何事もしなくてもいい苦労はしなくてもいいものだが、その姿勢のお陰で震災直後に何故か東京で私が理不尽な目に遭ったことを今頃思い出した。なんというか怪談話というか、狐につままれたような話であった。
2011年の3月上旬に、いわゆるエコポイントの駆け込み需要という奴で、我が家もついに冷蔵庫と洗濯機を買い替える決断をするに至り、当時我が家にあったものよりややスリムだが高さはチョイ高めの冷蔵庫と、かなりスリムになった洗濯機をビックカメラで購入し、配送される日を心待ちにしていたわけである。
そして、待ってもいなかった地震の影響を幾分体験している最中に、予定よりほんの少し遅れて冷蔵庫と洗濯機が到着した。
大変な最中ご苦労さんと思っていたら、しかし、階段の踊り場で閊えて（つかえて）搬入出来ないと業者さんが言い始めた。そんなはずはない、無事に旧冷蔵庫と旧洗濯機は今の我が家に引っ越しの時に搬入できたのに何事なのかと尋ねてみたら、箱が閊えると言われた。では箱から出して下さいと頼んだら、製品の保証のために箱から出せない、箱から出して製品に傷をつけたと言われたら困るから出せない、などと言う。箱から出せば楽々運べる商品を買った客本人が頼んでいるのに出せない、運べないと言う。しまいには、箱のまま運んで階段の踊り場を傷つけても構わないのなら運んでも良いと言う。ベランダから搬入だとプラス三万円ほどしますがどうですかとも言われた。
というわけでお引き取り頂くことになった。その後、余震を味わいながらラジオでキコンキコンという緊急地震速報を聞きつつ、大きく落胆しながら返金の手続きをビックカメラで済ませ、二度とここでものを買うものかと決意した5分後には、乾電池とか非常灯とか小型のペンライトとか購入せざるを得ない屈辱を味わって帰宅の途に就いたのである。
そのほぼ一年後、つまり、今年の3月、10年以上は使っていた冷蔵庫がついに冷えなくなって買い換えざるを得なくなった。
そこで、洗濯機も一年前と良く似た感じの製品を購入しに、何故かヤマダ電機のチラシを嫁に渡されてビックカメラに出かけた。ヤマダ電機のチラシで嫁が選んで丸をした製品を「これ、ないですか」とビックカメラの店員に見せて、探してもらって、ちょっと高いですがと店員に言わせることが、嫁にとっての精いっぱいの復讐なのかもなと思った（ヤマダ電機は従来のポイントカードを廃止したことで少し安めに値段が設定できたのだろう）。そういえば、ビックカメラの「他店よりも一円でも高いときは…」というアナウンスもいつの間にか無くなっていた。
今回は何としても買うという決意も固く、階段の踊り場を通過できることをシミュレーションして確認し、写真まで撮ってアピールする準備さえしてきた。しかし、昨年、業者に断られた旨を話すと、階段の踊り場の寸法も聞かずに、「ではだめですね」と取り合ってくれない。ビックカメラが配送するのではなく、ビックカメラが委託した業者がその業者の判断で昨年無理だと判断した以上、今年も同じ業者に委託するので結果は同じであると言われた。
仕方が無い、ちょっと待てと言うことで、ヤマダ電機に同じような話を電話でしたところ、何故か同じような返答が返ってきた。運ぶ業者が全く同じと言う訳もあるまいに、詳しい話も聞かずに当時の判断が間違っていた可能性も顧みてはくれなかった。電話の向こうで流れる音楽が「ヤマーダできん」に聴こえてきたことは言うまでもない。
では、万策尽きたということでベランダからクレーンによる搬入で構わんと言って、ビックカメラの店員に頼んで、搬入業者に見積りを頼んでもらった。家に帰るときにちらっと店内の表示を見れば、「本体の寸法＋10 cmが必要です」なる注意書きが大きく書いてあり、あれれ、うちは完全に大丈夫じゃないかと思った。
そして、見積りの人がやってきて、普通に搬入出来ます、むしろ、ベランダが狭くてベランダからの搬入の方ができません、ときた。昨年もお宅のところにビックカメラが頼んだはずですが、そのときはだめだと言われた旨言ったが、よく分かりませんが、とにかく私は通ると思いますと言われた。仕事が普通に出来る人がやってきたと喜んで抱きしめるべきか、エコポイント返せと軽く突いたるべきか、何とも複雑な気分を味わった。
そんなこんなで、紆余曲折の末に購入に至った。きっと震災直後は業者が極度に守りに入って仕事が出来ない状態になっていたのか、変な人に当たっちゃったのかというところだが、こうもリスクを回避することに力を入れられると顧客は置いてきぼりになるのでかえって儲からないのだがな。
