フランスの詩

宮之森享太 翻訳

ミシェルとクリスティーヌ

2011-06-27 | Weblog

      ミシェルとクリスティーヌ

ちえっ、それで太陽がこれらの岸辺と別れるなんて!
逃げろ、澄んだ洪水! これが街道の影だ。
柳の木々に、古い前庭に、
雷雨は最初に大粒のしずくを投げかける。

おお、百の子羊らよ、ブロンドの牧歌的兵士らから、
水路から、やせたヒースから、
逃げろ! 平野、砂漠、草原、地平線は
雷雨の赤い化粧をしている!

黒い犬、マントを吹き込む牧人、
逃げろ、上層の稲妻の時に。
ブロンドの羊の群れ、いま影と硫黄が漂うとき、
降りろ、もっとよい隠れ家に。

だがぼくは、主よ! ぼくの精神は
飛んでいる、赤く凍った空を追い、天の
雲の下を。そこでは雲が線路のように長い
百のソローニュ地方の上を流れ飛んでいる。

そこに千の狼ら、千の野生の種子がある、
それらを持ち去るのは、昼顔も愛さない
ことがない、きょうの敬虔にして雷雨の午後だ、
百の遊牧民が行く古くからの欧州で!

それに次いで、月の光! 荒野のどこもかしこも、
黒い空に額を赤く染めた戦士らは
青白い軍馬にゆっくり乗っている!
小さな石々はその誇り高い兵士団の下で鳴り響いている!

― それからぼくは見るだろうか、黄色い森と明るい谷を、
青い目の妻、赤い額の男、おおガリア、そして白い
過越しの小羊、あの人たちの足元にいる、― ミシェルと
クリスティーヌ、― そしてクリスト! 牧歌の終わり。



記憶

2011-06-23 | Weblog

            記憶


             1
透明な川。子供時代の涙の塩のようだ。
女たちの肉体の白さの太陽への急襲。
群れをなす(清純な)百合の、ある
乙女が守った壁の下の、旗の絹だ。

天使の浮かれだ。―(ちがう). . .黄金の流れは前進して、
黒い、重い、特に新鮮な、草の腕々を動かしている。
その川は、天蓋としての青空の前で沈み、
帳のために丘やアーチの影を呼んでいる。



             2
えっ! 濡れたガラスは澄んだ気泡を一帯に広げている!
川は用意された寝床を、底なしで青白い黄金で満たしている。
女の子らの緑で色あせたドレスは柳の並木になり、
そこから鳥たちは糸なしで飛び上がっている。

ルイ金貨よりも純粋で、黄色く熱いまぶた、
リュウキンカは ― きみの夫婦の誓い、おお人妻!―
急な真昼に、くすんだ鏡にいて、羨んでいる、
熱い灰色の空のいとしいバラ色をした球体を。



             3
夫人はまっすぐ立ち、労働の糸が雪と降る
近くの草原にいる。日傘を持ち、散形花序の花を
踏みつけ、その花に対しては過大な誇りを持ち、
子どもらは花開く緑のなかで

赤いモロッコ皮の本を読んでいる! うわっ、彼は、
街道上で離れ離れになる白い千の天使らのように、
山の彼方に遠ざかっている! 彼女は、まったく
冷えて、黒い、走っている! 出発した男の後を!



             4
後悔、純粋な草の若く太い腕々への!
四月の月の黄金、聖なる寝台の中心に! 作業場の
歓喜、見捨てられた川沿いにあり、八月の
宵々の虜になって、それらは腐敗の芽を出させた!

なんと彼女は泣いている、いま城壁の下で!
上から来るポプラの呼気はそよ風だけのためにある。
それから、広がりがある、光沢なく、水源なく、灰色の。
ある老人、すくい網漁師、不動の小舟のなかで、苦労。



             5
陰鬱な川の輝きのおもちゃである、ぼくはそこで掴む
ことができない、おお不動のボート! おお! 腕は
とても短い! どちらの花も。悩まされる黄色い花も、
そうさ。灰色の水に仲がいい、青い花も。

ああ! 柳の粉、翼が揺すっている!
葦原のバラたち、ずっと前にむさぼり食われた!
ぼくのボート、やはり動かない。その鎖、端のない
川の輝きの水底に曳かれて、― どんな泥へ?




2011-06-16 | Weblog

             恥

       刃があの脳みそを
       切らない限り、
       あの袋、白くて生で脂肪質、
       湯気を立て決して新しくないが、

       ( ああ! 奴め、切らねば
       なるまい、あいつの鼻、唇、耳、
       腹を! それに両足も捨てねば!
       おお、素晴らしいことだ!)

