中村勘九郎と阿部サダヲのダブル主演と宮藤官九郎の脚本で、放送開始前から大きな話題を集めたNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』。
しかし、ふたを開けてみれば第6話にして視聴率9.9%と、大河史上最速の一桁転落という不名誉な記録を打ち立ててしまい、視聴者の心を掴み切れていない印象があります。第7話は9.5%、第8話は9.3%と下げ止まらず、テコ入れ策も噂されるなど迷走状態となっています。
◆「いだてん」の見事な構成に、ファンが伏線読み合戦
宮藤官九郎の脚本と言えば、緻密に張られた伏線や練られた構成、マニアックな小ネタなど、一度ハマってしまえば抜けられない魅力をもつことで有名です。そのため、ディープで熱心なファンが多い印象があります。
『いだてん』もそんなファンたちの間では、視聴率の低さは何のその、初回から今に至るまでSNS上で様々な感想や考察が寄せられるなど、「安定のクドカン脚本!」「最初から最後までうますぎる」などと、好評な意見が多くみられます。
第1話のラストで嘉納治五郎(役所広司)が先頭でゴールした金栗四三(中村勘九郎)を抱きとめるシーンでは、第2話で四三が幼少期に治五郎に抱っこしてもらえなかったというエピソードが伏線となり、第5話でネタバラシとなる構成は誰もがうなるものでした。
しかし、その仕掛けは早い段階でSNSユーザーによって気づかれ、話題になっていたのをご存知でしょうか?
そのため、第5話の感動的なシーンでは本来得られるはずだったカタルシスをほとんど感じられず、単なる答え合わせに。感動よりも「さすがクドカン!」などと技術を褒める声が多いように感じました。
◆『カルテット』でも…制作者が困惑する裏読み・伏線読み
あまりにも裏読みや伏線読みなどの考察がすぎると、そのことがきっかけで制作者サイドが困惑することもしばしあると言います。
記憶に新しいところでいえば2017年放送のドラマ『カルテット』(TBS系)であった“時間軸がズレてる騒動”。
ドラマで映し出されていたスマホの画面、ポスターに書いてあった公演日などの時間や日付が前後していたことで、SNSでは「何か裏があるのでは?」「きっとこの時間軸のずれが絡んであっとおどろくラストにつながるはず」などと考察が繰り広げられていました。
巻き戻しされる演出もあったり、登場人物の名前も巻真紀(まき・まき、松たか子)であったりと、その考察を裏付けるものも多く、それらのことをつぶやいたツイートは一気に拡散していきました。
しかし、このことが話題になってしばらくして、公式は待ったをかけたのです。
《「カルテット時間軸ズレてる問題」というのをよく目にするようになり、ハラハラしながら見守っていたのですが、あまりにも広がっていくのを黙って見ていられず、どうにか食い止めたく思いました。》
《ドラマは基本的に第1話から時間順に進んでおります。つまらないミスで、楽しんで観てくださっている皆様に誤解を与えてしまい、心よりお詫び申し上げます。》
(「カルテット」公式Twitterより)
公式が表明したからよかったものの、このことが伏せられ最終回が終わったら、どんな印象・評価になったのでしょうか。
◆制作者側は“いやそれ伏線じゃないから…”
ファン同士で好きなものを深く語り合うことほど楽しいことはありません。SNSでは、ハッシュタグがつけられ、人気作品の感想会や考察会が常時行われています。一方で、制作者側からはこんな声も。
「好きでじっくりと見てくれるのはいいけど、勝手に推測しておいて、その読み通りに話が進まなかったら、『伏線を回収していない』と言われるのはどこかモヤモヤするんですよね」(民放のドラマ制作関係者)
「娘の名前をモブ(ちょい役)の登場人物につけたんですが、その名前がとある女優さんと同じだったために“のちに登場してくる伏線ではないか?”と噂されてドキドキしましたよ」(あるドラマ脚本家)
制作者だけでなく、前述の「いだてん」のように、伏線の裏を知ってしまったことで感動が半減したという視聴者の意見もあります。
◆SNSで繰り広げられる深読みマウンティング?
また、考察をするファンの中にも「どれだけ深読みできるか」「いかに伏線を気づけるか」のマウンティングになっている部分もあるのではないでしょうか。
NHK朝の連続テレビ小説『まんぷく』でも、主人公・萬平(長谷川博己)が様々な事業をやった末にラーメン開発に至ることを、裏読みする人がいました。「根菜切断機はラーメン開発の際に麺を延ばす機械を使うきっかけになるのでは?」「塩づくりの際に習ったかん水が、ラーメン開発の際に出てくるかん水につながるのでは?」という考察をSNSでみましたが、それらには一切触れられず、ラーメン開発は進んでいます。
このように的外れな考察も多々あるのです。
裏読みどおりに展開されて、気持ちいい思いをするのは裏読みしたその人だけなのかもしれません。盛り上がりたい気持ちはわかりますが、外野で加熱しすぎると作品の感動が削がれてしまうケースもあるでしょう。
これから1年間続くクドカンの「いだてん」。同じ作品でも、神作品になるかどうかを左右するのは様々な意味での“熱いファンたちの声”なのかもしれません。
<文/小政りょう>
【小政りょう】
映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦
日刊SPA!
