4)軒桁の継手
軒桁は、京呂組、折置組にかかわらず、連続梁と見なせるが、荷重のかかり方は異なる。
京呂組の場合:小屋梁を受け、大きな曲げがかかることを考慮した継手が望まれる。
①追掛け大栓継ぎ ②金輪継ぎ(図は省略) ③腰掛け鎌継ぎ+補強金物 ④腰掛け蟻継ぎ+補強金物
竿シャチ継ぎも可能だが、使われることは少ない。
折置組の場合
垂木を経て屋根荷重を分散的に受けるだけであるため、曲げの大きさは京呂組に比べ小さく、断面は母屋程度でも可能。ただし、軸組の桁行方向の変動を考慮した断面とする必要がある。
①追掛け大栓継ぎ ②金輪継ぎ ③腰掛け鎌継ぎ+金物補強 ④腰掛け蟻継ぎ+金物補強
一般的には③が多用される。①追掛け大栓継ぎを用いると強い架構になる。
5)小屋梁の継手
①台持ち継ぎ (だいもちつぎ)
一般に多用される継手。 柱あるいは敷桁(敷梁)上で継ぐときに用いられる。丸太、太鼓落とし、平角材のいずれでも可能。
太鼓落としの場合は、参考「太鼓落し梁の仕口分解図」参照(継手仕口図の後に掲載) 図中右「追掛大持継」と記してある。
稲妻型に刻んだ下木に同型の上木を落とし、材相互のずれはダボ、捩れは目違いを設けて防ぐ。
上下方向の動きでのはずれ防止のため、継手上に小屋束を立て、屋根荷重で押さえる。あるいは図の点線位置で、ボルトで締める。敷桁には渡りあごで架ける。
②追掛け大栓継ぎ:平角材に用いられる確実な継手。柱あるいは敷桁から持ち出した位置で継ぐときに用いる。 継がれた2材は1材と見なすことができ、曲げに対して強い。
③腰掛け鎌継ぎ+補強金物 (図は省略)
6)軒桁と小屋梁の仕口
京呂組の場合
組み方A 軒桁に小屋梁を乗せ掛ける
①兜蟻掛け(かぶとありかけ) 軒桁に小屋梁を乗せ掛ける
一般的な方法で、丸太梁、平角材いずれにも用いる。基本的には大入れ蟻掛け(目違い付き)である。
丸太梁で、垂木彫りを刻んだ後、木口の形状が兜のように見えることから兜蟻掛けと呼ぶようになった(参考「太鼓落し梁の仕口分解図」参照)。
小屋梁の乗せ架け寸法は、垂木が軒桁に直接掛けられるように決める。柱と軒桁は長ほぞ差しが最良(込み栓打ちは更に確実)。
法令は、羽子板ボルトでの固定を要求(梁に曲げがかかったとき、あるいは梁間が開いたときの蟻掛け部分のはずれ防止を意図)。
実際は、曲げによるよりも、架構の変形により起きる可能性が高く、架構:軸組を強固に立体に組めば避けられる。屋根(小屋束・母屋・垂木・野地板)が確実に取付けば、梁のはずれは実際には起きにくい。
垂木を表しの場合は、垂木間に面戸板(めんどいた)を入れる。
②相欠き渡りあご 軒桁外側まで小屋梁を渡す
丸太梁、平角材いずれにも用いられる。
法令・住宅金融支援機構仕様でも補強を要しない仕口であるが、外面に木口が表れるので真壁向き。
垂木を掛けるために、鼻(端)母屋が必要となる。 鼻母屋と軒桁の間に面戸板が必要。
鼻母屋の継手は腰掛け鎌継ぎで可(軒桁・面戸板・鼻母屋で合成梁となるため、追掛け大栓継ぎの必要はない)。
垂木表しの場合、垂木の間にも面戸板が必要(図では省略)。
軒桁の小屋梁位置下に管柱があるときは、頭ほぞを重ほぞとし、軒桁・小屋梁・鼻母屋を縫う方法が確実。柱がない箇所では、鼻母屋上部から大栓を打ち、鼻母屋・小屋梁・軒桁を縫う。
小屋梁の脇で、鼻母屋と軒桁をボルトで締める方法は、経年変化で緩む可能性が高い。
組み方B 軒桁に小屋梁を天端同面(てんばどうづら)で落とし込む
③(大入れまたは胴突き付き)蟻掛け
梁が平角材の場合に用いる。図は胴突き付きの場合。 天端同面納めは、軒桁成≧小屋梁成の場合可能。
