フランスの詩

宮之森享太 翻訳

ランボー詩抜粋 谷間に眠る男

2008-12-21 | Weblog


     谷間に眠る男


そこは緑の穴ぼこ、川が歌い
銀のぼろ切れを草たちに狂おしく絡ませている。
そこは太陽が、崇高な山から輝い
ている小さな谷間、光の筋たちが泡立っている。

ひとりの若い兵士は、口をあけ、帽子をかぶらず、
うなじを青く生き生きとしたクレソンにうずめて、
眠っている。彼は草の上に寝かされている、
雲の下で、光が降り注ぐ緑のベッドの上で青ざめて。

   
両足をグラジオラスに囲まれて、彼は
眠る。病気の子どもが微笑むように微笑みながら、
彼はひと眠り。自然よ、彼をあたたかく揺すれ、彼は寒い。

 
香りが彼の鼻孔を膨らますことは
ない。彼は太陽の下で眠る。片手を静かな胸にのせながら。
彼にはふたつの赤い穴がある、右の脇腹に。


                 10月1870


訣別

2008-12-21 | Weblog
                  訣別          
              
 もう秋! ― しかしなぜ永遠の太陽を惜しむのか、もしぼくらが崇高な光の発見に誘われているのなら、― 季節季節に死ぬ人々から遠く離れていて。
 秋。不動の霧の中で造られたぼくらの船は、貧困の港へ、空に火と泥の染みがある巨大な都市へ向きを変えている。ああ! ぼろぼろの服、雨にぬれたパン、酩酊、ぼくを十字架にかけた数限りない愛! したがって死に、そして裁かれる無数の魂や肉体を食う、あの女王食屍鬼はそんなわけで終わりにならないだろう! ぼくは思い出す、泥とペストで蝕まれた自分の皮膚を、髪とわきの下にはいっぱいの蛆虫を、心臓にはもっとふとった蛆虫を、年もわからず感情もない見知らぬ人々の間に横たわっている自分の姿を. . . ぼくはそこで死んでいたかもしれない. . . 恐ろしい記憶だ! ぼくは逆境を激しく憎悪する。
 そして冬を恐れている。というのはそれが安逸の季節だからだ!
 ― ときどきぼくは歓喜する白人の国民でいっぱいになった、果てしない砂浜を空に見る。一隻の黄金の巨船が、ぼくの上方で、朝のそよ風に様々な色の旗を満艦飾になびかせている。ぼくはすべての祝祭、すべての凱旋式、すべての劇を創造した。ぼくは新しい花、新しい天体、新しい肉体、新しい言語を発明しようと努めた。ぼくは不思議な力を得たと信じた。だが、なんということか! ぼくは自分の想像力と数々の思い出を葬り去らなければならない! 芸術家と物語作家としての、なんと美しくも奪われてしまう栄光よ!
 ぼくが! すべての道徳にとらわれない、魔術師とも天使とも自称していたこのぼくが、土に戻されるのだ、義務を求めごつごつした現実を抱きしめるために! 百姓だ!
 ぼくは欺かれているのか? 慈愛は死の姉妹なのだろうか、ぼくにとっては?
 とにかく、嘘を身の糧にしていたことについて許してもらおう。それだけのことだ。
 しかし友好の手はない! 助けをどこから取り出そうか?


                 ¯¯¯¯¯¯¯¯ 
 
 そう、新しい時は少なくとも非常に厳格だ。
 というのも、ぼくは勝利を獲得すると言い得るからだ。歯ぎしり、炎のうなる音、臭いため息は静まる。すべてのけがらわしい思い出は消え去る。ぼくの最後の後悔が逃げていく。― 乞食、悪党、死の友達、あらゆる種類の精神薄弱児たちに対する羨望が。― 地獄に落ちた者どもよ、ぼくが復讐できたらなあ!
 絶対に現代的であらねばならない。
 賛歌はいらない。勝ち取った歩みを保持することだ。厳しい夜! 乾いた血がぼくの顔をいぶし、ぼくの後ろにはあの恐ろしい灌木のほかは何もない!. . . 精神の闘いは人間の戦闘と同じく容赦ないものだが、正義を見通すことは神のみの楽しみなのだ。
 まだ今はその前夜だ。すべての現実の活力と優しさが来るのを受け入れようよ。そして夜明けには、強烈な忍耐で武装して、ぼくらは光に満ちた様々な都市に入るのだ。
 ぼくは友好の手について何を語ったのか! ひとつ有利なことに、ぼくは昔の偽りの恋愛を笑うことができるし、あの嘘つきカップルたちに恥の痛打を与えることもできる。― ぼくはあそこで女たちの地獄を見た。― そしてぼくには、ひとつの魂とひとつの肉体のなかに真実を所持することが許されるだろう。

                        4月ー8月, 1873.





