新・アドリアナの航海日誌

詩と散文、日記など。

夏の名残の薔薇

2024-08-04 09:52:35 | ポエム
「夏の名残の薔薇」


夏の終わりに咲き残る
一輪の薔薇
日ごとの日差しに耐えながら

荒ぶる風に吹かれては
一輪の薔薇
なお高く空を仰ぐ

あれは心の奥にしまったままの
消えない夢
愛の忘れがたみ

はなびらにそっと触れる
夢の続きをなぞるように
愛の名残を惜しむように

野いちご摘み歌

2024-07-28 22:15:12 | ポエム
「野いちご摘み歌」

牧人の角笛が
風に乗って聞こえる
草原を吹く風が
娘たちの歌をはこぶ

  君を思って
  千年の時が過ぎた
  私はもう年老いた
  愛しい君はどこに

野いちごを摘みながら
娘たちは歌う
風にゆれる髪 光る汗
篭には赤い野いちごの実

  君を待って
  千年の時が過ぎた
  季節は移り人は去り
  愛の日々はどこに

牧人の角笛が
山並みにこだまする
草原を吹く風が
遠い昔の歌をはこぶ

雨の歌

2024-07-28 22:13:54 | ポエム
「雨の歌」

ラフマニノフの調べが
雨の音に混じる夜

ひとり小さな部屋で
君を思い過ごす

こんな夜は雨がいい
こんな夜はひとりがいい

ラフマニノフの調べが
立ててゆくこころの波

レモンソーダのグラスに
ランプの灯が揺れる

昨日までの夢を
雨が消していっても

こんな夜は雨が好き
こんな夜はひとりが好き

ダスキン・ホフマン先生のことば

2024-07-25 05:39:13 | 今日の気になることば
詩は
『今・ここ』と永遠をつなぐこと」
「ことばの奥・世界の奥に行けるのは詩である」
「詩は虚無から意味を回復する」

詩は

2024-07-14 08:52:55 | ポエム

詩は

詩は
見えない星のひかり
真っさらな地図帳
いつかなくした部屋の鍵 
道端にひっそりと咲く草の花

詩は
夏の野に唸るミツバチ
泣きつかれた子どもの涙
遥かな窓辺に灯るあかり
うっかり飲み込んでしまったコケモモの種

詩は
戒律のない伽藍
空を自在に泳ぐ魚
傷口に貼られた血止め草
そして
あなたとわたしを結ぶ神の手

明日雨が上がったら 

2024-03-29 21:01:47 | ポエム
明日雨が上がったら            


明日雨が上がったら
コーヒーを飲みませんか
あの店で
明日雨が上がったら
レインコートを脱いで
あの席に座りましょう

この星の四十五億年の物語のなかで
私たちはつかの間
街灯のまわりを群れ飛んでいる
ウスバカゲロウのようなものだと
だからいっそう一日が愛おしいと
そんな話をしたことがありましたね
ずいぶん歳をとってしまったある日
ふふ 冗談みたいに笑いながら

明日雨が上がったら
コーヒーを飲みませんか
あの店で
そして
明るい春の陽射しのある窓辺で
二匹のウスバカゲロウの
小さな小さな物語を語りましょう
誰もしらないどんな本にも載っていない
ささやかな物語を

メモラビリア

2024-03-28 06:04:55 | ポエム
メモラビリア(*)

月の海にうかぶ
椰子の実ひとつ
茉莉(まつり)花(か)の花香り
びろう樹ゆれる島

ふるさとは海のかなた
オレンジ実る南のくに
はだしの足をぬらす波
夕陽にきらめく波の面(おも)

