十三重塔と紅葉は悠久の歴史を見続けてきた
談山(たんざん)神社は、神社だが境内の趣はお寺の方が近い。日本中で繰り広げられた明治の神仏分離で「神社」になったためで、長らく「妙楽寺」と呼ばれてきた。大化の改新の「談合」を中大兄皇子と中臣鎌足がこの神社のある多武峰(とうのみね)の山中で行ったことから、「談い(かたらい)山」として神社名になったことはよく知られている。飛鳥の都から一山超えた山中に位置することもあり、今でもどこか隠れ家のような深い味わいを見せてくれる。
この神社(旧妙楽寺)は、平城京遷都の直前に中臣鎌足の墓が移され創建されたと伝わる。藤原氏ゆかりの寺ではあるが、興福寺とは宗派が異なり争いが絶えなかった。平安時代から戦国時代にかけて武士の争いも含めて幾度も戦場となり、シンボルである十三重塔も戦国時代の1532(享禄5)年の再建だ。
十三重塔というのは、小さな石塔は比較的あるが、木造ではここにしか現存しない。高さは17mと平地にあればさほど高くはないが、すぐ裏の山を借景に眺めると実に雄大に見える。檜皮葺の屋根と赤い柱は山の緑ととてもよく合う。屋根の反りが幾重にも重なっている荘厳な姿は、本来は釈迦の分骨を収める仏頭を、神々が住む聖なる建物のように感じさせる。
10月中旬から色づき始める紅葉は、関西でも有数のスポットとして知られる。境内は山麓にあるため、紅葉の色付きが上下左右様々な角度から楽しめる。緑をベースに黄色と紅が点描のようにブレンドされた光景は圧巻で、しかも空気には森のイオンが満ちている。特に朝早い時間帯は空気が澄んでいて美しい。
見る角度によって彩の表情は見事に変化する
見事な色付きの中には、十三重塔の他にも本殿や権殿など重文指定された趣のある建物が点在する。祭神である藤原鎌足を祀る本殿は、現在のものは幕末の再建だが、江戸初期には日光東照宮の手本になったという。確かに東照宮のような豪華絢爛な彫り物がされている。聖なるエリアであることを見事に伝えている。
神仏習合の独特の雰囲気を今に伝える佇まいは、紅葉の季節はやはり素晴らしい。カメラファンはもとより、あらゆる人々を引き付ける魅力を持っている。
紅葉と十三重塔は日本有数の撮影スポット
この神社(旧妙楽寺)が創建されたと伝わる678(天武天皇7)年、唐は三代高宗の治世で最大版図を擁していた。仏教美術も興隆し、世界遺産として名高い竜門の石窟の中でも最大級の奉先寺大仏が造られたのもこの頃だ。日本は天武天皇のもと安定した国づくりが行われ、白鳳文化が花開いていた。白村江の戦の影響で遣唐使による文化的な交流は途絶えていたが、日中双方で輝かしい時代だった。
古代の隠れ家は悠久の歴史を見続けてきた。とても奥深い神社であり、寺ともいえる。
古代の隠れ家でぜひ週末を
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさんある。ぜひ会いに行こう。
談山神社の四季の移ろいを見事にとらえた写真集
談山神社
原則休館日:なし
※仏像や建物は、公開期間が限られている場合があります。