2008-12-16 | Weblog

               朝
              
 ぼくにはかつてあったのではないか。黄金の紙に書かなければならない、愛すべき、英雄的、想像を絶する、青春が、― 良過ぎた幸運だった! どんな罪で、どんな過ちで、ぼくは今の衰弱に値するようになったのか? 動物たちが悲しみでむせび泣き、病人たちが絶望し、死者たちが悪い夢を見ると主張するあなたたちは、ぼくの転落と眠ったような有様を語ろうとしてください。このぼくは主の祈りやアヴェマリアの祈りを絶え間なく唱える乞食ほどにも、自分を語れないのだ。ぼくはもう話せない!
 それでも、今日、ぼくは自分の地獄を語り終えたと信じている。それはまさに地獄だった。古くからある、人の子がその扉を開けた地獄だった。
 あの同じ砂漠の、同じ夜に、いつもぼくの疲れた目はあの銀の星で目を覚ますが、いつも、人生の王たち、心と魂と精神である東方の三博士は動こうとしないのだ。いつぼくらは迎えに行くのだろう、砂浜と山々を越えて、新しい労働の生誕を、新しい英知を、暴君と悪魔らの退散を、迷信の終わりを。いつ礼拝に行くのだろう ― 最初の人として! ― 地上での生誕祭に!
 天上の歌声、人々の行進! 奴隷たちよ、人生を呪うのはよそう。








閃光

2008-12-14 | Weblog


             閃光

 人間の労働! それは時どきぼくの奈落を照らす、爆発である。
 《 空なるものは全くない。科学に向かって、前進だ! 》現代の伝道の書、言い換えればすべての人たちがそう叫んでいる。それにもかかわらず、悪人や怠け者の死体たちが他の人たちの心に襲いかかっている. . .  ああ! 速く、少し速く。向こうに、夜の彼方に、未来の、永遠のあの褒美を. . . それをぼくらはもらい損ねるのか?. . .
  ― ぼくは何が出来るのか? 労働は知っている。科学は遅すぎる。祈りは速く進めよ、そして光は轟け. . . ぼくはそれをよく知っている。それは単純すぎる。それにしても、暑すぎるぞ。人にとってぼくは不要だろう。ぼくにはぼくの義務がある。それを脇において、多くの人がするように、ぼくもそれを誇りにするだろう。
 ぼくの人生は衰えている。さあ! 本心を隠そう、のらくら暮らそう、おお 哀れなことか! そしてぼくらはこう生きるんだ。楽しく、とてつもない愛や幻想の世界を夢見て、不平を言いながら、それから軽業師、乞食、芸術家、追いはぎ、― 司祭もだ、この世にいるそれら外見の連中に文句を言いながら! 病院のぼくのベッドの上で、香の匂いが強烈に戻ってきた。聖なる香の番人よ、聴罪司祭よ、殉教者よ. . .
 ぼくは子どもの頃にぼくが受けたひどい教育を認める。それがどうしたと言うんだ!. . . ぼくの二十歳に向かっていけ、他人が二十歳に向かうなら. . .
 ちがう! ちがう! 今ぼくは死に対して反抗してるんだ! 労働はぼくの自尊心にとって軽すぎるように見えるし、社会への反逆も短かすぎる責め苦だろう。最期の時に、ぼくは右や左に攻撃するんだ. . .
  その時に、― おお! ― いとしい哀れな魂よ、永遠はぼくらにとって失われていないだろうか!



 

 

