フランスの詩

宮之森享太 翻訳

2009-08-23 | Weblog
                   岬

 黄金の夜明けと揺らめく宵は、あの別荘と付属施設の正面の沖合に、ぼくたちの帆船を見いだす。それらの建物は岬を形成し、その岬も、エペイロスとペロポネソス半島や、日本の大きな島や、はたまたアラビア半島ほどの広がりがある! 代表団の帰還を照らす数々の神殿、現代的な沿岸防御施設の巨大な眺め、情熱的な花々とバッカス祭の絵が飾られた砂丘、カルタゴの大運河と怪しいヴェネチア風の堤防、エトナ山のゆるやかな噴出と花々や氷河の水があるクレバス、ドイツのポプラで囲まれた共同洗濯場、日本の木の梢をかしげている特異な公園の斜面、スカーブロかブルックリンにある《ロイヤル》か《グランド》の円形の正面、その鉄道はそのホテルの配置に、並び、潜り、張り出している、そのホテルはイタリア、アメリカ、アジアの最も優雅で最も巨大な建造物の歴史から選ばれていて、今、照明と飲み物と豊かな微風に満ちたその窓々やテラスは、旅行者や貴族たちの精神に開かれ ― 昼間は海岸ですべてのタランテラに、― そして技法が名高い谷間のリトルネロにさえ、宮殿の数々の正面を見事に飾らせている。岬。


青春

2009-08-17 | Weblog
                青春

                 Ⅰ
               日曜日

 数々の計算を横に置くと、避けがたい天の降下、思い出の訪問、リズムの演奏が、住居、頭、精神世界を占拠する。
 ― 一頭の馬が、郊外の競馬場から逃げている。畑や植林に沿い、炭素ペストに突き刺されながら。芝居じみたひとりの悲惨な女が、世界のどこかで、ありそうもない遺棄を渇望している。破れかぶれの無法者らが、嵐、陶酔、負傷を待ち焦がれている。幼い子どもたちを窒息させている、呪いの言葉が、川沿いで。―
 また研究を続けようではないか。大衆のなかに再び集まり再び高まり、憔悴させる仕事のざわめきのなかで。


                Ⅱ
                ソネ

 普通の体格の男、その肉は
果樹園でつるされた一個の果実ではなかったのか、― おお
子どもの日々! ― 身体は蕩尽すべき宝物か、― おお
愛することは、プシュケの危難か力か? 大地は
王侯や芸術家たちを生み出す斜面を持っていたが、
その子孫や種族がきみたちを罪悪と悲嘆に追いやっていた。
この世界はきみたちの運命であり危難だ。
しかし現在、その労苦は越えた、きみ、きみの計算、
― きみ、きみの忍耐は、― もはやきみたちのダンスと声
でしかないのだ、決定も強制もされない、もっとも
発明と成功+理性の二つの出来事について、
― 像のない宇宙での、友愛的で控えめな人間としてだが。
― 力と権利は、今になって評価されている
ダンスと声を反映しているのだ。


                Ⅲ
               二十歳

 教育的な声は追放され. . . 肉体の無邪気さは苦々しくも沈滞し. . . ― アダージョ ― ああ! 青春期の限りないエゴイズム、勤勉なオプティミズム。あの夏、世界はなんと花々に満ちていたことか! 歌も姿も死んでゆき. . . ― 合唱曲、無力と放心を鎮めるために! 合唱曲、グラスの、夜想曲のメロディーの. . . 確かに神経は、もう流されようとしている。


                Ⅳ
 きみはまだアントワーヌの誘惑にとどまっている。縮こまった熱情の浮かれ騒ぎ、子どもっぽい自尊心の痙攣、衰弱と恐怖。
 だがきみはその仕事に取りかかるだろう。和声的で建築的なすべての可能性が、きみの椅子の周りで興奮するだろう。完璧で意外な存在たちが、きみの種々の試みに身を捧げるだろう。きみの近くに夢のように押し寄せてくるものは、古代の群衆や豪奢な暇人の好奇心だろう。きみの記憶や感覚は、きみの創造的衝動の糧でしかないだろう。世界に関しては、きみが出るとき、どうなっているだろう? ともかく、今の外観は何もないだろう。


戦争

2009-08-16 | Weblog
                 戦争

 少年の頃、ある種の空がぼくの視力を鋭敏にした。すべての性格がぼくの顔に微妙な変化をつけた。様々な現象が起きだした。― 現在、瞬間の永遠の屈折と数学の無限がぼくを駆り立てている。あらゆる市民的成功をぼくが甘受し、風変わりな少年時代と並外れた愛情で大切にされたこの世界で。― ぼくはある戦争のことを考えている。権利としての、あるいは力ずくの、まったく予想を超えた論理の。
 それは音楽の一フレーズと同じくらいに単純だ。


