理乃美

ソフトとハードと論理の覚え書き

トランスリニアバイアスアンプ再び

2020-05-07 10:37:40 | 電子工作

前回のシミュレーションでは、出力段を電流源で駆動してトランスリニアバイアス出力段の振る舞いを調べた。

今回は、初段・電圧増幅段まで含めたゲイン20dBのパワーアンプを構成。

初段は、2SK117の差動、電力増幅段はカレントミラー負荷というありきたりの構成。使ったトランジスタのモデルは、2SK117 GRはトラ技で配布しているもの。パワートランジスタの2N3055, MJ2955はON Semiconductorのサイトから入手。他は汎用トランジスタ2N2222, 2N2907でLTSpiceに付属のものを利用。

トランスリニアバイアス出力段のアイドリング電流が400mA程度になったことに合わせ、ダーリントンPPではアイドリング電流が420mA となるバイアス電圧3.1V (AB級)にして比較。1kHz 2V p-p 入力時の出力のFFTで歪成分を見ると以下の通り。低次の歪に大きな違いはないが、高次の歪は、通常のダーリントンが高い周波数成分まで続くのに対してトランスリニアバイアスだと速やかに歪成分が落ちて行くのが好ましい。

ただし、トランスリニアバイアスでのオープンループゲインはこのとおりで、いったん位相が回ったあと戻る複雑な振る舞い。この回路定数でこのモデルだと発振はしないが実際に物を作った時にどうなるのだろうと気になる。

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Joule thiefの仕組み

2020-02-11 10:28:02 | 電子工作

ジュールシーフ回路の発振の原理を考える。

どういう仕組みでトランジスタがターンオフするのか、しばらく考えて次のような仕組みだと気づいた。

次の図は、LTspiceでトランジスタのコレクタ電流(赤)とベース電流(50倍 水色)、ベース電圧(青)とコレクタ電圧(緑)を表示したもの。

まずは、L2に電流はたいして流れていないが、ベース電流 Ib は流れ始めたところから始める。ベース電流が流れたのでコレクタ-エミッタ間は導通し、コレクタ電圧は0V付近だ。だがコイルに急には電流が流れない。そこから徐々にコイルに電流が流れ始め、コレクタ電流Icとしてトランジスタに流れ込む。Ic < Ib * hfe の間はトランジスタが電流を全部流せるのでコレクタ電圧は0V付近にとどまる。ところが、Ic = ib *hfe を超えると、それ以上電流をコレクタに吸い込めないので、コレクタ電圧は急上昇する。L2へかかる電圧の変化はL1に反映され、ベース電圧が下がりベース電流が減少し、ということでコレクタ電流が流れなくなる。が、コイルは電流を流し続けようとするのでコレクタ電圧は電源電圧を超えて跳ね上がりLEDが点灯する。コイルに蓄えられたエネルギーがLEDで消費されるにつれコイルに流れる電流は減りコレクタ電圧は下がると共にベース電圧は上昇し、やがてベース電流が流れ始める。で最初にもどった。

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Joule thiefの実験

2020-02-08 23:20:28 | 電子工作

トラ技のバックナンバーを読んでいたら、ジュールシーフ回路[1]というのが目に付いた。中途半端に使いかけの電池がいくつかあって、もったいないなぁと思っていたので試してみることにした。Wikipedia にもJoule thiefの記載がある。[2] 

まずはコイル。手持ちのジャンクに、5ターンの巻き線付きのトロイダルコアで、DE-5000で測ると97.39μH @100kHz. (Q=25.3) というのがあった。トラ技の記事よりインダクタンスが一桁大きいが、まあ試してみよう。トランジスタは、定番の2SC1815 (秋月電子通商で購入したもの)。LEDは、手持ちの赤色LEDを2個直列にした。赤色LEDは順方向電圧が低いので乾電池に直結でも光ってまうので、2直にして乾電池の電圧では光らないようにした。

で、ブレッドボードに組んだ結果がこちら。見事に動作してくれた。

トランジスタのコレクタ電圧をオシロで見たのがこちら。

LTspiceでシミュレートしてみたのがこちら

シミュレーションでは、実験回路より周期が長いが 使っているLEDの特性がシミュレーションで使ったものとはだいぶ違うだろうから、まあこんなものだろう。

シミュレーションでLEDに流れる電流(青)とトランジスタに流れる電流(緑=コレクタ電流)を見るとこうなる。これだけ見ると、LEDよりトランジスタにたくさん電流が流れいて無駄使いしているように見える。が、電力で見ると別。その次の図で、赤はトランジスタの(コレクタ電流による)消費電力、緑はLEDの消費電力で、青はトランジスタのベース電流による消費電力。ざっと見て、緑の囲む面積は赤の囲む面積の10倍はありそうなので、電力効率は90%ということだろう。

[1] 小川 敦, "バーチャル・スタジオ26 もったいない!使い古しの乾電池でもLEDを明るく点灯する回路", CQ出版, トランジスタ技術 2016年 4月号  92-93, 

[2] https://en.wikipedia.org/wiki/Joule_thief

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Spresenseでデジタルマイクを使ってみる

2020-01-05 16:50:19 | 電子工作

SPRESENSEでデジタルマイクを利用する実験をしたが、少々てこずったのでその記録。

 1. ハードウェアの準備

 2. Arduino チュートリアルの「WAV形式で録音する」を動かす

   3. 結果

 ----------

1. ハードウェアの準備

   チュートリアルからリンクが張られているが、デジタルマイクを利用するためには拡張ボートの改造(というほどでもない)が必要。

   R49/R50 の切り替えはマイクバイアスの代わりに電源1.8Vを供給するためのもの。

   JP14をショートさせるのは、カップリングコンデンサをバイパスするため。JP14に「ショートジャンパを使用するのが便利」と書いてあるがどうだろう。

 

 ここでまず躓いたのがR50の0Ωチップ抵抗の除去。普段使いのはんだごてでは半田が溶けない。落ち着いて考えれば、今時の電子製品だから無鉛はんだを使っている。有鉛はんだ向けのこてじゃぁだめだ、ということで、ステーションタイプのはんだごてに取り換えて、こての温度を無鉛はんだむけに上げたらOK.