不可能

2008-12-03 | Weblog
             不可能

 ああ! ぼくの少年時代のあの生活は、どんな天気でも街道にいて、超自然的に小食で、最も優れた乞食よりも無欲で、祖国や友人をもたないのが自慢で、なんとそれは愚かだったことか。― しかもぼくは、やっと今それに気づいたのだ!
 ― 愛撫の機会を逃さないあいつらを、ぼくが軽蔑したのは正しかった。彼らはぼくらの女たちの清潔と健康に寄生している。今では彼女らとぼくらは、あまりうまくいっていないのに。
 ぼくの軽蔑はすべて正しかった。ぼくは脱走するからだ!
 ぼくは脱走するぞ!
 ぼくの説明だ。
 昨日はまだ、ぼくはため息をついていた。《 なんてことだ! この世で地獄に落ちる運命が充分ある人たちはぼくらなんだ! ぼくは彼らの群れの中に長い間いる! ぼくは彼らをみんな知っている。ぼくらはいつも互いにそれとわかるし、互いにうんざりでもある。愛徳はぼくらにとって未知のものだ。しかしぼくらは礼儀正しいし、世間との関係もちゃんとやっている。》 これは意外かな? 世間は! 商人ども、馬鹿正直者たちだ! ― ぼくらは体面を汚されてはいないのだ。― でも神に選ばれた人たちは、どのようにぼくらを迎え入れるのだろうか? ところで邪険で陽気な連中はいるもので、偽の選良だ。彼らに近づくためには、ぼくらは大胆になるか謙遜するしかない。彼らだけが選良なんだ。彼らは祝福者なんかじゃない!
 安物の理性が戻って ― それはすぐになくなるさ! ― ぼくは気づいたのだ。ぼくらの不安というものは、ぼくらが西洋にいることをぼくが充分早く思わなかったことに起因していることを。西洋の泥沼よ! ぼくは西洋の知識が悪化したり、存在形式が衰弱したり、運動が迷っているとは思わない. . .  よし! オリエントの終末以来、精神が受けた過酷なあらゆる発展を、ぼくの精神は絶対に引き受けることにしたい. . .  それを望んでいるのは、ぼくの精神なんだ!
 . . . 安物の理性が終わった! ― その精神は権威であり、ぼくに西洋にいろと要求している。ぼくが願うような結末にするためには、その精神を黙らさねばならないだろう。
 ぼくは、殉教者の栄誉、芸術の光芒、発明者の慢心、略奪者の血気、それらを悪魔にくれてやっていた。ぼくはオリエントに、そして原初と永遠の英知に戻っていた。― それも粗雑な怠惰による夢であるらしい!
 とはいえ、ぼくは現代のさまざまな苦悩から逃れる楽しみには、ほとんど気にもかけないでいた。コーランの折衷した知恵にも目をつけないでいた。― しかし、あの科学の宣言以来、キリスト教と、人間はたわむれを演じ、結果のわかっていることを自ら証明し、それらの証明を繰り返すことに喜びあふれ、そしてそのようなことにしか生きていない。それらの中に現実の苦痛はないのか! 巧妙で間抜けな責め苦だ。それがぼくの精神を妄想に導く源だ。自然が退屈するだろうよ、たぶん! 俗物のプリュドム氏はキリストと一緒に生まれたんだ。
 それはぼくらが霧を育てているからではないのか! ぼくらは自国の水っぽい野菜と一緒に熱病を食べている。それに飲酒癖! タバコ! 無知! 献身! ― すべてそれらは、最初の祖国であるオリエントの知恵の思想から、遥かに遠いのではないか? これらの毒を発明しておいて、現代の世界は何のためにあるのか!
 教会の人たちは言うだろう。「わかりました。でもあなたが話したいのはエデンの園のことですよ。オリエント人の歴史の中に、あなたに関することは何もないのです。」― それは本当だ。エデンの園のことを、ぼくは考えていた! ぼくの夢にとって、あの古代の種族の純粋さは何なのか!
 哲学者たちは言うだろう。「世界には年齢がない。人間は移動する、ただ単に。あなたたちは西洋にいるが、あなたたちのオリエントに住むのは自由だ。どんな古い所をあなたたちが必要であろうとも、― そこで心地よく住むのは自由だ。敗者にはならないように。」  哲学者たち、君たちは西洋出身だぞ。
 ぼくの精神よ、気をつけろ。荒っぽい救済策はだめだ。おまえよ、強くなれ! ― ああ!科学はぼくらにとってあまり速く進まない!
 ― しかし、ぼくの精神が眠っているのを、ぼくは気づいている。
 もしそれが今からずっと目覚めているのならば、ぼくらはやがて真理に到達するだろうし、その真理は涙を流すその天使たちと一緒に、たぶんぼくらを取り囲むだろう!. . . ― もしそれが今までに目覚めていたのならば、ずっと昔に、ぼくは有害な本能に屈しなかっただろうに、ということだ!. . . ― もしそれが常にしっかり目覚めているのならば、ぼくは英知の海を航行しているだろう!. . .
 おお 純粋よ! 純粋よ!  
 この目覚めの時が、 ぼくに純粋の予見を与えたのだ! ― 精神によって、人は神の方へ向かう!
 胸を引き裂くような不幸だ!

             ¯¯¯¯¯¯¯¯