(小屋梁の成の方が高い場合は、軒桁から梁がこぼれる。)
法令では、梁に曲げがかかったとき、あるいは梁間が開いたときの蟻掛け部分のはずれ防止のために、羽子板ボルトでの固定が要求される。
垂木表しの場合は面戸板が必要。
左図では、軒桁を追掛け大栓継ぎで継いでいる(一般には、刻みの簡略化のため腰掛け鎌継ぎ+金物補強が多用されるが、強度的には追掛け大栓継ぎが優れる)。
③蟻掛け(胴突き付き)(図は省略)
折置組の場合
組み方A 小屋梁に軒桁を乗せ掛ける
①相欠き渡りあご
丸太梁、平角材いずれにも用いられる。図は小屋梁が平角材の場合。
相欠きと渡りあごによって、梁と軒桁がかみ合うため桁行方向の変形に対してきわめて強い。
この効果を確実に維持するために、軒桁の継手は、追掛け大栓継ぎが望ましい(一般に、刻みの簡略化のため腰掛け鎌継ぎ+金物補強が多用されるが、追掛け大栓継ぎの方が優れる。)
補強を要しない仕口であるが、外面に木口が表れるので、大壁仕様のときは検討を要する。
柱寸法の節約、刻みの簡略化のために、柱の頭ほぞを短ほぞとして金物補強とすることが多いが、図のように、柱の頭ほぞを重ほぞとし、小屋梁・軒桁を一体に縫うと軸組は一段と強固になる。
組み方B 小屋梁に軒桁を天端同面で落とし込む
②(大入れまたは胴突き付き)蟻掛け
梁が平角材のとき可能な方法。 小屋梁成≧軒桁成が必要
図は、小屋梁と軒桁の成を同寸の場合。梁の成>軒桁の成のときは腰掛け蟻掛けとする。
柱寸法の節約、刻みの簡略化のために、柱の頭ほぞを短ほぞとして金物補強とすることが多いが、長ほぞの方が軸組は強固になる。
垂木表しのときは面戸板(めんどいた)が必要。
法令は、軒桁に曲げがかかったとき、あるいは柱間が開いたときの蟻掛け部分のはずれ防止のために、金物補強を要求。
実際は、架構:軸組を強固に立体に組むことで避けられる(従来、金物補強がなされなかったのは、開口部に差鴨居を入れるなど、架構を立体に組む工夫がなされていたからと考えられる)。また、屋根(小屋束・母屋・垂木・野地板)が確実に取付けば、梁のはずれは起きにくい。
参考 太鼓落し梁の仕口分解図 日本家屋構造 より 文章は意約、()内は編集によります。
「京呂梁とは、柱の上部に桁をはめ、その上に梁を仕掛けるもので、折置梁とは柱の上に直ちに梁を置き、その上に桁を掛渡したものを云う。」
「第37図甲は京呂梁の建図(たてず)で、乙は梁の仕口を渡り腮(あご)にしたもの、丁・丙は仕口を兜蟻(かぶとあり)にしたものである。
乙は甲図の右側の渡り腮(あご)の仕口を示し、下端内側は蟻掛けとする。
丁・丙は甲図の左側、兜蟻掛けの仕口で、梁下端内側を蟻掛け、梁の上端には垂木彫りをし、梁の長さは桁上端真で切止め、木口は面戸(めんど)板で隠す。梁下端は桁の水墨(みづすみ)を下端とするが、梁の形状によっては、多少下がることもある。
軒の継手は追掛(おっかけ)大栓継ぎとする。もし、継手を金輪継ぎとすると、継ぎ合わせをしてから柱に掛け渡すことになるので、建て方が難しくなることがある。」
「第38図甲は折置梁の建図で、乙は軒桁、丙は折置梁の仕口を示し、軒桁は梁に1寸以上1寸5分位を仕掛け渡り欠き(渡りあご)として、梁の両側面に深さ5、6寸位を追入(おおい)れ(大入れ)とする。 この場合には柱のほぞは重(じゅう)ほぞとして桁上端まで差し通す。
丁は梁の木口を板に写し取り(この板をヒカリ板という)他の梁に転写する方法で、極めて正確に写すことが必要である。」
「第39図甲は投掛(なげかけ)梁の仕口、乙は敷梁の仕口を示す。
