だいすき

基本的に自分の好きなものについて綴っていきます。嫌いなものやどうでもいいこと、さらに小説なんかもたまに書きます。

箭疾歩

2007年03月18日 00時13分19秒 | オリジナル小説
 俺はいつだって殴り飛ばしてきた。対峙した相手には手加減しなかった。どんな困難も二つの拳で乗り越えてきた。
 だって俺は漢だから。真の漢の想いは拳に宿るって信じているから。
 抑え切れない激情を。
 溢れ出す闘志を。
 拳に乗せて一直線に突き放ってきた。
 決して背が低く、足が短いからじゃないんだ。どんなに足を高く上げても、相手の頭に届かないことが多い、なんてことは絶対にないんだ。本当だぞ!



 周りを取り囲む敵の数は五人。全員が鍛え上げられた見事な体躯をしている。なんらかの武術をやっているのだろう。まったく羨ましい限りだ。一体なにを食ってなにをやれば、あんな大きくなれるのだろう。一番でかい奴なんか、その胴体に俺がすっぽりと納まってしまいそうだ。
 いや、いけない。いまはそんなことを考えているときではない。向こうはすでに臨戦態勢に入っている。俺だって、負けていられない。
 左足を一歩前に踏み出し膝を曲げる。右の膝はさらに曲げて膝小僧が地面に着くくらいだ。腰だけでなく重心全てを低くし、腕は小さく畳んで、軽く握った両の拳が胴に触れるくらい。
 小さい身体をさらに小さくした俺の構えは、知らない者が見たら笑いを誘うかもしれない。構えだけではなく、相手の数や場馴れした雰囲気からしても、震えもせず許しも請わず、怯まず立ち向かおうとする俺の姿は滑稽かもしれない。
 でも、それでもいいんだ。これでいいんだ。
 相手が何人だろうと、いくら鍛えていようと、そんなことは関係ない。奴等は云ってはならないことを口にした。謝罪を求めても頭を下げようとせず、それどころか暴力で片をつけようとしてきた。
 ならば闘うしかない。その為に、己の誇りを守る為に、俺は力を身につけてきたのだから。
 取り囲む半月形の陣が縮まってくる。天下の往来だ。当然、人通りはある。道行く人たちは突如始まった立ち回りを迷惑そうな目で見つめながら通り過ぎたり、足を止め興味深げに眺めたりしている。
 敵は一人が突出したりすることなく、すり足で皆が均等に間合いを詰めてきた。やはり闘い慣れしている。
 俺は静かに息を吸い、そして吐いた。同時にたわめていた身体を一気に解き放つ。
 狙いは右から二人目の男。五人が綺麗に動きを合わせようとしたお陰で、逆にひとりだけ動作が鈍い奴が見つかった。常人なら気づかなかったかもしれない。本人達も気づいていないかもしれない。だが、俺は見落とさない。目の良さ、というのも強さのうちだ。多人数相手ではとにかく相手の数を効果的に減らしていく、というのも定石だ。
 左足に込めた力で地面を蹴り、一瞬にして敵との間合いを詰める。肘を伸ばし、肩から真っ直ぐ伸びた右の拳は、豪弓から放たれた矢さながらに相手の眼前に迫り、驚く間を与えることなく顔の中心に直撃した。
 拳から伝わる衝撃を全身で受け止めながら着地した俺は、吹き飛んだ相手が落下する音を聞くまでもなく、自分がもたらしたものの成果をはっきりと自覚していた。
 どうだ。これが俺の絶招(ぜっしょう)――箭疾歩(せんしっぽ)の威力だ。
 胸を張り、威嚇するように残りの四人を見回す。倒れた相手が気絶しているのはわかっていたから、見向きもしない。
 いつもならここで相手は俺の実力に驚き、間抜け顔をさらすはずなのだが、今回は違った。
 仲間が一瞬にしてやられたというのに、小馬鹿にした笑みを貼り付け余裕たっぷりにこちらを見ている。
「なんだ? 仲間がやられたのがそんなに嬉しいのか」
「別に嬉しくはないが、悲しむほどでもない」
 問いに答えたのは一番近くにいる男だ。
「『烈穿手』と呼ばれる男が相手だ。犠牲は覚悟のうえ。いまの一手でお前の間合いを見切ることが出来た。次はもう、ない」
 男が構える。身体を半身に開き、やや腰を落としている。縦に構えられた拳は足と同じで右が前だ。
 その姿勢から、かなりの使い手であることはわかる。俺以外が相手なら、そこそこやったかもしれない。
 俺は臆することなく地を蹴った。必殺の箭疾歩は瞬時に間合いを零とし、体当たりの勢いをも上乗せして相手を打ち倒す。……はずであった。
 男の身体が消え、俺の拳は虚空を貫いた。消えたはずの身体は三歩先にある。見切ったのは間合いだけでなく、タイミングも、ということか。
 それでも追えない距離ではない。追撃を放とうとする俺の目の前で、男の身体が沈んでいく。
 まずい!
 思ったときには遅かった。顔面に衝撃が走る。体重移動を始めていたのでカウンターで入った。堪えきれずに身体が宙に舞う。
 地面に叩きつけられた痛みよりも、脳を激しく揺さぶられたことの方が問題だった。脳震盪とまではいかなかったが、平衡感覚が乱されすぐに起き上がることが出来ない。
「云ったろ。見切ったと。貴様の得意技はもう通用しない」
 男は勝ち誇っている。ちくしょう、こんな未熟者に負けてたまるか。
 なんとか起き上がる。ぐわんぐわん云う頭は意志の力で強引に抑えつける。人体というものは不思議だ。どうにかなるはずなさそうなのに、なぜか意志の力が勝るのだ。
 両足がしっかりと大地を踏みしめ、俺は闘志溢れる構えをみせた。
「まだやるか。無駄なことを」
 自分の合わせに絶対の自信があるのだろう。顔に張り付いた余裕の笑みはいまだ消えていない。
 武術家とはそういうものだ。不安を胸に戦う者に勝利はない。だが、慎重に。さらには必死になるべきである。己の未熟を知るものならばなおさらだ。そうでなき者にも、やはり勝利はない。
 俺は前に出た。間合いとタイミングを読んでいる限り、技に合わせて反撃することは容易いだろう。だから、それをさせぬ技術が俺にはある。
 大きく踏み込んだと見せかけて、男の一歩手前で着地する。男はすでに後ろに退がっていた。顔に驚きが浮かんでいたが、もう後戻りは出来ない。覚悟を決めて飛び込んだきた。
 同じように俺も跳ぶ。タイミングは同時。ならば、勝負を決するのは技の冴えだ。
 相手の技に合わせることに修練を費やした者と、ひとつの技を極めることに全てをかけた者の差が出た。勝負は、傍で見た者には僅差でしかなかったかもしれないが、実際には大きな差をつけて終わった。
 俺の拳を胴に受けた男は、悶絶して地に倒れた。
「いくら合わせに自信があったとて、一撃で決めれないのなら安心せずに追撃を放つべきだったな。その慢心が、お前の敗因だ」
 云い捨てて、男に背を向ける。敵は後、三人だ。