妖精

2009-08-15 | Weblog
                 妖精

 エレーヌのために共謀したのは、けがれのない闇のなかの装飾的な樹液と、天体の沈黙のなかの平然とした光だ。夏の酷暑は無声の鳥たちに託され、必要な無気力は、値段のつけられない喪の舟に託された。その舟は死んだ愛と衰えた香りの入江を巡っていた。
 ― 森の廃墟の下の急流のざわめきのなか、樵の妻たちの歌声が響き、家畜たちの鈴の音が谷間にこだまし、大草原の叫び声があがった、それらの時のあとに ―
 エレーヌの少女時代のために震えたのは、毛皮と闇たちだ― 貧者たちの胸、空の伝説もだ。
 そして彼女の目と彼女のダンスは、さらに優れている。貴重な輝きや、冷たい感応力や、ユニークな舞台装置と時間の喜びよりも。

特売

2009-08-14 | Weblog
               特売

 売り物だよ。ユダヤ人も売らなかったもの、貴族も罪人も味わわなかったもの、大衆の禁じられた恋やすさまじい実直も知らないもの、時代も科学も見分けないものだ。
 復元された声。友愛の目覚め、それは合唱やオーケストラのすべてのエネルギーをもっている、それからエネルギーの即時の応用もだ。チャンスだよ、他では売ってないよ、われらの感覚を解き放つものだ!
 売り物だよ。値段のつけようがない肉体だ、すべての人種、すべての世界、すべての性、すべての家系を超えている! 富だ、歩くごとに湧き出るぞ! ダイヤの特売だ、制限はない!
 売り物だよ。大衆向けの無政府状態。上等な愛好家にとっては抑えきれない満足。忠臣たちや恋人たち向けの酷い死!
 売り物だよ。住居と移住、スポーツ、夢幻境と完璧な安楽、そして騒音や運動やそれらが作る未来だ!
 売り物だよ。計算の応用と驚くべきハーモニーの跳躍。独創と予測できない表現、即あなたのものだ。
 とてつもなく果てしない突進、目には見えない華麗、感じとれない歓喜に向かっている ― それらの衝撃的な秘密は悪徳向けだ ― その恐ろしい陽気さは大衆向けだ ―
 ― 売り物だよ。肉体、声、莫大で疑問の余地のない豪奢、それは決して売られたことがないんだ。売り手たちには特売の限界はないよ! 行商人たちも、そんなに急いで任務を返上する必要はないんだ!


野蛮人

2009-08-12 | Weblog
               野蛮人

 日々と季節を、人々と国々を遥か後にして、
 旗、北極の海原と花々(それらは存在しない。)のついた絹布の上の、血のしたたる肉でできている、
 昔の英雄主義的ファンファーレから回復して ― それは今でもぼくたちの心と頭を攻撃している ― 古い暗殺者から遠くにいて ―
 おお!旗よ、北極の海原と花々(それらは存在しない。)のついた絹布の上の、血のしたたる肉でできているんだ、
 甘美!
 燠火、霧氷の突風に降り注いでいる、― 甘美!― 火々、ダイヤモンドの風が吹く雨のなかで燃えている、その雨はぼくたちに向かって、地球の永遠に焼きつくされている中心によって投げつけられている。― おお、世界!―
 (昔からの隠遁や情熱から遠くにいて。それを人は聞き、感じているが、)
 燠火と泡。音楽、深淵の旋回と星々への氷塊の衝突。
 おお 甘美、おお 世界、おお 音楽! そしてそこに、形々、汗々、髪々そして目々が漂っている。白い涙も泡立っている、― おお 甘美!― そして女の声、火山や北極の洞窟の奥底まで届いている。
 旗. . .