二者共に追掛大持(おっかけだいもち)継(台持ち継ぎ)の仕口で、梁間の大きな場合に梁を十字に掛け渡す時の仕方で、敷梁を柱上部にはめ込みその継手長さは梁の成の2倍半位とし、長さは中央に辷(すべ)り段深さ八分以上1寸位を付け、左右目違(めちが)いほぞの大きさは木巾の四分の一四方位として斜めに削(そ)ぎ落とし、その割り肌に2カ所の太柄(だぼ)(大きさは1寸2分位の正方形で、長さは1寸5分位)を建てる。
敷桁下木の鼻(端)の仕口は誂子口(ちょうしぐち)と云う。なお、敷桁乙と投掛梁甲は渡り欠け(渡りあご)とし、追掛大持継(おっかけだいもちつぎ)(台持ち継ぎ)の上部には必ず小屋束を建てる。もし小屋束がなければ、継手の役割はなさない。丁寧な場合、小屋束の根ほぞは、寄せ蟻とする。」
7)小屋梁と小屋束、小屋束と母屋の仕口
小屋束、母屋に用いられる材種は、一般的に、ヒノキ、スギ、米マツなどである。
小屋束:母屋の幅と同寸角:母屋が4寸(120㎜)幅なら4寸角、通常3尺(909㎜)間隔に設ける。
母屋 :通常3.5~4寸(105~120㎜)角。小屋束間隔が大のときは、成を大きくする(梁と考える)。
小屋束の根ほぞ(小屋梁との仕口)と頭ほぞ(母屋との仕口)は長ほぞが望ましい。
一般に多用される短ほぞ+かすがいは、揺れや引抜きに弱い。
8)二重梁、つなぎ梁
材種は小屋梁と同じ。断面はスパンにより決める。通常4寸×4~7寸(120×120~210㎜)程度。
小屋束・二重梁・母屋は、小屋束の頭ほぞを重ほぞとして一体化する方法が良。
つなぎ梁端部は、小屋束に対してほぞ差し(ほぞ差し込み栓またはほぞ差し割り楔締めにすれば確実)。
9)母屋の継手
母屋は、垂木を経て分散的にかかる屋根上の荷重による曲げの力に対して耐える必要がある。
また、小屋束・母屋の構成で桁行方向の変動にも耐えなければならない。
通常使われる継手は次のとおり。
①追掛け大栓継ぎ ②腰掛け鎌継ぎ ③腰掛け蟻継ぎ
③を用いることが多いが、強固な小屋組にするには、①②が望ましい。特に、成の大きい母屋を用いるときは①が適切。
②③を用いるときには、各通りの継手位置は、できるかぎり千鳥(ちどり)配置とし、垂木位置は避ける。
10)垂木の配置、断面と垂木の継手
垂木の間隔:通常は、1間:6尺(1,818㎜)の1/6(1尺:303㎜)、1/5(1尺2寸:363.6㎜)1/4(1尺5寸:454.5㎜)間隔で配置する(他の間隔も可能)。
垂木の材種:スギ、ヒノキ、米マツ、米ツガ
垂木の断面:軒の出、母屋間隔、垂木間隔に応じて決める。
母屋間隔3尺(909㎜)、垂木間隔1尺5寸(454.5㎜)の場合の垂木断面
垂木の継手:垂木は母屋上で継ぎ、殺ぎ継ぎ(そぎつぎ)とすると不陸が起きない。
11)垂木の母屋への納め方:垂木彫り
垂木が軒桁・母屋にかかる部分を垂木の幅、垂木の勾配なりに彫り込むことを垂木彫りという。
軒桁・母屋の側面に刻まれる垂木彫りの深さを口脇(くちわき)、勾配なりの斜面部を小返り(こがえり)と呼ぶ。
軒桁、母屋上端の小返りの終わる位置を小返り線という。
図Aは小返り線を軒桁、母屋の芯とした場合で、口脇寸法b={軒桁・母屋幅/2×勾配}となり、口脇寸法は整数になるとは限らない。
図Bは一般的な方法で、口脇寸法cを決め(たとえば5分:約15㎜)、小返り線を逆算する。
この場合、軒桁・母屋芯位置での垂木の下端は軒桁・母屋上にはなく、宙に浮く。
軒桁・母屋芯(通り芯)位置での垂木下端の高さを峠(とうげ)と呼ぶ。
図Aでは材の上に峠が実際にあるが、図Bでは仮定の線となる。
通常、設計図(矩計図など)は図Aで描くが、現場では図Bで刻む。特に指示する場合は、口脇寸法を明示する。