ばあばの病院にお見舞いに行く。
病院での生活は退屈で、本も読み返し、テレビも見ずに、ベットに座ってじっとしていた。
それでも、あの介護器械から解放されて、徐々に、歩行器、杖だけでも歩けるようになった。
ひとまず、元に戻ったのだ。
あとは、腰をなるだけ曲げないことと、筋肉をそれなりにつけることと、無理をしすぎないこと。
手首の補強に入れていた金属も取れたのよ。
ばあばが言った。
体内に金属が入っていることで、ばあばは器械的肉体になっていた状態から解放され、金属から解放され、元の生身の人間になっていくのだ。
繋ぎとめていたものが外されたことで、硬質なものから、軟質なものへと様変わりしていく。
心なしか、痩せていたのもあるが、軽やかな妖精のように、髪も体も声もどことなく、ふわふわとしている。
人間は、生まれてこのかた、ずっと、代替物で生きながらえていたのだ。
食べるということで、補強され、改造され、入れ替わっていった骨血肉も、食べることなく、そのものを変えることができるようになっているのだ。
生物(なまもの)でなく、金属、強化プラスチックでも。
自分の同化しきれずとも、なんとか、やってきたのである。
水晶体も入れ替えなきゃならないのよ。
ばあばが言った。
白いものが黄色く見えたり、オレンジにまで見えたりするらしい。
夫が言った。
黄色が緑に。とか。
倅が言った。
水晶のフィルターがかかっているだけで、色が変わる世界。
色眼鏡を通り越した、色眼球。
目の中の水晶体の濁りが出てきたらしく、ちゅうっと抜いて、入れ替えるらしい。実家の母も、以前、手術をやっていたが、今は日帰りでも、手術ができるという。
目にもっと光を。そのままの光を。
そういえば、初日の出、見ました?
ばあばに聞いた。
ここからは、海が見えるけど、日の入りしか見えないのよ。
ばあばは言った。