首都

2009-08-10 | Weblog
           首都

 藍色の海峡からオシアンの海原まで、ワイン色の空が清めた砂はピンク色とオレンジ色で、その上に、水晶の大通りが幾つか上昇し交差したばかりだ。そこには八百屋で養われた、若く貧しい何家族かが、即座に住みついている。豊かさは何もないのだ。― 都市!
 喪中の大洋がつくり得る、この上なく不吉な黒煙、それでできた空はたわみ、退き、下がっている。その下の幾つか群れをなして並んだ、恐ろしい霧の層々とともに、瀝青の砂漠から、数々の兜、車輪、舟、馬の尻が、まっしぐらに敗走しているのだ。― 戦闘!
 頭を上げろ。あの弓なりの木造橋。サマリアの最後の菜園。寒い夜が吹きつける街灯の下の、赤くなったあの仮面たち。下流では、騒がしいドレスを着たおめでたい水の精。エンドウ畑で光るあの頭蓋骨たち ― そしてその他幾つもの夢幻的光景だ ― 田園。
 どうにか木立をおさえている鉄格子や塀に縁取られる道々。心や姉妹と呼ばれるであろう残忍な花々。長く劫罰を受けるダマスカス。― ライン川を超え、日本やグアラニの妖精物語に出てくる貴族たちの所領、昔の音楽を今なお受け入れるのに適している、― そして宿屋が幾つかある、それはもう永久に開かない ― 王女たちがいる。それから、もしきみがあまり打ちひしがれていないのなら、星の研究だ ― 空。
 彼女といっしょの朝、きみは苦闘した。雪の輝き、緑の唇、氷塊、黒旗と青い光線、それらのなかで。そして極地の太陽の真紅の香りのなかで、― きみの力。


不安

2009-08-05 | Weblog
              不安

 ありうるのか、たえず打ち砕かれてきた野望を「彼女」がぼくに容赦したことにするなんて、― 安楽な結末が長年の貧困を償うことなんて、― 成功の一日がぼくたちの宿命的な無能力からくる羞恥の上に、ぼくたちを眠らせることなんて?
 (おお、棕櫚! ダイヤモンド! ― 愛! 力! ― すべての喜びや栄光よりも高く! ― あらゆる仕方で、どこででも、― 悪魔、神、― この存在の青春;ぼくだ!)
 科学による魔法の偶発事や社会的友愛の諸運動が、本源的な率直さを漸進的に回復するものとして大切に思われるものかどうか?. . .  
 だが、ぼくたちをおとなしくさせる女吸血鬼は命令する、彼女がぼくたちに残したもので、ぼくたちは楽しくやれ、さもなければ、もっと滑稽になれと。
 転がり落ちる。傷々に向かって、うんざりさせる空と海を通って。責め苦に向かって、凶悪な水と空気の沈黙を通って。あざ笑う拷問に向かって、残忍に荒狂うそれらの沈黙のなかを。


冬の祭

2009-08-04 | Weblog
              冬の祭

 滝が鳴り響いている、オペラ-コミックの仮小屋の後ろで。いくつもの回転花火が延ばしている、マイアンドロス川の近くの果樹園や遊歩道を通って、― 夕暮れ時の緑々や赤々を。ホラティウスが謳うニンフたち、第一帝政の髪型をしている、― シベリア女たちの輪舞、ブーシェの描く中国女たち。


海洋画

2009-08-03 | Weblog
            海洋画
                 
       銀と銅の二輪車が、―
       鋼と銀の船首が、―
       泡を打ち壊し、―
       茨の根もとを持ち上げる。
       荒れ地の流れと、
       引き潮の巨大な轍が、
       円を描きながら行く、東の方へ、
       森の柱の方へ、―
       突堤に立つ柱身の方へ、
       その角に光の渦が衝突している。


俗な夜想曲

2009-08-01 | Weblog
            俗な夜想曲
                 
 風の一吹きは、仕切り壁にオペラじみた割れ目をあけ、― かじられた屋根の回転を狂わし、― 暖炉の端々を吹き飛ばし、― 十字窓を翳らせる。― 葡萄の木を伝い、樋嘴に片足をかけ、― ぼくは豪華な四輪馬車に降りた。それは凸面ガラス、張り出しパネル、丸いソファーによって、いつの時代のものかは充分表されている、 ― 孤立した、ぼくの眠りの霊柩車。世間知らずなぼくの牧童小屋。その乗り物は、消された街道の草の上で方向を変えている。すると右側のガラスの上部のすき間には、くるくる回るものがある、夢のような青白い顔々、葉々、乳房また乳房。
 ― とても濃い緑と青が、その映像に侵入している。砂利の染みのあたりで、馬を馬車から切り離す。
 ― ここで、口笛を吹くのか、嵐のために、そしてソドムのために、― ソリムのために、― 猛獣と軍隊のために、
 ―(夢の御者と獣たちは、最も窒息させる大樹林で再び駆け、絹の泉では目のところまでぼくを沈めるのだろうか)。
 ― そしてぼくたちは送り出される、ざあざあ音をたてる水やこぼれた酒を通りながら鞭打たれて。ぼくたちは犬の吠え声にしとめられる. . .
 ― 風の一吹きは、暖炉の端々を撒き散らす。