       いや、違う。真実、ぼくが思うに、
       あいつの頭には刃を、
       脇腹には砂利を、
       腸には火炎を、

       ぶち込まない限り、ガキにして
       手足まとい、ど阿呆の獣は、
       一瞬もやめないに違いない、
       策を弄したり裏切り者であることを、

       ロッキー山脈の猫のように、
       あたり一帯に悪臭を放つことを!
       そいつの死には、それでも、おお
       神よ! 祈りが立ちのぼるように!




烏たち

2011-06-15 | Weblog

           烏たち

主よ、草原が寒いとき、
取り壊された集落のなかで、
お告げの鐘が黙ったとき. . .
花の散ったその自然にうえに
大空から襲いかからせたまえ、
甘美でいとしい烏たちを。

厳しい叫び声の奇妙な軍隊よ、
冷たい風がきみらの巣々を襲っている!
きみらは、黄色くなった河に沿って、
ふるい十字架の丘が点在する道のうえで、
溝やくぼみのうえで、
散開せよ、結集せよ!

何千となく、フランスの田園で、
そこは一昨日の死者たちが眠っているが、
旋回せよ、そうだろう、冬、
道を行く一人ひとりが思い返すために!
義務を触れ回る役人であれ、
おお、我らの不吉な黒い鳥!

だが、空の聖者たちよ、魔法にかけられた
宵にまぎれるマストのような、小楢の梢に、
五月のムシクイ鳥たちを放っておくのだ
森の奥底で鎖につながれている者たちのために、
逃れることもできない草のなか、
前途を絶たれた敗北で。



カシスの川

2011-06-13 | Weblog

          カシスの川

カシスの川は人知れず巡っている、
   奇妙な渓谷を。
百羽の烏の鳴き声はそれに伴奏する。
   天使の真実で良い歌声だ。
樅の林が大きく動いている、
   いくつもの風が飛び込むときに。

すべては巡っている、いにしえの戦場の、
   視察された主塔の、大公園の
憤らせる神秘とともに。
   これらの岸辺でこそ、人は聞くのだ、
遍歴した騎士たちの死んだ情熱を。
   だが何と健全であることか、風は!

歩行者がこれらの格子に注意するなら、
   彼はもっと勇敢になるだろう。
主が遣わす森の兵士たち、
   甘美でいとしい烏たち!
悪賢い農民をここから追い払ってくれ、
   そいつは古い切り株の腕で乾杯している。




2011-06-10 | Weblog

                涙

  鳥たちから、羊の群れから、村の娘たちから遠く離れて、
  ぼくは飲んでいた、ハシバミの柔らかな林で
  囲まれたどこかのヒースの中にうずくまって、
  午後の心地よい緑の霧の中で。

  何をぼくは飲めたのか、この若いオワーズ川で、
  声のない楡の若木、花のない芝生、曇り空。
  何をぼくは取り出していたのか、里芋の瓢箪で?
  金色のリキューが少々、風味がなくて汗ばむのさ。

  そのように、ぼくは宿屋の悪い看板に
  なったかもしれない。そして雷雨は空を変えた、
  夕方まで。それは黒い国々、湖、竿、青い
  夜の下の列柱、駅だった。
  
  森の水は処女の砂の上に消えていた。
  風は、空から、氷塊を沼にまき散らしていた. . .
  さて! 金や貝を採る者のように、
  ぼくは飲むのに関心がなかったというのに!

                  5月 1872



朝の良き思い

2011-06-10 | Weblog

         朝の良き思い

     朝の四時、夏、
     恋の眠りはまだ深い。
     木陰の下で夜明けが蒸発させる
          祝いの夜のあのにおい。

     だが向こうでは、巨大な作業場で
     ヘスペリデスらの太陽に向かって、
     シャツ姿で、大工たちが
          もう体を動かしている。

     彼らの苔むした静かな荒野に、
     彼らは高価な上張りを準備する
     そこでは町の富が
          偽りの天国の下で笑うだろう。

     ああ! その素敵な職人たちよ
     君たちはバビロン王の臣下であるから、
     ヴィーナス! 彼らのために少し離れよ
          魂が冠をいただいた愛人たちから。

          おお、愛人たちの女王よ!
     働き手らにブランデーを届けよ、
     彼らの力が安らかであるように
     正午に、海での水浴びを待つあいだに。

                  五月 1872



[ ぼくらにとって、それは何なのか. . . ]

2011-06-09 | Weblog
[ ぼくらにとって、それは何なのか. . . ]

ぼくらにとって、それは何なのか、わが心よ、
血と燠の広がり、千の殺害、怒りの長い叫び声、
すべての秩序を覆す地獄全体の嗚咽、
そして残骸の上に今も吹く北風や

すべての復讐は?関係ない!. . . ― いや違う、全くまた、
ぼくらは復讐を要求する! 実業家、君主、元老院、
滅びよ! 権力、正義、歴史、倒せ!
それがぼくらに必要だ。血だ! 血だ! 金の炎だ!