「次は俺がいかせて貰うぜ」
 前に出てきたのは金髪を逆立てた男だった。最初は五人で囲んだくせに、敵は一対一がお望みらしい。最初のは、俺の技をみるための策略なのか。だとしたら、なんともお粗末なものである。
「こい!」
 開いた両手を前に出し、金髪は構えをとった。技の流派は数あれど、基本の構えで拳を握るものは数が少ない。開いていた方が様々な状況に対処しやすいのだから当然だ。金髪と比べ、俺が異質であることは否定できない。その異質を貫き通すために、死ぬほどの努力を重ねてきた。三歳の頃より積んできた修練の成果を示すべく、俺は拳を握り力強く一歩を踏み込んだ。
 拳が、いや、腕が伝えてきたのは不思議な手応えだ。対象を貫くことなく、かといって空を切ったわけでもない。突進力が受け流され、意思とは無関係に進んでいく。なす術もなく俺の身体は宙を舞い、背中から地面に激突した。
 投げられた、と理解したのは痛みに顔をしかめながらだ。おそらく化勁の使い手なのだろう。厄介といえば厄介な相手だ。
 ゆっくりと身体を起こす。自信ゆえか、倒れた相手に攻撃をしないというのは、こいつら全員の甘いところだ。なんて思っていたのだが、片膝ついたところで迫る気配を感じた。咄嗟に防御が間に合ったのは、我ながらたいしたものだ。
 顔前に交差させた両腕に走る衝撃は、俺の身体を後方へと吹き飛ばすほどの威力を含んでいた。あえて堪えず流されることにより、かろうじて身を捻って着地する。
 息をつく間もなく追撃がきた。一気に間合いを詰めてきたのは金髪ではなく、痩身の男だった。右足を軸に立ち、巧みな蹴り技で連撃を放ってくる。
 押し寄せる波濤の如し猛攻にひたすら防御を続けていると、ふいに攻撃が止んだ。
 遂に相手が息切れしたか、と腕の隙から様子を窺うと、顔の前に旋回する相手の腰が見えた。
 ――旋風脚!
 理解すると同時に身を投げ出していた。中空で身体全体を捻り、脚力、旋回力、体重を上乗せして放つ大技を喰らっては、いくら腕で防いだとて、骨が折られる危険がある。地面を転がり難を逃れた俺はすかさず立ち上がり、箭疾歩で間合いを詰めようとした。
 出来なかった。痩身の傍らに立つ、金髪の姿が目に入ったからだ。金髪は飛び込んできた俺を待ち構え、再び投げるつもりだったのだろう。
「来ないか。賢明だな」
 手を読まれたというのに、金髪に悔しさはない。いつでも決められる自信があるのだ。
「俺の化勁は絶対防御。真っ直ぐ突っ込んでくるだけの技なんて、いつでも受け流してみせる」
「そして俺は、千の脚技を身につけている。たったひとつの技しか使えない未熟者が、俺たちに勝てる道理はない」
 痩身は技の多さが自慢らしい。ひとつの技を身につけるのに何年もかかるこの世界では、その気持ちもわからなくはない。
 痩身が攻め、金髪が守る。二人の連係に隙はないし、それが幾度もの勝利を導いてきたというのは想像に難くない。
 だが、この連係はいつか行き止まる。それが、今日だ。
 立ち上がった俺は懲りずに構えをとる。その構えは常にひとつ。俺にはそれしかなく、それで充分だからだ。
「また箭疾歩かよ。もう、飽き飽きだ」
 痩身が前に出てきた。大地につくくらい身を低くし、刈るような脚払い――前掃腿(ぜんそうたい)だ。
 跳び上がってそれを躱すと、痩身も身体を起こし右足を蹴り上げてきた。天をも突くような蹴りをギリギリで躱し、軽くその脚を押す。宙空で防御や回避行動が取れない、などというのは錯覚だ。天に与えられた運動神経と平衡感覚。さらにはたゆまぬ修練の果てに、それを可能とする者はいる。俺にそこまでの才があるというわけではないが、次になにが来るかがわかっていれば打つ手はある。
 脚を押したお陰で俺の身体がやや後に流れ、痩身の次の蹴りは鼻先を僅かに掠るだけに止まった。躱していなければ確実に顎が砕かれていただろう。それだけの威力を秘めた左右二連脚――連環腿(れんかんたい)だった。
 開いた間合いは二歩。普通であれば箭疾歩の間合いではない。痩身もそう考えただろう。強気で突進してきた。俺が離れて間合いを開けようとするのを防ぐつもりだ。
 だが、俺は退がらなかった。それどころか、箭疾歩を繰り出した。
 相手に突撃し、体当たりの要領で拳から激突する。確かにそれが箭疾歩だ。技に勢いをつけるための距離を必要とするのも間違いない。性質上、奇襲技ととられるのも真実だ。だからこそ放った。奇襲としてこれほどのタイミングはなく、威力を出すための条件も揃っていたのだから。
 俺が前に出てくると思っていなかった痩身は、あきらかな驚きを見せた。俺はその隙をつき、さらには前に出てきた男の体重移動を利用し、箭疾歩の威力を稼いだ。このくらいの合わせなら、俺にも出来る。
 崩れる痩身に目もくれず、俺は金髪に突進した。相手が動揺している隙をつく算段だ。
 相手の攻撃を受け流し、反撃の隙を作る技術。昨今では化勁をそのようなもの、と捉えている者が多いが、それは間違った認識だ。本来の化勁は力の流れを支配し、攻防一体の冴をみせる超高度技術だ。受け専門の技なんかではなく、真に極めし者は自ら果敢に攻めてくる。だいたいが武を極めようという者など気性の荒い者がほとんどだ。立ったまま大人しく待ち続ける技など生まれるはずがない。
 金髪は防御担当。それがわかった時点で、俺が金髪が真に化勁を極めていないことを悟っていた。そうであるのなら、倒しようはいくらでもある。
 箭疾歩の歩法は疾風迅雷。奇襲にも使えるが、目くらましにも効果を発揮する。あえて相手の周りを跳び回ることでかく乱し、隙だらけの背後から一撃で決める。
 残りはひとり。筋骨隆々の大男だ。