ああ いつの日か
訪ねみん
君とともに

波が忘れていったのは
欠けた小さなさくら貝
ふるさとは時のかなた
はるかなる夢のかなた

椰子の実 椰子の実
あれからどこへ
行方もしれず波のまにまに
               *ラテン語 追想録

舞踏会に行けないシンデレラ

2024-03-17 06:17:20 | ポエム
舞踏会に行けないシンデレラ

カボチャの馬車にのって
シンデレラは舞踏会へ行くものよ
どんな絵本にも
そう書いてある
そして
すてきな王子さまに出会うの

そんな物語を夢見ていたわ
けれどわたしは
舞踏会に行けないシンデレラ
今日も残業
カボチャの馬車じゃなくて
通勤ラッシュの満員電車

でもいつか
ガラスの靴をもって
探しに来てくれるかしら
美人じゃないけどわたしは
こころやさしいシンデレラ
灰のなかから
夢をみつけられる

カボチャの馬車にのって
シンデレラは舞踏会に行くものよ
そしていつかきっと
すてきな王子さまに出会うの



物語詩「青い花」

2024-03-17 06:15:23 | ポエム
物語詩「青い花」

目次 手紙
   迷える羊
   青い花
   魔王の影
   道しるべ
   はるかなるポルトガル
   月の浜辺
   泉のほとり
   魔法のランプ
   愛は
   



手紙

ある日わたしに
届いた手紙
文字のない
真っ白な手紙

ひらくと
風の音がした
波の音がした
遠いくにの香りがした

ひらくと
誰かがわたしを
呼ぶ声がした
それはあのひとの声

すべてがわたしを
旅へとさそう
すべてがわたしに
旅立てという



迷える羊

わたしはストレイ・シープ
迷える羊
群れから離れて
野をさまよう
菩提樹のそばで憩い
せせらぎの水を飲み
星空の下で眠る

わたしはストレイ・シープ
迷える羊
きっとどこかで待っている
探し求めるひとは
どんなに遠くとも
いつかたどり着こう

わたしはストレイ・シープ
迷える羊
群れから離れて
野をさすらう



青い花

どこかに
はるかな荒野(あれの)に
咲くという
まだ誰も見たことのない
青い花

月のしずくをあびて
一夜(ひとよ)だけ
野に咲くという
青い花をさがして
旅だったひと
いまはどこに?

どこかに
はるかな荒野に
咲くという
まぼろしの青い花
それはどこに?


 魔王の影
 

暗い森をおおう
大きな影
あれは魔王
魔王の影
白いフクロウをお伴に
旅人を襲う
愛を憎む王は
愛し合うものたちを
引き離す
闇のなかを歩むわたしに
襲いかかる大きな影
黄泉の国へと
わたしを突き落とす
おそろしい魔王の影



道しるべ

人生は
道しるべのない旅
一通の手紙を胸に歩く
いまはただ
風と星を頼りに



はるかなるポルトガル

ゆっくりと
坂道をのぼれば
ひろがる美しい海

街には
ファドの歌声
オレンジの香り

はるかなる西の果て
ひとを訪ねて
ここまでたどり着いた

岬に佇めば
荒々しい風が
すべて忘れよという

ああ
ポルトガルの海よ
あのひとはどこに



月の浜辺

月の浜辺あるけば
潮風が頬をなでる
空にはまたたく
サザンクロス

月の浜辺あるけば
足元によせる細波(さざなみ)
寄せてはかえす
銀のレエス

眸とじれば
椰子の葉のざわめき
熱くよみがえる
ひとの面影




泉のほとり

泉のほとり
疲れたからだ休めて
冷たい水を飲む

水よ 水よ
空を映しているように
置いてきた
あの街を映してほしい

水よ 水よ
映してほしい
あのひとの姿を
これから歩む道のりを

この美しい水の鏡に
水よ 水よ
こころあらば


魔法のランプ

どこかにあるという
どんな願いもかなえる
魔法のランプ
暗い森の奥深く
ナイチンゲールの鳴く
樹の枝に
あるいはそれは
小川のほとりの蛍(ほたる)草(ぐさ)