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最終更新:3/3(日) 9:00
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しかし、ふたを開けてみれば第6話にして視聴率9.9%と、大河史上最速の一桁転落という不名誉な記録を打ち立ててしまい、視聴者の心を掴み切れていない印象があります。第7話は9.5%、第8話は9.3%と下げ止まらず、テコ入れ策も噂されるなど迷走状態となっています。
◆「いだてん」の見事な構成に、ファンが伏線読み合戦
宮藤官九郎の脚本と言えば、緻密に張られた伏線や練られた構成、マニアックな小ネタなど、一度ハマってしまえば抜けられない魅力をもつことで有名です。そのため、ディープで熱心なファンが多い印象があります。
『いだてん』もそんなファンたちの間では、視聴率の低さは何のその、初回から今に至るまでSNS上で様々な感想や考察が寄せられるなど、「安定のクドカン脚本!」「最初から最後までうますぎる」などと、好評な意見が多くみられます。
第1話のラストで嘉納治五郎(役所広司)が先頭でゴールした金栗四三(中村勘九郎)を抱きとめるシーンでは、第2話で四三が幼少期に治五郎に抱っこしてもらえなかったというエピソードが伏線となり、第5話でネタバラシとなる構成は誰もがうなるものでした。
しかし、その仕掛けは早い段階でSNSユーザーによって気づかれ、話題になっていたのをご存知でしょうか?
そのため、第5話の感動的なシーンでは本来得られるはずだったカタルシスをほとんど感じられず、単なる答え合わせに。感動よりも「さすがクドカン!」などと技術を褒める声が多いように感じました。
◆『カルテット』でも…制作者が困惑する裏読み・伏線読み
あまりにも裏読みや伏線読みなどの考察がすぎると、そのことがきっかけで制作者サイドが困惑することもしばしあると言います。
記憶に新しいところでいえば2017年放送のドラマ『カルテット』(TBS系)であった“時間軸がズレてる騒動”。
ドラマで映し出されていたスマホの画面、ポスターに書いてあった公演日などの時間や日付が前後していたことで、SNSでは「何か裏があるのでは?」「きっとこの時間軸のずれが絡んであっとおどろくラストにつながるはず」などと考察が繰り広げられていました。
巻き戻しされる演出もあったり、登場人物の名前も巻真紀(まき・まき、松たか子)であったりと、その考察を裏付けるものも多く、それらのことをつぶやいたツイートは一気に拡散していきました。
しかし、このことが話題になってしばらくして、公式は待ったをかけたのです。
《「カルテット時間軸ズレてる問題」というのをよく目にするようになり、ハラハラしながら見守っていたのですが、あまりにも広がっていくのを黙って見ていられず、どうにか食い止めたく思いました。》
《ドラマは基本的に第1話から時間順に進んでおります。つまらないミスで、楽しんで観てくださっている皆様に誤解を与えてしまい、心よりお詫び申し上げます。》
(「カルテット」公式Twitterより)
公式が表明したからよかったものの、このことが伏せられ最終回が終わったら、どんな印象・評価になったのでしょうか。
◆制作者側は“いやそれ伏線じゃないから…”
ファン同士で好きなものを深く語り合うことほど楽しいことはありません。SNSでは、ハッシュタグがつけられ、人気作品の感想会や考察会が常時行われています。一方で、制作者側からはこんな声も。
「好きでじっくりと見てくれるのはいいけど、勝手に推測しておいて、その読み通りに話が進まなかったら、『伏線を回収していない』と言われるのはどこかモヤモヤするんですよね」(民放のドラマ制作関係者)
「娘の名前をモブ(ちょい役)の登場人物につけたんですが、その名前がとある女優さんと同じだったために“のちに登場してくる伏線ではないか?”と噂されてドキドキしましたよ」(あるドラマ脚本家)
制作者だけでなく、前述の「いだてん」のように、伏線の裏を知ってしまったことで感動が半減したという視聴者の意見もあります。
◆SNSで繰り広げられる深読みマウンティング?
また、考察をするファンの中にも「どれだけ深読みできるか」「いかに伏線を気づけるか」のマウンティングになっている部分もあるのではないでしょうか。
NHK朝の連続テレビ小説『まんぷく』でも、主人公・萬平(長谷川博己)が様々な事業をやった末にラーメン開発に至ることを、裏読みする人がいました。「根菜切断機はラーメン開発の際に麺を延ばす機械を使うきっかけになるのでは?」「塩づくりの際に習ったかん水が、ラーメン開発の際に出てくるかん水につながるのでは?」という考察をSNSでみましたが、それらには一切触れられず、ラーメン開発は進んでいます。
このように的外れな考察も多々あるのです。
裏読みどおりに展開されて、気持ちいい思いをするのは裏読みしたその人だけなのかもしれません。盛り上がりたい気持ちはわかりますが、外野で加熱しすぎると作品の感動が削がれてしまうケースもあるでしょう。
これから1年間続くクドカンの「いだてん」。同じ作品でも、神作品になるかどうかを左右するのは様々な意味での“熱いファンたちの声”なのかもしれません。
<文/小政りょう>
【小政りょう】
映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦
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最終更新:3/3(日) 9:00
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