドHank Snowの"I'm Movin'(Moving) On"。1951年に21週連続1位となった、カントリーの名曲です。1965年の「December's Children (And Everybody's)」にてライブ・バージョンで聴く事ができます。ただ、スタイルはあくまで当時キース・リチャーズお得意のチャック・ベリー調のロックンロールで、あまりカントリー云々は感じません。それは何よりSnowによるメロディの普遍的なカッコよさよるところが大きいんですが、直接にSnowのオジリナルをカバーしたのでなく、1959年のRay Charlesによるバージョンを参考にしているからでしょう。この年はカントリー側でもナッシュヴィル・サウンドのDon Gibsonがこの曲をカバーしており競作になってました。いかに名曲かがわかりますね。

 
Hank Snow

 このようにストーンズとしては、"I'm Movin' On"しかカントリーをカバーしていないんですが、キース単独としては公式にカントリー・ソングをレコーディングしているのです。その一つが、こちらもカントリー・レジェンドであるGeorge Jonesの1994年のCD「The Bradley Barn Sessions」に収められている"Say It's Not You"。曲はJones御大の1968年のヒット。このアルバムは、全収録曲で当時旬のカントリー・スターがJones御大と名曲をデュエットするという企画物でした。そのスペシャル・ゲストとしてキース・リチャーズが招かれて、この曲を御大とデュエットしたという大事件だったのです。コンセプトからして、イベント的なお気楽さがCD全体に漂っていますが、この"Say It's Not You"だけは別格。リッチな質感を持ちながらも枯れた風味の素晴らしいバックにのって、キースの実に味わい深いしわがれ声が説得力を伴って心にしみてきます。これこそ真のホンキー・トンク・ミュージックです。

 
"Say It's Not You"収録     Apartment No.9"収録

 実はキースは1977年にプライベートに"Say It's Not You"をレコーディングしており、ブートレッグ等で聴く事が出来るようです。他にもTammy Wynetteのデビュー曲"Apartment No.9"も録音しています。当時、トロントでの薬物不法所持裁判を待っている時期に録音したもので、判決によっては音楽生命が絶たれかねない状況の中で、その心を癒す為にカントリーを歌っていたという事実に、いかにキースがカントリーを愛していたかが感じ取れます。この2曲は1967年~1968年のヒット曲。先にも触れたようにこの期間、サイケデリックな「Their Satanic Majesties Request」で大コケし、 ストーンズがこの先どのような音楽スタイルで食っていくのか暗中模索していた時期。ブルースと共にこれらカントリー・ソングを聴いては、次の名作「Beggars Banquet」へのアイデアを膨らませていったのでしょう。そういう意味で、重要な思い出の曲だったのだと思います。




 さて、話を「The Bradley Barn Sessions」に戻しましょう。このCDで楽しいのが、リーフレットの片面いっぱいに掲載されたレコーディング風景の数々。ついつい貴重なキースのショットに目がいくのですが、Jones御大との熱い抱擁(しかし、Jones御大はキースを知らなかったとの話も・・・)、そして御大との堂々の2ショットでのキースの額には「神風」手ぬぐいが!気合入ってたんです。また、こちらも今やカントリー界の重鎮エミルー・ハリス(Emmylou Harris)との2ショットでは、エミルーがミーハー丸出しのようなはしゃぎようでキース様がハニカンでおります(エミルーは"Say It's Not You"のセッションにアコギで参加)。さらに、このセッションには、ロック・レジェンドのレオン・ラッセル(Leon Russell)も参加しており、しっかりキースと2ショットで写っております。何か会話を交わしてるような感じで・・・キース「お前、最近どうしてたんや?」、レオン「まあ、ボチボチやってたで」、キース「そうか。それにしても、ココの連中はみんなうまいのう~。大したもんやわ」、レオン「そりゃお前、ここはナッシュビルやで」。

       

「Their Satanic Majesties Request」   「Beggars Banquet」


 確かにキースは、ナッシュビルのスタジオ・ミュージシャンに特別な感情を抱いていたようで、それはリーフレットに記載のプロデューサのコメントから分かります。「もっとも有名なゲストは、またもっとも慎ましやかでした。彼は自身のロック仲間と比較して、私たちのミュージシャンを、静かで力強い天使たちと表現し、一方彼自身の事は”クソにまみれた豚”だと・・・」

 キースは今世紀に入ってからも、Hank Williamsへのトリビュート・アルバム「Timeless」や、ウィリー・ネルソン(Willie Nelson)のライブ・アルバム、Gram Parsonsのトリビュート・コンサートに参加していて、カントリーに接近してくれています。さらに"Apartment No.9"はキースとロン・ウッド(Ron Wood)のユニットNew Barbariansの、最近日の目を見たライブアルバム「Buried Alive: Live in Maryland」でも聴けるようですね。これらについては、また機会を改めて。



 最後に1968年のミック・ジャガー(Mick Jagger)のインタビューから・・・・聞き手「バーズとディランのアルバムの影響は受けていますか?」、ミック「受けてるよ。だけどキースは昔からカントリーなんだ。彼の音楽ってのはそれなんだよ」(ローリング・ストーンズ・ブック、草思社より)


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