一般観光客が参列できる歴史上の人物の年忌法要として、京都人や歴史ファンの間では「信長忌」がよく知られています。毎年6月2日に行われ、年に一日のこの日だけ、阿弥陀寺(あみだじ)本堂内が一般公開されます。
- 阿弥陀寺は本能寺で収容した信長の遺骨を埋葬したとされ、複数ある信長の墓でも本流イメージが強い
- 歴史上の人物の法要に一般客が参列し焼香できる数少ない機会であることも人気の理由
- 信長の遺骨を守り抜いた住職・清玉(せいぎょく)のエピソードは、歴史ファンを常にうならせる
日本史上最大のミステリーを今に伝える場所にふさわしく、とても凛とした境内です。京都にのこる信長ゆかりの場所としては、ここが最もいにしえの趣を伝えています。
1582(天正10)年6月2日未明の本能寺の変の後、明智軍の兵士が織田信長の遺骸を懸命に捜索しますが発見できなかった、が歴史上の公式見解です。後継者となった秀吉が10月10日に大徳寺で行った公式の葬式では、信長の遺骨がないまま行われたことになっています。
明智軍が遺骸を発見できなかったのは清玉が監視をすり抜けて持ち帰ったため、秀吉が執り行った葬式で信長の遺骨がないのは清玉が引き渡しを拒否したため、という由緒が阿弥陀寺には伝わっています。この由緒が事実なら、阿弥陀寺の墓は正真正銘の”本物”になります。
この由緒話は、日本経済新聞の連載小説が2005年に単行本化され、250万部を超える大ベストセラーになった加藤廣著「信長の棺」でも取り上げられ、一躍有名になります。
しかし冷静に考えてみましょう。光秀は、信長を討ったことを証明するために遺骸の確保が絶対に必要なはずで、清玉が監視をすり抜けて持ち帰ることはほぼ不可能。最高権力者の秀吉から「遺骨を出せ」と言われ、拒否し続けたまま過ごすことはほぼありえない。「信長の棺」が大ベストセラーになった理由は、この2点の由緒話の推理に尽きるでしょう。
信長忌当日、織田の家紋が山門になびく
阿弥陀寺は清玉が1555(天文24)年に、帰依した戦国武将の援助により現在地からは西にある今出川大宮付近で創建しました。清玉は織田家中で育てられたというエピソードもあるようで、信長とは早くから深い関係にあったと考えられています。
現在の敷地・今出川寺町には1585(天正13)年頃、秀吉による都市改造で移転しました。この移転の際も、信長の遺骨を秀吉に引き渡す大きな機会になったと思われますが、そうした記録はありません。
江戸時代初めには、本能寺で信長と運命を共にした森蘭丸の一族で津山藩主となった森氏からの援助があったようですが、2度の火災にあったこともあり、寺勢は永らくふるいませんでした。
信長の墓
法要は10:00から30分ほど行われ、一般客も参加できる焼香が続きます。一般客には歴史ファンが多いのでしょう。日本史上最大のスーパースターに焼香するにあたり、みなさんとても神妙なおもむきです。焼香の後に行われる墓前での法要も、一般客が参列できます。
信長だけでなく、嫡男・信忠や森蘭丸を始め多くの運命を共にした武将たちの墓が並んでいます。440年前の一大歴史ドラマの痕跡を濃密に感じることができます。
この日以外は公開されない本堂では法要の合間に、一周忌の際に造られた信長の木造など、火災を免れてわずかに今に伝わる文化財も公開されます。こちらも信長という稀有のスーパースターの悲劇の人生の痕跡を濃密に感じ取ることができます。
境内はさほど広くはないですが、新緑が美しくとても清潔な印象です。比叡山がのぞめるのも、実に京都的でもあります。
境内
毎年6月2日の信長忌の日の前後に阿弥陀寺付近でタクシーに乗っていると、結構な確率で運転手から聞く都市伝説があります。
阿弥陀寺を行き先に告げられること自体が珍しく、同名の寺は京都に複数あるためどこかを確認すると、寺町で信長忌が行われる阿弥陀寺という。わざわざ法要に訪れるとは殊勝お客さんだと思ってどこから来たか聞くと、ロサンゼルスからと言われてさらに仰天した、という話です。まさに京都らしい都市伝説です。
歴史上の人物の法要は京都でも随所で行われていますが、一般客が参列できる法要はほとんどありません。秀吉が公式の菩提寺とした大徳寺総見院の法要も一般客は参列できません。スーパースターをしのぶことができるとても貴重な機会です。しっかり焼香しましょう。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
清玉はなぜ信長の遺骸を収容し、自らの手で守り続けることができたのか?
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<京都市上京区寺町通今出川上ル>
阿弥陀寺
信長忌
会期:毎年6月2日(日付で固定) 2019年は日曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~14:30
※本堂内の拝観は、信長忌当日のみ可能です。
※10:00~10:30頃行われる法要中は、本堂内の拝観はできません。
※法要中は一般参列者も焼香できます。
※スタート時間は当日の法要の進行や天候に左右される場合があります。
<京都市上京区寺町通今出川上ル>
阿弥陀寺
【京都市観光協会サイト】 阿弥陀寺
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~16:00
※境内と信長墓所の参拝は常時可能です。
◆おすすめ交通機関◆
地下鉄烏丸線「今出川」駅下車、1番出口から徒歩10分
京阪電車「出町柳」駅下車、5番出口から徒歩10分
叡山電車「出町柳」駅下車、徒歩10分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
京都駅→地下鉄烏丸線→今出川駅
※この施設には駐車場はありません。
※イベント開催時は、道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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