美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

京の冬の旅「豊光寺」 ~相国寺の二人の偉人が愛した空間

2018年01月22日 | お寺・神社・特別公開


公家の屋敷のような気品のある境内

京都・相国寺の中心、法堂と方丈が並ぶ北側に隣接して塔頭の豊光寺(ほうこうじ)があります。禅宗の大寺の境内には通常多くの塔頭が並んでいますが、中心の法堂に近いほど特別な位置づけにあることを意味します。

豊光寺は、相国寺が戦国時代と明治の廃仏毀釈の2度、存亡の危機にさらされていた状態から救った「二人の中興の祖」ととてもゆかりがあります。境内は塔頭とは思えない風格を感じさせ、相国寺にとって特別な空間であることを暗示しています。

普段は非公開ですが、「京の冬の旅」で特別公開されています。相国寺が歩んできた歴史の重さを感じることができます。

「京の冬の旅」は春夏秋冬の4度、京都の普段非公開の寺社の全体や一部分が公開される京都観光の恒例イベントの一つです。春秋はそれぞれ10日間ほどしか公開期間がありませんが、夏冬は2ヶ月以上期間が設定されているため、遠方の方も含めて訪問しやすいことが魅力です。

相国寺は足利義満が肝いりで開いた寺ですが、幕府の権威の失墜とともに戦国時代には荒廃していました。秀吉がほぼ天下を手中に収めた頃、一人目の中興の祖「西笑承兌(さいしょうじょうたい)が現れ、伽藍の復興を進めました。

現在の相国寺の法堂はこの頃の再建で、桃山時代の禅宗建築の傑作です。豊光寺は秀吉の死の直後、秀吉の追善(ついぜん、冥福を祈り故人に因んだ行事を行う)のために西笑承兌によって建立されたものです。

西笑承兌は、秀吉・秀次・家康と権力の趨勢が変わっても常に時の権力者から信望を得た人物で、文禄の役の講和交渉の際に秀吉の前で明の皇帝からの手紙を読み上げたという逸話があります。

また家康が関ヶ原の戦いの前に上杉の家老・直江兼続から受け取って激怒した“直江状”はよく知られていますが、この手紙は兼続が家康から交渉のパイプ役を任されていた西笑承兌にあてたものです。まさに初期の徳川将軍の側近として著名な天海や崇伝に匹敵する「黒衣の宰相」だったのです。

明治維新になり、幕府からの禄の停止と廃仏毀釈のムードで全国の寺は苦境に立たされます。この時現れたのが二人目の中興の祖「独園承珠(どくおんじょうじゅ)」で、京都市中を焼き尽くした天明の大火(1788年)で焼失していた豊光寺を再興しています。

独園承珠は、仏教寺院を神社の傘下に置いて自由信仰を認めないとする明治新政府の政策に立ち向かってこれを諦めさせ、仏教寺院の独立を勝ち取ります。また伊藤若冲が相国寺に寄進していた最高傑作「動植綵絵」を宮内省に献納し、巨額の下賜金を得ることで現在の広大な伽藍を維持する英断をしたのも独園承珠でした。

異教であるキリスト教系の同志社大学の創設時に、隣接する現在地を提供する決断も行いました。独園承珠もあらゆる分野で後世に名を遺す偉人だったのです。


相国寺の中興の祖が愛した庭はとても静か

相国寺には無数のアカマツの巨木が生い茂り、隣接する京都御所以上に静かな境内です。その中心に近い豊光寺もとても静かで、気品のある松が苔に覆われた庭を凛とした空間に魅せています。「京の冬の旅」公開期間中は、独園承珠の肖像も展示されています。激動の時代を乗り切ろうとする揺るぎのない意志が、そのお顔に表現されています。


水がとても綺麗、手入れが行き届いています

社会的地位のある人の別荘のような趣のある、手入れの行き届いた綺麗な寺です。次はいつ公開されるかわかりません、この機会に是非。

こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。



直江状で知られる上杉景勝の意地を深堀


第52回 京の冬の旅 非公開文化財特別公開 「相国寺 豊光寺」
https://www.kyokanko.or.jp/huyu2017/huyutabi17_01.html#08

主催:京都市観光協会
会期:2018年1月6日(土)~3月18日(日)
原則休館日:なし

豊光寺の沿革(相国寺サイト内)
http://www.shokoku-ji.jp/img/sanpai_img/s/hokoji.html

※この寺は常時公開されていません。次の公開時期は未定です。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 京都国立近代美術館「ゴッホ... | トップ | 京の冬の旅「林光院・相国寺... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

お寺・神社・特別公開」カテゴリの最新記事