すべてを戦争に、復讐に、圧制に、
わが精神よ! 噛みついて回転だ。ああ! 消え去れ、
この世の共和国! 皇帝、
連隊、入植者、民衆、もうたくさんだ!

いったい誰が怒り狂った火の渦をかき回すだろうか、
ぼくらとぼくらが兄弟と思う者を除いて?
ぼくらに! 夢見る友を。それはぼくらの好むところだ。
決してぼくらは働かないぞ、おお火の波よ!

ヨーロッパ、アジア、アメリカ、消えうせろ。
復讐するぼくらの行進は全く占拠した、
都市も田舎も!― ぼくらは苦しめられるだろう!
火山は爆発し! 海は襲われ. . .

おお!わが友よ! ― わが心よ、確かに、彼らは兄弟だ。
見知らぬ黒人よ、ぼくらが行ければ! さあ! 行こう!
おお不運かな! ぼくは震えを感じている、古い大地は、
だんだんきみらのものとなるぼくに向かい! 溶けている、

何でもないよ! ぼくはここだ! ぼくはいつもここにいる。




[ 星はバラ色に泣いた. . . ]

2011-06-07 | Weblog

    [ 星はバラ色に泣いた. . . ]

星はバラ色に泣いた、きみの耳の中心に、
無限、きみのうなじから腰へと白く動いた、
海は褐色の玉になった、きみの朱色の乳房に
そしてその男、きみの至高の脇腹に黒い血を流した。





牧神の頭

2011-06-06 | Weblog

           牧神の頭

葉叢では、そこは宝石箱、緑にして金の彩り、
葉叢では、そこは不確かだ、そして接吻が眠る
すばらしい花々に飾られている、生き生き
として、洗練された刺繍を引き裂く、

度を失った牧神は二つの目をむき出して
赤い花々を彼の白い歯で噛んでいる。
古い葡萄酒のように褐色で血だらけの
彼の唇は枝々の下で笑いはじけている。

そして彼が逃げたとき ― 栗鼠のように ―
彼の笑いはそれぞれの葉でまだ震えていて
一羽の鷽にぎくっとした森の金の接吻が
見えている、そこは静まり返る。




花について詩人に言ったこと

2011-06-03 | Weblog

     花について詩人に言ったこと
           テオドール ドゥ バンヴィル氏に


             I
そのように、いつも、暗い紺碧に向かい、
そこはトパーズの海が揺れているが、
きみの宵で機能するだろう
ユリたちが、恍惚のそれらの浣腸が!

ぼくらのサゴの時代に、
植物が労働者であるとき、
そのユリは青い嫌悪を飲むだろう、
きみの敬虔な散文のなかの!

― ケルドレル氏のユリ、
一八三〇年のソネット、
吟遊詩人に与えられるユリ、
撫子やアマランサスとともに!

ユリを! ユリを! 人はそれを見いださない!
なのにきみの詩では、優しく歩く
女の罪びとらの袖のように、
いつもそれらの白い花々が身震いしている!

いつも、貴方よ、きみが入浴するとき、
きみのシャツはブロンドの両脇のところで
膨れているのだ、汚らわしいワスレナグサの
上を吹く朝のそよ風に!

愛はリラたちしかきみの入市税として
渡さない、― おお、たわ言だ!
森の菫たちしか、
黒いニンフたちの甘い唾々!. . .


             II
おお、詩人たちよ、たとえきみたちが
バラたちを手に入れ、バラたちは
膨らんで、月桂樹の茎のうえで赤く、
千オクターブで膨れ上がっていても!

たとえバンヴィルがそれらを使って、
血の色で渦巻く雪を降らせ、
悪に好意的な読み方をした
異邦人の狂った目を殴っても!

きみたちの森の、きみたちの牧場の、
おお、とても温和な写真屋たちなんだ!
植物相はおよそ変化に富んでいても
デカンタの栓たちのようなんだ!

相変わらずフランスの植物ばかり、
邪険で、肺病もちで、滑稽だ、
そこでは短足の犬の腹が
うろついている、安らかに、夕暮れを。

相変わらず、青い蓮やヒマワリの
恐ろしい図画の先には、
バラ色の版画、神聖な画題、
若い娘の聖体拝領のためのだ!

アソカの頌歌は高級娼婦の
窓辺の詩節に合致する、
そして華々しい重い蝶たちは
雛菊にフンをする。

古い草むら、古い飾り紐!
おお、植物性のクロキニョル!
古いサロンの奇妙な花々!
― コガネムシ用だ、ガラガラヘビ用ではない、

その泣いている植物性の赤ん坊らを
グランヴィルなら誘導紐で書いただろう、
そして意地悪色でまびさしをした
輝く人らが授乳したんだ!

