フランスの詩

宮之森享太 翻訳

愛の砂漠

2011-08-09 | Weblog


           愛の砂漠

            まえがき

以下の書かれたものは、ある若者、とても若い男による
もので、その生活はどこにでも展開してきた。母もなく、
故郷もなく、人々が知っていることには全く気にとめず、
あらゆる道徳的な力から逃げていて、以前にいた何人も
の哀れな若者らのようだった。だが、彼は、とても退屈
で、とても不安だったので、彼を死へ仕向けさせるしか
なかった、恐ろしい運命的な羞恥へ向かうように。女を
愛さなかったが、―たくさんの血はあったけれども!―
彼は獲得した、彼の魂と心を、あらゆる彼の力を、それ
らは奇妙で悲しい誤りのなかで育てられた。次の夢々は、
―幾つかの彼の恋愛事件!―それらはベッドのなかでも
街にでも彼にやって来たが、そしてそれらの続きや結末
から、宗教的な甘美な考察から、明らかになる。多分人
は伝説的なマホメット教徒たちの連続する眠りを思い出
すだろう、―それでも勇敢で割礼をしていた! だが、
それらの変な苦しみは、不安を抱かせる権威があるから、
率直に望むべきことは、ぼくらみんなの間に迷い込んで、
死を望んでいるように見えるこの魂が、あの瞬間に確か
な慰めに出会い、毅然としていてほしいことだ!

                   A. ランボー


           愛の砂漠

 たしかに、同じ田舎。ぼくの両親の、同じ田舎の家。
同じ部屋、ドアの上部にあるのは武器とライオンが伴っ
た赤茶色の田園の装飾。晩餐のときに、客間が使われる、
蝋燭とワインがあり壁は田舎風の板張りになっている。
食卓はとても大きい。女中たち!彼女たちは幾人もいた、
ぼくが思い出した範囲でも。―そこに昔のぼくの若い友
人がひとりいた、神父で神父の服装だ、今や。それはも
っと自由であるためだった。ぼくが思い出すのは緋色の
彼の部屋だ、ガラス窓には黄色の紙。そして彼の本もだ、
隠され、大洋に浸っていた!
 ぼくはといえば、見捨てられていた、この果てしない
田舎の家で。台所で読書し、ぼくの服の泥を客間で会話
中の客たちの前で乾かして。朝の牛乳の囁きと前世紀の
夜のそれに死ぬほど感動して。
 ぼくはとても暗い部屋にいた。ぼくは何をしていたの
か? ある女中がぼくのそばにやって来た。ぼくは言う
ことができる、それは一匹の小さな犬だったと。美人だ
ったけれども、ぼくには表現できないほどの母親の気高
さを持ち、清純で、よく知られていて、とても素敵で!
彼女はぼくの腕をつねった。
 ぼくはもう彼女の顔をあまり覚えてはいない。それは
ぼくが彼女の腕を覚えているためではないし、その腕の
皮膚をぼくは二本の指でならしたが、彼女の口のためで
もない、その口をぼくの口がとらえたが、なにかを果て
しなく浸食している絶望した小波のように。ぼくは彼女
を倒した、暗い片隅で、クッションと帆布の籠のなかに。
ぼくはもう白いレースのついた彼女のズロースしか思い
出さない。―それから、おお絶望よ、隔壁は木々の影に
かすかになった、そしてぼくは深淵に沈んでしまった、
夜を愛する悲哀のもとで。


 今度は、ぼくが街で会った女のことだ、ぼくが彼女に
話しかけた、すると彼女はぼくに話をするんだ。
 ぼくは明りのないある部屋にいた。誰かがぼくに言い
に来た、彼女がぼくの家にいると。そしてぼくは彼女が
ぼくのベッドのなかにいるのを見た、すっかりぼくに向
かっていて、明りもない!ぼくはとても心を動かされた、
そこは家族の家だったから大いにだ。さらに苦境がぼく
をつかんだ!ぼくはぼろを着ていた、ぼくは、で彼女は、
社交家だ、身を任せていた。彼女には出て行く必要があ
った!言いようのない苦境。なぜなら彼女をつかまえ、
彼女をベッドの外に倒れ込ませたから、ほとんど裸で。
そして名状しがたい虚脱のなかで、ぼくは彼女の上に倒
れて、彼女と一緒に這い回った、明りのない絨毯の間に。
家族のランプが近くの部屋をひとつずつ赤くしていた。
そのとき女は姿を消した。ぼくは涙を流した、神がそれ
を決して求めることのできないほどの。
 ぼくは果てしない街に出た。おお労苦よ!無声の夜の
なかに溺れて、そして幸福の逃避のなかにも。それは冬
の夜のようだった、世界を確かに窒息させるための雪を
伴うのだ。ぼくが、彼女はどこにいるのかと呼びかけた
友人たちは、偽って返事をしていた。ぼくは彼女が毎晩
行く場所のガラス窓の前にいた。ぼくは秘められた庭の
なかを奔走していた。誰かがぼくを追い返した。ぼくは
けた外れに泣いていた、これらすべてに。最後に、ぼく
は埃だらけの場所に降りて、骨組みの上に腰を下ろし、
ぼくの体のすべての涙を、この夜とともに使い果たすに
まかせた。―そしてぼくの衰弱はそれでもいつも戻って
きた。
 ぼくは理解した、彼女が日々の生活に生きていること
を、そして優しさが一周してくるには星の再生ほどの長
さがかかることを。彼女は戻らなかった、そして決して
戻ってこないだろう。その愛らしいひと、ぼくの家に届
いた、―それはぼくが思わなかったことだ。―本当に、
今度こそ、ぼくは泣いたのだ、世界のすべての子供たち
よりも。