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南禅寺・金地院 ~王者の風格を味わえる上質な庭園

2018年05月20日 | お寺・神社・特別公開

南禅寺の塔頭・金地院(こんちいん)は、京都に数ある塔頭寺院の中でも所有文化財の多さはトップクラスです。そんなたくさんの文化財がこの塔頭に集まるようになったのは、何といっても江戸時代初期の「黒衣の宰相」として知られる以心崇伝(いしんすうでん)の威光です。崇伝は金地院に住しため金地院崇伝とも呼ばれます。

崇伝が三代将軍・家光の御成(おなり、権力者が臣下を訪問すること)のために造った鶴亀の庭は、江戸初期の著名な作庭家・小堀遠州による作庭記録が残る唯一の庭園で、景観の国宝である「特別名勝」に指定されています。

境内に入ると、独特の凛とした空気を感じます。極上の空間・南禅寺の境内にあって、特別な存在感を示す場です。


鶴亀の庭

金地院の創建は定かではなく、1605(慶長10)年に南禅寺住職となった崇伝が自身の住居として中興してから、実質的に歴史が始まります。

1608(慶長13)年に家康の外交や寺社政策のブレーンを務めていた相国寺の西笑承兌(さいしょうじょうたい)から後任として推薦され、キリスト教禁令・寺院諸法度・武家諸法度・禁中並公家諸法度といった幕府の重要政策の立案に深くかかわります。秀忠・家光と三代にわたって将軍に仕え、徳川政権の安定を実現した立役者となりました。


金地院の東照宮

家康は死の床につくと、久能山・日光・金地院の三か所に東照宮を造るよう遺言します。全国に数多くの東照宮がありますが、家康の遺言という文句なしの由緒があります。久能山・日光の本殿は国宝ですが、小堀遠州が設計した金地院の東照宮は重文です。大きさや壮麗さは控えめになりますが、天皇や豊臣贔屓が多い京都にあって設計に配慮したのかもしれません。

崇伝は天皇が幕府の下になることを世間に知らしめた紫衣(しえ)事件の処置に大きく関与します。また相国寺が握っていた五山すべての僧侶の人事権を手にし、そのポストを幕末まで金地院の住職が担うことになります。

まさに徳川の威光をバックにしたものであり、そのため京都では人気がなかった可能性が高いと思われます。しかしこの徳川の威光こそが金地院の原動力であり、現代にかけがえのない文化財を数多く伝えた要因であることは間違いありません。

小堀遠州が作庭したとされる庭は京都だけでも数多くありますが、不思議なことに確証が残っているのは金地院だけです。文化財や建造物とは異なり、目立たないところにさりげなく作者の名を入れるという習慣は庭にはありません。

崇伝と遠州が作庭について頻繁にやり取りした手紙が残されており、これが決め手となって遠州作庭の中で唯一「特別名勝」になっています。国宝や特別名勝は文化財として最高格の評価であり、作者が明確なことが重要な評価点になるためです。


鶴島

鶴亀の庭は実にシンプルです。手前の白砂には一切の配置がありません。山すその間際に永遠の繁栄を象徴する鶴と亀の石を島のように置き、その中間からは、現在は400年の植生の変化で見えませんが、東照宮が見えていました。まさに王者である家光をうならせる設計です。

白砂が奥行きを感じさせ、その背後にとても豊かな植生が広がっていることから、窮屈さを一切感じさせません。シンプルさで上質感を表現した稀有の庭です。ぜひ方丈の真ん中に座って庭を眺めてください。家光と同じ目線で庭を見ることができます。

豊国神社にある国宝の唐門は幕末まで金地院にありました。京都国立博物館に寄託されている国宝「秋景山水図・冬景山水図」は東山御物だった中国の水墨画の傑作です。江戸時代の250年間で絶品がここに集まってきたのです。

庭園以外のほとんどの文化財は通常は公開されていませんが、庭園だけでも見る価値は十二分にあります。金地院庭園は旅行ガイドの扱いが大きくないためか、観光客はさほど多くありません。そのため庭のすばらしさを存分に満喫できます。なるべく長い時間、座って見てください。いろんな見え方がしてきます。

こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。



稀代の時代小説家・火坂雅志が描いた金地院崇伝の生涯


金地院(南禅寺塔頭)
https://kanko.city.kyoto.lg.jp/detail.php?InforKindCode=1&ManageCode=1000075(京都市観光サイト)
原則休館日:なし
※公開期間が限られている文化財や建物があります。

おすすめ交通機関:地下鉄東西線蹴上駅下車、徒歩5分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→蹴上駅


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