そう、きみらの牧笛のにじみは
貴重なグルコースを作っている!
― たくさんの揚げ卵、古い帽子のなかだ、
ユリ、アソカ、リラ、バラ!. . .


             III
おお、白い狩人、きみは靴下なしで
牧羊神の荒れ地を走っている、
きみは多少植物学を知ることは
できないのか、知るべきではないのか?

きみが赤茶色のコオロギにハンミョウを
続けさせるのではないかと、ぼくは心配している、
ラインの青にリオの黄金を、―
要するに、ノルウェーにフロリダをだ。

しかし、いとしい人よ、芸術はもう、今や、
― これが真実だが、― 許さないのだ、
驚くべきユーカリの木にいる
ヘクサメトロスの大蛇らを。

それだ!. . . あたかもマホガニーが、
ぼくらのギアナにおいてさえ、
尾巻猿の転落や、つる植物の重苦しい錯乱
にしか役立たないように!

― 要するに、花というものは、ローズマリーであれ
ユリであれ、生きていようと死んでいようと、
海鳥のフンほどの価値があるのか?
ろうそくの一滴の涙ほどの価値があるのか?

― ぼくは言いたいことを言った!
きみは、あそこで座ってさえいる、竹の
小屋のなかで、― 鎧戸を閉め、
褐色のインド更紗の壁掛けのなかで、―

きみはばかげたオワーズ川にふさわしい
開花をぞんざいに仕上げるだろう!. . .
― 詩人よ! それは尊大で
笑うべき理屈だ!. . .


             IV
語れ、激しい反乱による
黒い春のネコらではなく、
タバコやワタの木を!
語れ、異国の収穫を!

語れ、ポイボスが焼いた白い額、
何ドルの年金をペドロ ヴェラスケス、
ハバナ、が受け取るのかを。
軽蔑しろ、ソレントの海なんか

そこは無数の白鳥が行く。
きみの詩節は広告であるがいい、
ヒュドラと波で掘り返された
マングローブの倒れた堆積のために!

きみの四行詩は血みどろの森に
飛び込む、そして戻る、
人間に白い砂糖や肺の薬やゴムの
いろいろな主題を提案しに!

きみを通してぼくらは知ることにしよう、
熱帯あたりの、雪を頂く峰々の黄金色が
多産な昆虫たちなのか、それとも
微小な地衣類なのかを!

見つけろ、おお狩人よ、ぼくらは見つけることを
望んでいる、芳香を放ついくつかの茜を。
自然がズボンに
花咲かせるように!― ぼくらの軍隊のために!

見つけろ、眠りの森のはずれで、
鼻面にそっくりな花々を、
そこから金色のポマードが垂れている、
水牛の黒っぽい髪の上に!

見つけろ、青の上で柔毛の銀が
震えている気違いじみた草原で、
エキスのなかで煮える火の卵で
いっぱいの萼たちを!

見つけろ、綿毛のアザミらを、
燠火のまなざしをした十頭のロバたちが
その結びを紡ごうと努力している!
見つけろ、椅子である花々を!

そう、見つけろ、黒い鉱脈の中心で
ほぼ石の花々を、― 名高い!―
それらのブロンド色の固い子房のあたりに
あるのは、宝石で飾られた扁桃腺だ!

ぼくらに出すのだ、おお笑劇の役者よ、
きみはそれが可能だ、豪華な朱色の大皿の上の
どろっとしたユリの煮込みを、
それはぼくらの合金のスプーンを腐食する!


             V
誰かがやがて語るのは、大いなる愛、
暗い免償の盗人だろう。
しかしルナンもムル猫も
巨大な青い酒神杖など見たことがない!

きみは、ぼくらの麻痺のなかに
香りによって極度の興奮を起こさせよ。
ぼくらを熱狂させろ、純真に向かって
マリアらよりもさらに純真に. . .

商人! 入植者! 霊媒!
きみの脚韻は湧き出るだろう、バラ色や白色で、
ナトリウム光線のように、
あふれ出るゴムのように!

きみの黒い詩編では、― 軽業師!
屈折した白、緑、赤の光線たちが、
奇妙な花々や電気の走る蝶々から
抜け出している!

ほら! これは地獄の世紀だ!
それで電信柱は飾り立てようと
している、― 鉄の歌には竪琴を、
きみの見事な肩甲骨を!

とりわけ、ジャガイモの
病気についての解釈を韻文で書け!
― そして、神秘に満ちた
詩の創作には

トレギエからパラマリボまで
読まなければならない、
フィギエ氏の何巻かを買い足せ、
― 挿絵入り! ― アシェット書店だ!

                アルシド バヴァ

A.R.
1871年7月14日