 仲間が全てやられたというのに、大男は少しも動じていなかった。最初からそのつもりだったのだ。顔に意地の悪い笑みが浮かんでいる。
「仲間は捨て石か?」
「そのつもりだったが、その役目すら果たせなかったようだ。仕方ない、本気でやらせてもらう」
 両手を広げ、無防備に正中線を晒す。
「さっ、好きなように打ち込んできな」
 本気と云った割りに舐めすぎた態度だ。持って生まれた体格に寄り掛かり、さしたる苦労もせずにここまで来たのか。その自信を打ち砕くべく、俺は跳んだ。
 必殺の箭疾歩を正面から受けても、大男はびくともしなかった。それもその筈、拳から伝わる感触はまるで岩にでも打ち込んだかのようだ。
「どうだ、俺の肉体は! 硬功夫(いんごんふー)で鍛え上げられたこの身体には、天を穿つ、といわれた貴様の一撃も通用しない。そして!」
 云いながら、大男は掌打を振り降ろしてきた。なんてことのない一撃に見えて、まるで木槌で打ちつけられたかと思うほど重く、強烈な一撃だった。両腕でしっかり防いだものの衝撃は脊椎を駆け抜け、威力を吸収しようとたわめていた膝が崩れそうになる。
 奥歯を噛み締め衝撃に耐えていたところへ、今度は無造作に振られた横薙ぎの一撃が来た。堪らず吹き飛ぶ俺の姿は、大男にしてみれば貧相な玩具にしか見えなかっただろう。
「硬功夫で鍛えた俺の一撃は、岩をも砕く破壊力を持つ。小柄な体躯でありながら、百を越える勝利を手にした貴様の最強伝説も今日で最後よ」
 武の道に進んだのは三歳のとき。野試合で始めて勝利を手にしたのは七歳。以来、十六のこの時まで負け知らず、とまでは云えないが数多くの勝利を手にしてきた。その自負が、これまで積んできた修練の数々が、ここで膝を屈するを良し、としなかった。
 勝ち誇る男を前に、俺はふらつきながらも立ち上がる。
「ほう、まだやる気か?」
 当たり前だ。この程度の痛み、これまでに何度も乗り越えてきた。
「さっきも云ったが、手加減はしないぞ」
 それでいい。これまでにした真の立ち合いは、もっと過酷だった。
 大男が突進してきた。無造作に繰り出す攻撃の数々は一見でたらめに見えて、その実ちゃんと基本を身につけた者の技であることがわかった。そこに硬功夫が加わる。硬功夫は岩などの器具を使って、皮膚や筋骨を鍛える鍛練法だ。熟練者ともなれば、刀剣の刃を折るという。大男はそこまでではなかったが、振り回す掌打や拳には鉄の如き硬さがあり、防ぐだけでダメージが俺の身体に蓄積され続けていた。
「おらっ!」
 猛攻を耐え忍ぶ俺に対し業を煮やしたのか、大振りな蹴りを放ってきた。倒す蹴りではなく、吹き飛ばす蹴り。間合いが大きく開いたところで、大男が挑発してきた。
「お前の間合いだ。馬鹿のひとつ覚えの箭疾歩を打ってこい。そして、自分の無力を実感しながら敗北を噛み締めるんだ」
 武術家というのは業が深い。ただ勝つだけではなく、相手の特技を打ち破り、その心をも折ろうとする者が数多くいる。心が折れぬ限り、何度でも立ち上がる者が多いからかもしれない。
 絶対の勝利を確信した大男は、まさに俺の心を折るのが狙いだ。そして俺も、大男の心を折る気でいた。
 静かに間合いを詰める。箭疾歩ではなく、大男の間合いだ。
「舐めているのか」
 大男の顔は滑稽なほど真っ赤であった。馬鹿にするのに慣れてはいても、されるのには不慣れなようだ。
「違う。勘違いを正しているんだ。俺の箭疾歩はこの間合いだ」
「そうかよ。じゃあ、打ってみな」
 打てるものならな、と台詞は続くのだろう。渾身の一撃が頭上から降ってきた。