 次に、JP14だが、秋月電子でピンヘッダーとジャンパを調達してきたが、それが失敗。秋月のハーフピッチ用ジャンパは、実測で厚みが1.6mmあった。ジャンパを一つだけ刺すなら問題なし。二つ並べるのも、まあ可能。だけど、三つ並べて刺すのは不可能。JP14は四つ並べて刺すことになるので、こりゃNG. 結局、ピンヘッダーは使わず、ジャンパ線をとばした。

 

 マイクは、「使用できるデジタル・シリコンMEMSマイクの例」にあった SPH0641LU4H-1 をマルツ経由で購入。

   現物を見てそのサイズに引く。Webサイトの製品写真にだまされた感じ。aitendoで投げ売りされていた基板をつかってICピッチに変換。老眼にはつらい作業で、タミヤのヘッドルーペ にお出まし願った。

全体としてはこんな感じ

 

2. Arduino チュートリアルの「WAV形式で録音する」を動かす

母艦は、Windows10のPC.

「スタートガイド」に従い、Arduino IDEや USBドライバーのインストールは SPRESENSEのWebサイトに記載のとおりですんなりOK.

「LEDのスケッチ」も順調に動いたが... 実は、ここまではメインボードと拡張ボードがちゃんと結合されていなくても動いてしまう。あるサイトのQ&Aを読んで、念のため確認したらメインボードと拡張ボードとの嵌め合わせが不十分だった。

次に「チュートリアル」に従いまずはDSPファイルのインストール。といっても、FAT32フォーマットしたmicroSDカードにダウンロードしたファイル4つを置くだけ。microSDは、class 10の16GB。新しく買ったのではなくラズパイで使っていたもの。

で「ビープ音を鳴らしてみる」をすんなり終えたあと、再生系のサンプルは飛ばしてマイク利用のサンプルに進んだのだが、そこでいろいろと...

最終的には、「WAV形式で録音する」を動かすことができた。

「WAV形式で録音する」のスケッチの名前はrecorder_wav. 電源が入ったら10秒ほどステレオで録音してSDカードのルートディレクトリにSound.wavという名前のファイルに書き出すというもの。

オリジナルの recorder_wav からの変更点は、setRecorderModeのパラメータだけ。最終的には、以下のパラメータでまあまあうまく動いた。

  theAudio->setRecorderMode(AS_SETRECDR_STS_INPUTDEVICE_MIC,0,16*1024,true);

第2パラメータはマイクゲインなんだけど、デジタルマイクの場合は減衰しかできない。なので0. 減衰させたい時はマイナスの整数値を入れる。

第3パラメータはバッファサイズ。この値が不適当だと、Sound.wavファイルができても録音が空だったり、途中だったりとかするようだ。

第4パラメータはデジタルマイクかを示す値なので、true.

なお、ハードウェアのDCLKピンだが、デジタル録音中のみクロックが出力される。最初、ハードウェアのチェックでDCLKにクロックが来ていないため拡張基板の改造をしくじったかボードを壊してしまったかとも思った。

で、このスケッチをSPRESENSEに書き込んで動かすとmicroSDカードのルートにSound.wavというファイルができる。microSDカードを取り出してPCで読みだせば録音を確認できるのだが、... 音がとっても小さい。

 

3. 結果

  デジタルマイクは、携帯とかに使われている。怒鳴り声の口元がフルスケールになるよう作られているから、離れた場所のしゃべり声が小さい信号になるのは当然ということだろう。

 だが、こちらの目論見は、マイクアレイを使ったビームフォーミングなどの実験。なので音声信号自体に十分な振幅が欲しい。8チャンネル取れるからとデジタルマイクを選んだのは失敗だったかな。

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トランスリニアバイアスとプッシュプルとの比較

2019-09-22 15:16:07 | 電子工作

前回は、B級プッシュプルとトランスリニアバイアスとを比較したが、今回は範囲を広げてAB級やA級も含めて比較してみる。トラジスタはデフォルトのモデルを使用。トランスリニアバイアス回路は、「図5 初代アンプの出力段の簡略化した回路」として示されていたもの。

1KHzの正弦波の出力をFFTして、最も大きい高調波成分が基本波に対して何デシベルかを表にした。

 

B(0.95V)

AB(1.3V)

A(1.9V)

トランスリニアバイアス

大信号

(28.28V p-p)

-74.9 dB (3)

-48.9dB (3)

-79.8dB (3)

-64.5dB (3)

小信号

(2.828V p-p)

-55.7 dB (3)

-101dB (3)

-122dB (3)

-69.4dB (3)

微小信号(0.2828V p-p)

-97.8dB (3)

-144dB (3)

-155dB (16)

-105dB (3)

 

AB級は、原理からして分かるようにある振幅から歪が増加する。B級は、今回 28Vp-pの信号に対して最良となるようバイアスをとったので途中の電圧で一旦歪が増える。トランスリニアバイアスだと、決して歪自身は小さくないが、振幅で歪率が大きく変化することはない。

さて、これで良いのか?

 

[1]:  黒田 徹、「ひずみ率0.0005%! 40W高効率パワー・アンプの製作」、トランジスタ技術 2019年5月号、p179-189.

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