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中世芸能の総本家を野外の薪火で堪能_興福寺 薪御能 5/17-18

2019年04月28日 | 祭・行事・季節の花

現在真っ最中のゴールデンウィークが開けると、奈良では薪御能(たきぎおのう)が風物詩となります。全国各地で行われている野外の能公演の総本家と言える行事であり、猿沢池をのぞむ興福寺に薪が焚かれ、能・狂言が古式に基づき幻想的に披露されます。


野外オペラと同じく、風を感じる舞台鑑賞はかけがえのない一時を過ごせます。奈良は平城宮跡や薬師寺など、高層建築がない歴史的な空間と大空を活かした野外公演のメッカです。興福寺の薪御能はそんな野外公演の総本家でもあります。



通常の野外の能公演は「薪能」と呼ばれますが、興福寺では英語の"the"に相当する”御”が付きます。総本家の興福寺にはばかって、どこも名称に”御”を付けていないところに、格別さを感じさせます。

薪御能の起源は、興福寺の記録によると平安時代初め869(貞観11)年に行われた西金堂の修二会法要に求められます。東大寺のお水取りの籠松明と同じく、宗教的な儀式として芸能が奉納されていました。当時の芸能は奈良時代に中国から伝わった散楽(さんがく)から連なる猿楽(さるがく)です。現代の能楽の源流と考えられています。

現代の能楽は、セリフがなく面を付けて幽玄に演じる「能」、セリフがあり面を付けずに滑稽に演じる「狂言」、老人の面を付けた神が躍って五穀豊穣を祈る「翁」が、明治以降に集約された呼び名です。いずれも猿楽を細分化して定義したものです。



鎌倉時代には、現存しない西金堂に加え、現存する東金堂でも薪御能が行われるようになります。それだけ庶民に人気を集めた芸能だったことがうかがえ、大和四座と呼ばれる能楽の伝統流派が成立したのもこの頃です。

現在の薪御能は南大門跡で行われていますが、これには傑作のエピソードがあります。西金堂と東金堂があまりに人気を競いすぎて収拾がつかなくなり、両者の公演を統合して中間地点の南大門で催すようになったと言います。

室町時代になると、京都でも流行するようになった猿楽を、足利義満が今熊野神社で鑑賞します。以降室町幕府で厚く保護されるようになり、観阿弥・世阿弥によって大成された能が上流階級の芸能として確立します。狂言を含めた猿楽も寺社の余興行事として定着するようになり、今に至ります。



薪御能は、夕方から始まる興福寺会場に先立ち、午前中に春日大社でも行われます。両会場の二日間であわせて能/狂言/翁の8演目が演じられます。能/翁は、大和四座の伝統を受け継ぐ宝生座/観世座/金剛座/金春座が交代で担当します。狂言は大和猿楽の伝統を受け継ぐ大蔵流が担当します。大蔵流は日本最古の狂言流派です。TV出演で著名な狂言師・野村萬斎は和泉流です。

コンサートにしろオペラにしろ、夕方から屋外で行われる舞台は、いつもワクワクします。ニッポン古来の能楽はなおさらです。徐々に暗くなる空を背景に、薪火による舞台のスポットライトは抜群の非日常感を演出します。公演スタート前には僧兵姿の僧侶があらわれ、舞台を清めます。ここでしか見られない能楽の絶景です。

有料観覧席以外での鑑賞が困難な春日大社会場とは異なり、無料観覧席がある興福寺会場はさらに活気にあふれています。能楽のストーリー表現は正直難解ですが、ストーリーがわからなくとも魅了される幽玄さを醸し出してくれます。演者の動きに従い「ほぉ~」という感嘆の声が随所で聞こえます。

演目は3時間も続きます。現代の感覚では考えられない長さは、娯楽が少なかった昔の名残です。終了間際まで鑑賞し続けると、鑑賞者が徐々に少なくなります。さらに幻想的なムードが増長されていきます。


春日大社若宮の会場

薪御能は、中世から春日大社と一体となって活動してきた興福寺の歴史を象徴する行事です。興福寺には阿修羅像のようなモノとしての仏像だけでなく、コトもきちんと伝承されています。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



難解ながらも惹かれる能楽ワールドの扉を開く一冊

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<奈良県奈良市>
興福寺 薪御能
【奈良市観光協会による行事公式サイト】
【興福寺による行事解説】

主催:薪御能保存会
会場:興福寺 南大門跡
会期:毎年5月第3金曜/土曜(2019年は5月17/18日)
開催時間:入場16:00、講演17:30~20:30頃

※興福寺会場は有料観覧席と無料立見場があります。
※同日11:00から行われる春日大社会場は有料観覧席のみで無料立見場はありません。
※有料観覧席は前売り/当日券があります。詳細は奈良市観光協会サイトにてご確認ください。
※雨天の場合、興福寺会場は奈良県文化会館で行われます。
※スタート時間は当日の法要・神事の進行や天候に左右される場合があります。
※薪御能の写真・動画撮影は禁止されています。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「近鉄奈良」駅下車、東改札C出口から徒歩5分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安: 1時間5分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→近鉄奈良駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には有料の駐車場があります。
※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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