森共同アトリエ 管理人日記

共同アトリエのnews、管理人の彫刻制作記録、管理人の徒然日記etc

まずは粗付け!&粗付け考

2010年01月24日 23時00分00秒 | 小作品
まずは芯棒に土をしっかりと付けていきます。しゅろ縄に土がからんでいないと、作品が落ちてしまう危険があります。
 
次に横からみた頭部の大まかなシルエットをイメージして、頭部の左右を分ける線(正中線)にそって土を置いていきます。(土はすでに量であるので、このとき正確には正中面ということになります。)
 
左右の量は全く無視しているので、正面からみるとすごく細い状態です。人の頭部を自然につくろうと思ったら、まず首の立ち上がりの角度が重要になってきます。基本的には、人を横から見たときの、背中からのS字のつながりの延長に首があるので、鎖骨から前方に向かって首は突き出しています。
特に、首像の制作経験が少ない人はよく首の立ち上がりがまっすぐになりがちですが、これは人体構造の理解不足によるものに加えて、土付けをまっすぐの芯棒に合わせてしまうという制作中の問題点も含まれます。横から見た写真を見ると、芯棒の入っている位置が、作品の中心でないことが分かります。
これを芯棒に対し、前後左右均等に土付けをしていくと、まるで大きな電球のように、頭部としてはつたない形になってしまうのです。(見てつくっているのに、なぜそうなってしまうかというと、全体が見えていないからということに尽きます。どうしても表面的な凹凸ばかりに気を取られて、全体の比率や流れ、さらには空間が掴めていないのです。)
この作業はそれを避けるための技術的な手段の一つです。
ただし、それはあくまで手段の意味を理解した上で効果を発揮するものであって、これを取り入れたから誰でも出来るようになるかというと、そういう訳ではありません。この作業の時点で正確な比率(量のバランス)、動き(角度)が捉えられなければ、それを土台にした作品は自然なバランスにはなりません。
大事なのは結局構造の理解であって、この作業はそれをサポートするだけのものなのです。
このプロセスには首の立ち上がりを合わせるきっかけになる、というメリットに合わせて、もう一つ大きなメリットがあります。
それは、基本的に人間は左右対照の量のバランスを持っているので、横から見たシルエットさえ合えば、後は左右均等に量をつけていけばそれだけで良い、ということなのです。これは特に動きのある作品をつくるときに効果的で、例えば首から頭部にかけて動きがある作品をつくる場合、よくある失敗例としては、顔面だけ斜めに動きをつけたものの、後頭部がその動きについてきていないので、顔のどちらか側面がひらいてしまう(例えば、どちらかの頬が横に長くなり、背面に動きがついていない)とか、顔面も後頭部も一応正面に対して斜めの面の角度は意識したものの、面と正中線が合っておらず、上から見たときに頭部の形が平行四辺形になってしまう。というものがあげられます。
こうした初歩的な失敗も、理解した上で先ほどのプロセスを踏襲することで、バランスの合いのレベルが格段に上昇します。なにせ正中面の動きさえ合わせてしまえば後はそれに対して左右に均等に量をつけていくだけなのですから。
とりわけ彫刻科で芸大を受けるという人たちにとっては、石膏像の模刻の修練は必須でありますが、なかなかその動きを捉えていくのは難しいものです。動きや量、バランスなど、同時に考えなければならないことが非常に多く、混乱しがちですが、こうした方法論を知ることで、同時に考えなければならない要素を絞っていくことができるのです。
例えばこれは僕が前につくったヘルメスの頭部模刻ですが、同様に正中面から捉えていく方法を取っています。
 

 

 

 
出だしの時点で首の立ち上がり、体に対する頭部の向き、頭部の正中線に対する左右の張り出しのポイントの位置関係、当然比率などもほぼ合わせているのがわかります。
短時間で端的に構造を捉えていくには知識と経験とクロッキー力が必要不可欠でありますが、それに合わせて自分なりの方法論が確立されることで、形を合わせる時間はいくらでも早くできるのです、受験ではそうした経験に基づいたルールといったものがあると、焦ることなく時間を有効に使うことができるのです。
ただ、方法論にばかり頼って観察を怠る人も多く、なんでもかんでも方程式にはめ込んでしまって、柔軟な判断ができなくなってしまうのは、芸術という分野において非常に問題です。
次は実際に量をつけていく仕事に入ります。この時は特に骨格や筋肉といった、皮膚によって隠された内部の構造を意識する必要があります。直接見えている形の凹凸は、必ず内部からの影響によって起こっていて、その裏付けがなされていないと非常に表面的な嘘臭い作品になってしまいます。
まず大切なのは形の張り出し具合(量)を合わせることと、それを左右で合わせることです。人は基本的に左右同じ位置に同じパーツ(量)があるので、仕事自体も右に土をつけたら次は左へ、といった具合にバランスよく仕事をしていかなければなりません。
 
このときはほとんど細部の表情は意識しません。あくまで量としてみることが重要なのです。目、鼻、口も、いきなり細かく作り込むのでなく、全体の量の一部として捉えなければ、下地の形態と一致せず、違和感のある造形となってしまいます。
 
全体に量が足りたら、いよいよ印象を整えていく仕事に入ります。
ここから先は、どんどん形に探りを入れていき、今までただの粘土だったものに、さらに高いレベルでの彫刻的な意味付けをしていく作業となります。
それは粘土が皮膚に変わっていく過程であるとも言えます。
今この段階で15分くらいでしょうか、これから長い時間をかけて一つの彫刻をつくっていきます。
 


彫刻は、対象をコピーすることとは違います。そういった作品ももちろんありますが、作者と作品との対話によって生まれた形には、物体として特別な価値が生まれます。その価値をいかに高めていけるかは、単に技量だけでなく、作者一人一人の世界観や、芸術に限らない知識や経験の幅の広さにかかっているように思います。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 新たな作品の芯棒! | トップ | 仕事の日でした~。 »
最新の画像もっと見る

小作品」カテゴリの最新記事