 武の世界にはこういったことわざがある。
「千招を知るものを怕(おそ)れず、一招に熟練するものを怕れよ」
 招とは技のことだ。つまり、色々な技を使うよりひとつの技を極めたほうが良いってことだ。
 これを始めて師匠に聞いたときは小躍りした。いろんなことをやるよりは、ひとつのことをやった方が遥かに簡単、と思ったからだ。
 箭疾歩に出会った俺は、一目見た瞬間に運命を感じた。当時から小柄だった俺は自分の非力さに悩んでおり、矢の如く相手に迫っては一撃で打ち倒すその威力に憧れを抱いたのだ。さらに付け加えるならば、一瞬にして間合いを詰め相手を倒す姿が格好良かった、というのもある。
 そんな少し浮ついた気持ちから始めた修練だったが、その過程は熾烈を極めた。
 箭疾歩を身につけること自体はさして難しくなかった。独特の構えと歩法により間合いを詰め、ピンと伸ばした腕の先にある拳で相手を打ち倒す。ほとんどの者が数回で動きを覚え、実戦で使えるようになるまで練習を繰り返す。だが、熟練するとなると、その技で如何な相手をも打ち倒そうとするのならば話は別だ。
 一撃必殺の威力を身につけるために修練に修練を重ね、効果的に放つためにはどうすればいいのかを知るため他の技の研究もした。他流試合だって数え切れないほどこなしてきた。
 その経験から、奇襲技である箭疾歩を成功させるために、相手に隙を作る方法を身につけた。普段は俺の小柄な体躯が隙を作る。そうでないときは挑発やかく乱で隙を作る。
 今回は間合いを詰めることによって、相手の隙を作りだした。振り下ろされた一撃はあきらかに力が入りすぎていた。それを化勁で受け流す。泳ぐ身体。これで相手は無防備となった。どこにでも、好きなところに打ち込める。
 俺は身体を沈め、力を全身に溜め込んだ。相手の身体は鋼の如し。技に必要な距離は零。それが、どうした。
 俺は箭疾歩を絶招まで高めた。絶招とは奥義や切り札のことをさす。ゆえに、俺の箭疾歩は絶対無敵! 零距離であろうと一撃必殺!
 身体中の力を一気に解放する。拳を天高く突き出し、一直線に飛翔する。
 それはまるで斉天大聖の持つ如意棒の如く伸び、神器に劣らぬ威力でもって大男の顎を粉砕した。
 巨体が舞い、地に落ちる振動よりも、拳から伝わるしびれが俺に勝利を実感させてくれた。
「悪くない腕だったが、喧嘩を売った相手が悪かったな。これに懲りたら、二度と俺をチビと呼ぶんじゃない」
 いまも倒れたままの五人に云い捨てて、俺はその場を後にした。