どこかにあるという
どんな願いもかなえる
魔法のランプ
あるいはそれは
窓辺にともるちいさな灯り
あるいはそれは
時の扉のむこうに
ひっそりと咲く青い花

愛は

愛は駆けてゆくだろう
どこへでも
愛は超えてゆくだろう
時の扉さえ

愛は一通の手紙
愛は道しるべ
愛は心を映す泉
愛は魔法のランプ

そしていつかきっと
愛は見つけるだろう
さがし続けるひとにだけ
その姿をみせる
まぼろしの青い花を





降り始めた雪に

2024-03-17 06:08:25 | ポエム
降り始めた雪に

ひらら ひらら
てのひらに
ひらら ひらら
並木の木々に
ひらら ひらら
家々の屋根に
ひらら ひらら
町いちめんに

いつのまにか雪が
真っ白に
世界を変えてゆくなら
いつのまにか雪が
町中を眠らせてゆくなら

この思いも
雪の中に埋もれて
ちいさな結晶になるだろうか
いつか
凍れる花のように
雪のなかに咲くだろうか
ひらら ひらら
ひとひらの
うつくしいことばになって
あのかたの胸に届くだろうか

あなたに

2023-09-06 05:18:50 | ポエム
あなたに

せめて一篇でも
どこにもないうつくしい詩を
とどけたいとおもうのに

せめて一篇でも
だれよりもやさしい詩を
おくりたいとおもうのに

書ききれない
書いては消し消しては書く
思いを告げきれない恋文のように

きっとどこかに
置きわすれてきたのだろう
言葉のつまったたいせつな箱を

夕べの山畑でキジが鳴いた
夕陽のかがやくなか
声をかぎりに

そんなふうに伝えられたら
たった一行でいい
そんなふうに綴ることができたなら

あなたに贈るだろうに
この地上で偶然にも
おなじ時を生きているあなたに

一本のコスモスのように

2023-03-26 17:10:58 | フォト・ポエム
一本のコスモスのように


一本のコスモスのように
風にゆられる茎でありたい
風にゆられる茎であっても
決しておれない茎でありたい

一本のコスモスのように
ちいさな花をつけたい
よごれた泥のなかでも
よろこんで咲いていたい

一本のコスモスのように
まあるい少女の手につまれたい
一人ぼっちの少年の口笛を
だまってきいていたい

一本のコスモスのように
町いっぱいをかざりたい
冷たい風のなかでも
灯りのように咲いていたい

フランシス・レイもバッハも

2022-10-09 22:12:02 | ポエム
フランシス・レイもバッハもメンデルスゾーンも
あなたとは聴かなかった
ゴッホもマリー・ローランサンもモジリアニも
あなたとは見なかった

何と長い時間を別々に過ごしたことだろう
大都会の交差点の赤信号で止まったとき
となりにいたかもしれないあなた
わたしが駅のベンチに腰掛けていたとき
通り過ぎた電車のなかにいたかもしれないあなた

カップに淹れたてのコーヒーを注ぎ
ミルクを入れる
木洩れ陽をあびながらひとりで飲む
百年もないいのちの途中で出会い
そしてうまく触れ合えずに過ぎてゆくひとよ

フランシス・レイもバッハもメンデルスゾーンも
あなたと聴きたかった
ゴッホもマリー・ローランサンもモジリアニも
あなたと見たかった

コーヒーのように
こころはカップのなかには入りきれない
それは木洩れ陽のように
たださんさんと散らばるだけなのかもしれない

フランシス・レイとバッハとメンデルスゾーンが流れて
いつ知らず人生はやさしく通り過ぎる

夕べの夢

2022-08-26 15:51:19 | ポエム
 夕べの夢


夕べの夢に 訪れたのは
なつかしい かのひとか

夜半の嵐が 窓をたたき
枯葉舞う 冬の夜のこと

そのひとは 手をあげて 
まっすぐに あゆみ来る

夕べの夢に 訪れたのは
なつかしい かのひとか

今はもう 会えないひとの
微笑みに 目覚めて泣いた

外は木枯らし 南天の
赤いちいさな 実がゆれた


何のために

2022-06-20 21:06:26 | ポエム
何のために

何のために今日を生きる
疲れた体を横たえもせず
何のために明日を思う
星のない夜空見つめて
何のために探し続ける
闇を照らすかすかな光を

愛する人よ
ただあなたに届けるために
見えない虹を

何のために作り続ける
いつかは壊れてしまうのに
何のために紡ぎ続ける
誰もみな忘れてしまうのに
何のために歌い続ける
夢は消えてしまったのに

愛する人よ
それでもあなたに手渡すために
消えない虹を