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百段階段で戦前にタイムスリップ ~東京 目黒 雅叙園で12/24まで

2018年12月01日 | 城・屋敷・歴史遺産

東京・目黒の雅叙園(がじょえん)と言えば、今年2018年に創業90周年を迎え、結婚式場の老舗としてすっかり定着しています。その老舗イメージを象徴する空間であり、創業当時の面影を見事にのこす木造建築・百段階段の空間美を純粋に楽しめる展覧会が行われています。

1935(昭和10)年に建てられた百段階段は、「昭和の竜宮城」と呼ばれていた雅叙園創業時の建物の中で唯一現存します。鏑木清方(かぶらききよかた)ら当代一流の芸術家に託され造られた各部屋の個性のある装飾からは、戦争の足音が近づく中で非日常の空間を楽しんだ当時の人たちの笑い声が聞こえてくるかのようです。

保存状態が良く、とても大切に保存されていることが分かります。ジブリ映画「千と千尋の神隠し」の湯屋の内装のモデルにもなった空間です。戦前へのタイムスリップ気分をぜひお楽しみください。



雅叙園は当初、1928(昭和3)年に芝浦で料亭として開業し、1931(昭和6)年に現在地に移転しています。日本最古の結婚式場と考えられており、結婚式という特別な瞬間を華やげるよう、豪華な空間美の造形に徹底的にこだわっていたようです。百段階段が建てられた1935(昭和10)年は2・26事件の前年です。軍部の締め付けが厳しくなる中で、どうやってこんな”贅沢”を造れたのかが不思議でなりません。

百段階段は、目黒川の段丘の斜面にそって少しずつ斜面をあがるよう建てられた建物を、一直線につなぐ階段にその名を由来しています。現在も目黒駅から雅叙園のある目黒川沿いに向かうと急な坂を下ります。坂の多い東京でもかなりの急な坂で、階段にした方がよいと思えるほどです。


ホテル雅叙園東京の正面玄関

雅叙園の正面玄関の起り(むくり)屋根は、大きな瓦葺きの屋根の中間が通常のカーブとは逆に膨らんでおり、借景となったビルのガラス壁面にもよく調和しています。この玄関を入った左側に百段階段への入口があります。


百段階段のスタート地点

百段階段のスタート地点から上に続く階段を眺めると、遠近法で先端はほとんど見えなくなります。窓が少なく日中でも暗い階段を、上質なライトの光が足元だけを照らしています。まさに竜宮城へとあがって行くように高揚感を最初から盛上げてくれます。階段の壁に装飾はありませんが、窓の組子のデザインはとてもモダンです。天井絵にもこだわりを感じます。和風建築は天井絵でその空間の格式や豪勢さをさりげなくアピールします。

【ホテル雅叙園東京公式サイト】 百段階段と室内の画像が掲載されています

7つの部屋は個性が異なり、上に行くほど趣がよりシンプルで洗練されていくような印象を受けます。しかし障子の組子のデザインや、大きめの天井画を描ける格(ごう)天井の枠の大きさには共通性も感じます。客の格式や好みに応じて趣向を変えながらも、雅叙園としての共通のアイデンティを伝える工夫をしたのでしょう。

3つ目の草丘(そうきゅう)の間は、障子に覆われ光を取り込むことができる部屋です。外の風景と調和するような欄干の松原や天井の草花の絵が目を引きます。

6つ目の清方(きよかた)の間には作者の日本画家・鏑木清方の名が冠されています。装飾はシンプルですが、床柱のほか、部材の上質さが目立ちます。そんな上質な空間の中に、清方らしい清楚な美人画が実に品よく配されています。

最上部の頂上(ちょうじょう)の間は、華族の邸宅のような空間です。天井画を除いて側面には絵は描かれずとてもシンプルです。この部屋も障子に囲まれ外光を取り入れることができます。

展覧会期間中、この部屋でショートムービー「In the Still Night」が上映されています。11月にパリで行われた日本政府主催の日本文化をPRするイベントで、ミュージアムホテルとしてホテル雅叙園東京を紹介したものです。映像の美しさにはとにかく息をのみます。

戦前の人々に愛された非日常空間が現存していることは驚きです。企画展開催時に公開される百段階段は、空間に展示物があります。今回のように空間美そのものを体験できる機会は貴重です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



明治~戦前、東京レトロ建築ガイドの決定版

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ホテル雅叙園東京
創業90周年特別企画 百段階段展
【展覧会公式サイト】

会期:2018年11月29日(木)~12月24日(月)
原則休館日:会期中は無休
入館(拝観)受付時間:10:00~16:15(金土曜~19:15)

※この展覧会は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影とWeb上への公開が可能です。ただしフラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音は禁止です。
※百段階段は一般公開されていません。企画展開催時もしくは食事つきツアーへの参加時に公開されます。



◆おすすめ交通機関◆

JR山手線「目黒」駅下車、西口から徒歩5分
東急目黒線・東京メトロ南北線・都営地下鉄三田線「目黒」駅下車、正面口から徒歩5分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
東京駅→JR山手線→目黒駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には有料の駐車場があります。


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