深海生物研究者の日常

思いついたときに思いついたことを書きます

研究者の説明責任

2009-11-23 20:47:14 | 日常,つぶやき
仕分け以来,たくさんの方が,自分の意見を発信するようになりました.たいへんいいことだと思います.

その中で多い意見が
「確かに今回の仕分けは,基礎研究に対して配慮がなさ過ぎる.しかし,研究者も国民に対して研究の大切さ,研究内容の有用性をきちんと説明してきたのか?」
という主旨のものです.

言いたいことはわかりますが,僕の意見は,「研究者にこれ以上何をしろというのか」です.
もう十分すぎるほどやっています.これ以上増やされると研究をする時間がなくなってしまいます.おそらくこのように思うのは僕が分類や進化を研究しており,比較的一般に人にもわかりやすい分野であるために,ことあるごとにイベントなどに狩り出されてきたからでしょう.小中高の臨海学校の講師や磯観察の引率,旅館に頼まれて宿泊客相手に生き物教室などさまざまなことをやってきました.夏場は毎週のようにです.学生は交代でやっていますが,教員は毎回でなくてはなりません.既に研究に支障が出ています.

そのようなイベントに出たり,小中高の教員になった・目指している友人を見るたびに思うのが,その学校教員の中に科学に対して無知過ぎる人がいることと科学教育への志しが低い人がいることです.彼らの多くは教育学部卒であり,卒研で少し科学をいじっただけ,しかも研究ではなく教材としてしか科学を見ていません.工学部の友人の中には,「理科免許を採ったけど,物理は計算とかあって教えるのが難しいけど,生物と地学は教科書を暗記させればいいから,生物地学の教員になる」と言っていた人もいました.
彼らは,本人は理解していない数十年前の科学の発見(その中の一部は現在では否定されているものだったりもする)を生徒達に覚えさせるだけで,それが現代社会でどのように使われているのか,どのように応用されているかは教えないのです.入試にでない余計なことを教えている時間はないと言っています.文化の一部としての科学などという発想はそもそもないのです.理科教育に熱心な教員の方の話を聞くと,「現在は否定されていることも教科書に載っているから,そう教えないといけない」と言っています.「どうせ次の教科書改訂でもそのままなんだろうな」と落ち込んでいます.

現状を変えるには,小中高で科学教育をする必要があると思います.国民の科学をより身近に感じてもらうには,興味の無い人にも科学がどのようなものなのかを理解してもらわなければなりません.研究者が講演するような科学イベントにやってくるような人は,そもそも科学に一定の興味と理解がある人たちばかりです.そうではなく,より裾野を広げるためには,興味のない人にも理解されないといけないのではないのでしょうか.「自分は興味ないけど,まぁ必要だよね」と思ってもらえるようになることが大切です.
僕は丁度文学にたいしてそんな立場です.正直全く興味はないし,なくなっても僕の生活にはいっさい影響がないのですが,日本の文化のためには必要だと思っています.

もっと小中高で科学教育をしなさいという運動(その意義の説明を含めて)を研究者が行なうというのは大賛成です.研究者が個別に国民にたいしてアピールしてもらちがあかないので,教育を変えていかないといけません.