ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

エル・キング Elle King - Come Get Your Wife

2023-07-17 | カントリー(女性)

 

最近のグランド・オール・オープリーに出演していたエル・キングのパフォーマンスが興味深かったので、早速この今年発売の3作目、カントリーミュージックへ方向性を示したアルバムを聴いたところ、ポップ・カントリーでは味わいにくい、なかなか意志を感じる強いサウンドを堪能させてもらえたので、取り上げたいと思います。かつてサマーソニックで来日し、゛新ロックンロールの女王゛とも言われたアーティストの注目のアルバムです。

 

 

なお、ここでの彼女の音楽を「オルタナ・カントリー」だと表現されてるのを見かけますが、厳密な音楽のスタイルはともかくとして、現在彼女はCMA(カントリーミュージック協会)のFacebookのカバー写真(ABCで放送された、CMAフェスティバルの特別番組のPR用)にダークス・ベントリーレイニー・ウィルソンと共に登場したりしているくらいにCMAとしても彼女をプッシュしており、あくまでメインストリーム・カントリー界での活動を想定して製作されたアルバムである事は認識されて欲しいと思います。

 

 

一応、プロフィールを。1989年、俳優のロブ・シュナイダーの娘としてロサンゼルスで生を受け、育ったのがオハイオ州です。子供の頃には、バンジョーも弾いていて、カントリーには親しんでいましたが、最初の活動の場として選んだのはニューヨークで、大学はフィラデルフィアの芸術大学で学びました。卒業後、コペンハーゲンやロスなどをまわった後、ニューヨークに戻り、RCAレコードと契約します。

2015年のデビューアルバム「Love Stuff」と、シングル"Ex's & Oh's"がヒット(それぞれビルボード200で26位、同ホット100で10位)し、その勢いで来日も果たします。その頃、すでにダークス・ベントリーと"Different for Girls"(「Black」収録)で共演してカントリーと相性が良い事をアピールしていました。この曲は、ビルボードのカントリー・エアプレイで1位となり、CMAアワードのボーカル・イベント賞も獲得したほどでした。2018年にはセカンドの「Shake the Spirit」をリリースしましたが、チャート成績はデビュー作ほどではありませんでした。

 

 

2021年にミランダ・ランバートと共演した"Drunk (And I Don't Wanna Go Home)"をリリースし、ホット100で37位、そしてホット・カントリーで1位に昇りつめます。さらに、再びダークスと共演した"Worth a Shot"がさらに続き、これらが彼女のカントリーの方向性へ推し進める決定打となりました。そして今年2023年1月に本作をリリースします。

 

 

 

マンドラで始まるオープニングの"Ohio"が、あまりカントリーでは聴けないヘヴィーな(ロック的?)曲調で、結構気に入りましたが、歌詞の内容はカントリーそのものです。

 

 

裏のポーチでスウィングしながら歌う私がいる
カールしたドッグが吠えてる、柄杓をキッチンに忘れてきたわ
その時ふと思ったの... ここに長く居すぎたんだと
ハリウッドのようにはいかないかもしれない
でも私たちはいい丘を持ってる。そして、転がりがいい
窓を下げて、下げて、(華氏)93度よ、間違っちゃいないわ
金曜の夜に必要なのは
クーラーボックスにクアーズ(ビールの銘柄)を入れて、蛍の光を浴びて
そして古き良きマウンテン・ダンス・ナンバーよ

川のそば、焼け落ちた橋のそばで
22口径の引き金を引いたら、私の蓋が割れた
泣かない方法を知ったのは8歳の時だった
戻りたい、そうかもしれない
でも、帰るたびに、ひどく胸が痛む
裸足の赤ん坊が手を振って別れるのを見るのは嫌よ
いとおしい母さんの墓を見るのはつらい
彼女の魂に安らぎを 私は誓った
故郷の誇りを胸に

オハイオよ
オハイオよ

 

平凡な家庭生活、古き良き音楽、国産ビール、いとおしい母、地方の苦しい生活、そしてそれを克服するプライド・・・、これらカントリーに求められる要素が、ブルージーともいえる曲調で朗々と歌われます。カントリーが「ロック化」して久しくなり、本作の音楽がカントリーと捉えられる事の敷居も下がっているのが現状でしょう。しかし、やはり本作での音楽、特にリズム・ナンバーが本場のカントリーファンにどう聴こえるのか興味深く、気がかりです。というのも、カントリーはあくまでボーカルが中心の音楽(それを演出するのが、艶やかなエレクトリック・ギターを伴う職人的コンテンポラリー・カントリー・サウンド)であるのですが、本作のサウンド、バックの音圧が強いのがやはり個性であり、同時に気にはなります。私のようなロック、R&Bも聴いてた人間には、「久々、この手も良いね」となりますが、ロックなど知らない人にはどう聴こえるでしょうか。

一方で、歌唱力は十分で、声質もスウィートめ、時にキュートな声も出したりして、カントリー・シンガーとしての資質は申し分ない感じです。アルバム後半では、ドラム付きブルーグラスの"Crawlin’ Mood"や、グランド・オール・オープリーでも、相当ソフトに歌っていたタイラー・チルダースの"Jersey Giant"など、カントリー・アーティストでもなかなかやらない、アコースティックなカントリーらしさに満ち溢れた曲も取りそろえています。娘さんの名を曲名にした"Lucky"もアコースティック基調のポップ・カントリーで、力のあるボーカルが爽快なサウンドに乗り個性的と思います。

 

 

カントリーの長い歴史で、ポップ/ロックで名を成してからカントリー界でも地位を築いた人としては、ダリアス・ラッカーくらいしか思いつかないくらい、この移籍は難しいものです。シェリル・クロウもよくカントリー・アーティストと共演して、CMAアワードにも出演していましたが、カントリー・アーティストと認識されたことは無いと思います。その背景と思われるものについて、以前、ジェシカ・シンプソンとダリアス・ラッカーの二人に関する記事でも触れた事が有ります。

 

 

グランド・オール・オープリーでエルは、代表曲といえる"America's Sweetheart"も、相当にテンポとキーと落として歌っていました。このアレンジに彼女の意気込みと共に、その難しさも感じます。とはいえ、極端に一線級の女性アーティストが少ない近年のカントリー界にとっては、貴重なタレントである事は間違いありません。今はライバルも少ないし、シンガーとしての実力は素晴らしい人なので、粘り強く活動を続けて欲しいと思います。

 

 


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