ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

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ウォーカー・ヘイズ Walker Hayes - Country Stuff [EP] - "Fancy Like”のTikTokビデオやカントリーのストリーミング事情のこと

2021-08-07 | カントリー(男性)

 

突如、といって良い勢いで、ビルボード・ホット・カントリーで見事トップを獲得したウォーカー・ヘイズの"Fancy Like”。同ホット100でも8月7日付で14位です。実は、同カントリー・エアプレイ(つまりコアなカントリー・ファンが楽しむラジオでの人気)ではまだまだ下位に留まる段階でのこの現象は、通常のヒットの仕方とは違います。実はこれ、ウォーカーがTikTokに投稿した家族とのダンス・ビデオが好評な為で、中でも6月14日に投稿された娘さんLelaとのダンス・ビデオが(今あまり使いたくない言葉ですが本国での言い方だと)ウィルス性のセンセーションを巻き起こした結果、まずカントリー・デジタル・セールスでトップになったようです

 

Tiktokビデオ

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確かに本人のコミカルな動きやLelaの爽やかなダンスが、少々あか抜けないビートと共にとても家庭的な温かさがあり微笑ましいです。これぞカントリー!また、そのダンスをまねたファン・ビデオも投稿されています。このおかげで、同カントリー・アルバム・チャートでも、ルーク・コムズやモーガン・ウォレンのデビュー作(今だに!)やセカンド作などが上位に居座る中で、このEP「Country Stuff」が6位にランクインするという健闘ぶりです。この人の音楽スタイルはプログラミング・ビートが幅を効かせるポップ~R&B系で、最近はチョッと穏やかな「カントリー回帰」傾向のカントリー界にあっても、このスタイルが既にしっかり根付いている事でもあるのかと感じます。

 

"Fancy Like”ファン・ビデオ

 

プロフィールです。1979年、アラバマ州モービル生まれ。少年期から音楽とスポーツに熱心で、大学はまず南バーミンガム・カレッジで音楽の学位を取り、続いてノースカロライナ州チャペル・ヒルの北ノースカロライナ大学に進みます。プロの音楽家になろうとナッシュビルに移ったのは2005年。キース・アーバンの為に製作したデモが評価され、最初はマーキュリーと契約しますが、すぐさまキャピトル所属となりました。順調に2010年にデビュー曲を、そして2011年にアルバム「Reason to Rhyme」をリリースしましたが、芽は出ませんでした。その後、キャピトルを離れ、コストコで働きながら作曲活動を続ける苦労をします。

 

"Fancy Like”オフィシャル・ビデオ

 

そんな中でリリースしたシングル"Pimpin' Joy"が、売れっ子ソングライター、シェーン・マカナリーに気に入られ、シェーンのレーベルでEPをリリースしていきます。それらが功を奏し、2017年にモニュメント・レーベルとの契約にこぎ着けたのです。リリースした "You Broke Up with Me"はゴールド・レコードのセールスを記録するヒットに。その勢いに乗って、同年12月にはフル・アルバム「boom.」をリリースし、ビルボードのカントリー・アルバムで6位に送り込みました。ただ、その後 "90's Country"や"Trash My Heart"はヒットに恵まれなくて、2021年に"Fancy Like”で久々のヒットとなったのです。ウォーカーの音楽は、カントリーを始めロック、R&Bやヒップ・ホップの独自のミックスが個性的と評されています。

 

 

本EPは結構ゲストが多彩で、タイトル曲"Country Stuff"には最近"Made For You"をナンバー1ヒットさせたジェイク・オウェン(目立たないけれども)、スロー・ミディアムの"What If We Did"でカーリー・ピアース、そして"Briefcase"ではフォーク・ポップのロリ・マッケンナ Lori McKennaが参加してます。それでも、とにかく際立つのが"Fancy Like”。"You Broke Up with Me"当時は結構軽めでクールな体裁でしたが、"Fancy Like”では地を這うようなサブ・ベースとアーシ―なトワンギー・ギターが曲のイメージを強烈に放ちます。愉快で病みつきになる快感が有り、そこにアットホームで真似したくなるダンス・ビデオが共鳴してセンセイションを巻き起こしたのです。ウォーカー自身の歌は基本抑え目で、あまり個性は感じません。なので、"Fancy Like”や"Country Stuff"以外のポップ・カントリー曲は平凡な印象になります。やはり、ダンス・サウンドの人です。

緩いダンス・ビデオでヒットしたカントリー曲として、2019年の ブランコ・ブラウンによる"The Git Up"が思い出されます。これはわが国でも街中でよく聴かれたので、"Fancy Like”も期待したいです。

 

 

デジタル・セールスに触れた事に関連して、今年公表された、とある公的なカントリー・リスナーに関する調査の概要をご紹介したいと思います。カントリー・ファンはアメリカ南部に多そうなイメージなのですが、たしかに比較的南部が多いもののアメリカ全土で差は小さく、エリア毎の比率の差異は6%以下だそうです。カントリ・ファンと言える人々は80%近い人が少なくとも週一回はカントリーを聴いていますが、他ジャンルも聴くようです。なかでもクラシック・ロックが一番多く6割、そしてヒップ・ホップやR&Bも4割近くのカントリー・ファンが週一回は聴いているのです。調査はあくまでカントリー・ファンに対してですが、同様に他ジャンルのファンがカントリーを聴いている事も想像されます。ジャンルの垣根が低くなってきているのです。

カントリーではストリーミングが弱いので近年チャート成績が弱くなったとされますが、2019年以降はカントリー・ファンのストリーミング消費は伸び続けています。対するポップ、R&Bらの他ジャンルが2020年に微減に転じたのに対し、カントリーでは増え続けているようです。このあたりの背景が、今年初頭のモーガン・ウォレンの大量のホット100ランク・インや、このウォーカー・ヘイズの突然の躍進に繋がってるのです。本作のような小出しEPのリリースが増えているのも、このようなデジタル事情に対応しようとしているのでしょう。


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