けまりを始める前の神事はとても奈良を感じさせる
奈良・飛鳥の東の山中にある「談山(たんざん)神社」は、大化の改新の出発点となった蘇我入鹿暗殺事件である乙巳の変(いっしのへん)の“談合”を行った場所として知られています。
乙巳の変の首謀者である中大兄皇子と中臣鎌足は、飛鳥の法興寺(現:飛鳥寺)で行われた蹴鞠(けまり)をきっかけに親しくなったと日本書紀に書かれています。蹴鞠は中国からもたらされたものですが、相撲と並んで娯楽・競技として行われた日本最古のスポーツと考えられています。
そんな奥深い蹴鞠が、毎年春と秋に蹴鞠との縁が深い談山神社で披露されます。春の花々や新緑の中で行われる蹴鞠はとても雅です。京都で見る蹴鞠よりさらに、悠久の歴史を感じることができます。奈良の談山神社で見る蹴鞠は格別です。
蹴鞠は足で蹴る鞠、すなわちボールさえあれば、老若男女誰でもできます。古代の中国や日本でのルールが現代と同じかは定かではありませんが、必要設備やルールがシンプルで多くの人に楽しまれたことだけは間違いないようです。
中国では清代に途絶えますが、日本では現代まで続いています。
50歳台以上の方には記憶があるでしょう。昭和の頃は会社勤めの昼休みに数人で、バレーボールを落とさないよう打ち合うレクリエーションが盛んに行われていました。蹴鞠はまさにこれと同じです。
古代文明の時代から行われていたサッカーも、蹴鞠のようにボール一つさえあれば簡単に楽しめます。サッカーは現在、世界で最も多くの競技人口があり、最も人気を集めるスポーツです。
スポーツにしろ娯楽にしろ、シンプルなものはとても多くの人に愛されます。蹴鞠はそんなシンプルなスポーツの原点であり、相撲と共に“日本の国技”としてとらえるべき存在でしょう。
蹴鞠は平安時代には貴族の間で大流行し、その後は庶民にも広がりました。江戸時代も庶民の娯楽や曲芸の一つとして盛んに行われていました。
明治維新で一旦途絶えますが、明治天皇の一声で有志による保存会が結成されます。現代も談山神社のけまり祭をはじめ、各所で披露しています。この保存会は京都・白峯(しらみね)神宮を中心に活動しています。
白峯神宮は、平安末期の蹴鞠の名手・藤原頼輔を祖先とし、幕末まで続いた蹴鞠の家元・飛鳥井(あすかい)家の邸宅跡に明治になって創建された神社です。
十三重塔を見上げる蹴鞠の庭に続々と見物客が集まる
談山神社のけまり祭は、権殿の下にある「蹴鞠の庭」で行われます。談山神社のランドマークである十三重塔を見上げる美しい広場です。平安時代を感じさせる装束に身を包んだ保存会の人が庭に入ってくると、とても神聖な空気に包まれます。
撮影日は雨天で、テントの下での開催
蹴鞠が始まると息を合わせて「アリ」「ヤ」「オウ」の掛け声で蹴り続けます。見物客がみな回数を数えていと思えるように、何回続くかとてもワクワクしながら見物します。
保存会の人は昔ながらに袴をはいていますが、決して蹴りやすいユニフォームには見えません。それでもとても器用に回数を重ねていきます。スポーツというより、さながら古典芸能を見ているようです。
中臣鎌足もこのように蹴鞠を行っていたのかと、感じさせる一瞬でもあります。
黄色のヤマブキ
ピンクのシャクナゲ
談山神社は紅葉で有名ですが、春の鮮やかな花も私はおすすめします。ヤマブキやシャクナゲが4月は見事なナチュラルな色のコントラストを見せてくれます。けまり祭の4/29には、例年桜も楽しめます。標高が高く八重桜が多いことから開花が遅くなるからです。
開花がとても早かった2018年は桜が見れるかビミョーですが、新緑と花の明るいコントラストの素晴らしさだけは間違いないでしょう。
日本の歴史の原点の一つである談山神社で行われる蹴鞠。わざわざ出かける価値があります。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
日本古代史の第一人者ペアが日本という国家を見つめる
談山神社
http://www.tanzan.or.jp/
談山神社 春のけまり祭(奈良県観光公式サイト)
http://yamatoji.nara-kankou.or.jp/01shaji/01jinja/03east_area/tanzanjinja/event/78ovjupzau/
開催日:毎年4月29日、11月3日
※仏像や建物は、公開期間が限られている場合があります。
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