2 コメント

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読ませていただきました! (綾辺)
2007-03-19 00:11:53
確かな知識に裏打ちされた丁寧な描写、単純な力のぶつかり合いではなく頭脳を駆使した技の読み合い、そして危機からの逆転。
素晴らしく高レベルなバトルシーンを見せていただきました。

いや、本当に欠点を見つけるのが難しいです(汗)
あえてあげるとするならば、敵がちょっとお馬鹿だったり油断する奴ばかりだったのが惜しいかなと。
そういう流れに持っていく主人公の戦い方が上手いのだ、とも言えるんですけどね。
主人公と同レベルの使い手との戦いも見たかったなぁと思いました。

あとは、主人公のダメージレベルかな。
けっこう攻撃を受けていたので、そのダメージが主人公の攻撃に影響を及ぼす描写があっても良かったと思います。
「膝に力が入らなくて踏み込みが浅くなってしまった」とか、「硬功夫で強化された身体に打ち込んだため、拳を痛めてしまった」などなど。
そこから派生する危機があっても面白かったんじゃないかと思いました。

僕が思いつけるのはこんなところですね。
いいものを読ませていただきました。
アクションを書く上で勉強になるところがたくさんありましたよ。
さらに強い奴と戦う続編をぜひ書いてください!
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遅くなりました。 (kou)
2007-03-23 01:01:13
返事が大変遅くなったことをお詫びします。
今回この小説についたコメントには返信しないでおこう、と思っていたのですが、やはりそれは失礼かなと思い、考えを改めました。
とはいえ、ここで書ける事は「読んでくれてありがとうございます」以外にありません。
詳しくは『蛇足3』に書いてありますので、お手数をおかけしますがそちらを読んでください。

いや、丁寧な口調だけどどう取り繕っても失礼さは消えないかな。
ホント、ごめんなさいです。
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