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日本建築の天井と床のデザイン:美術鑑賞用語のおはなし

2018年02月16日 | 美術鑑賞用語のおはなし



歴史的建造物の室内に入ると、私は必ず天井を見るようにしています。天井を見ると、その部屋がどの程度の身分の人が使ったか、客人を迎えたかがわかるからです。盛り上がっている天井、格子の意匠が繊細な天井は、部屋の格式が高くなります。作り方や意匠の違いで時代や建築様式もある程度わかります。格子の中にはさりげなく天井絵が描かれていることも少なくありません。

一方、室内の下面となる床(ゆか)・土間にも様々な意匠があります。こちらも作り方や意匠の違いで時代や建築様式がある程度わかります。ぜひ室内の上と下をじっくり見てください。


1)天井(=室内の上面)

室内の上面である天井は、中国大陸文化の影響が強い禅宗様や大仏様の仏教寺院建築では「天井板がない」、庶民の住宅を除いた和風建築の場合は、竈や囲炉裏がある部屋を除いて「天井板がある」のが基本です。禅宗寺院でも生活空間となる方丈や書院は「天井板がある」のが一般的です。


化粧屋根裏(けしょうやねうら)


化粧屋根裏 <妙心寺 東海庵 庫裏・京都>

化粧屋根裏は、天井に平面を張らず、垂木や桁・梁など骨組み構造が見えるものです。飛鳥・奈良時代や大仏様・禅宗様など中国文化の影響が強い寺社建築で多く見られます。茅葺屋根の農家などでは、囲炉裏の煙で茅葺を燻製させて屋根の耐久性を増すために天井板を張りません。仏教寺院の庫裏、都市の町家、武家住宅でも、竈や囲炉裏の上だけは煙突にするため天井板を張りません。


組入(くみいれ)天井


組入天井 <法隆寺・大宝蔵院>

組入天井は、飛鳥・奈良時代の建築に多く見られます。梁や桁の上に格子の木組みをのせ、板をかぶせたシンプルな構造です。比較的高い位置にあり、格子木の幅が太く、格子間の四角が小さいことが特徴です。天井面の高さが高いこともあり、大陸風の雄大な印象を与える天井です。飛鳥・奈良時代の寺院建築は、内陣は大陸風に天井がなく、外陣にのみ組入天井が設けられる場合もあります。


格(ごう)天井


格天井 <醍醐寺 三宝院>

格天井は、平安時代に国風文化が進んで和様建築が広がるに伴い、日本人好みの低い天井として造られるようになりました。組入天井とは逆に、格子木の幅が細く、格子間の四角がとても大きいことが特徴です。仏教寺院や書院造建築に広く用いられています。


小組(こぐみ)格天井


小組格天井 <毛利邸・防府>

「小組」とは、格天井の格子間の四角の中にさらに格子模様を装飾したものです。制作に時間と繊細な作業が要求されるため、格天井より格式が高いことを示します。大寺院や身分の高い公家、大名クラスの建築にほぼ限られます。


折上(おりあげ)天井

天井面をさらに上方向にへこませたように高くする意匠を「折上」と言います。格式が高いことを示します。「折上小組」と格式の高さがダブルになる天井もあります。

【公式サイト】 二条城 パノラマウォーク <大広間>一の間・二の間の天井

二条城の二の丸御殿・大広間の天井は三段構造です。床が一段高い「一の間」の内、将軍が座す中心部だけ二重に折り上げた「二重折上格天井」で、周囲は「折上格天井」です。床が一段低い「二の間」も「折上格天井」ですが、一の間の天井より低くなっています。江戸時代の絶対的な身分差を示す代表例です。


船底(ふなぞこ)天井


船底天井 <桂離宮 賞花亭・京都>

船底のように三角形に中央が盛り上がっている天井です。京都・大原野三千院・往生極楽院のものがよく知られています。阿弥陀如来の頭部の上の光背が、船底天井の最高部ギリギリまで伸びています。茶室や寺の回廊でもよく用いられます。


鏡(かがみ)天井

【JR東海「そうだ京都、行こう」サイト】 妙心寺 法堂 雲龍図

鏡天井は、一切の凹凸がなく平面の板だけで造られている天井です。禅宗様の仏殿・法堂に多く見られます。平面を活かして法堂には雲龍図が描かれます。


竿縁(さおぶち)天井


竿縁天井 <旧朝倉家住宅・東京>

黄色の線で示した「竿縁」は、天井板を押さえる部材を指します。竿縁天井のデザインの根幹は、格子状ではなく直線です。安土桃山時代に現れた「数寄屋風(すきやふう)」建築はほぼこのスタイルです。より洗練された印象を与えます。明治以降の実業家や政治家らによるお屋敷建築はほぼ、上流階級のステイタスであった「数寄屋風」であり、天井も竿縁が多くなります。茶室でも多く見られます。

【Wikipediaへのリンク】 天井



2)床(ゆか)・土間(=室内の下面)

室内の下面は、中国大陸文化の影響が強い禅宗様や大仏様の仏教寺院建築では、地面と同じ高さで「土間(どま)」と呼びます。和風建築では地面から高い「床(ゆか)」を張るのが基本です。禅宗寺院でも生活空間となる方丈・書院は「床を張る」のが一般的です。

床は、室町時代までの寝殿造りでは「板敷(いたじき)」、室町時代以降の書院造の室内では「畳敷(たたみじき)」が基本です。書院造でも廊下や縁側は板敷です。禅宗寺院の方丈でも板敷はよく用いられます。

「土間」は、土のままではなく舗装されている場合があります。舗装の素材によって「瓦敷(かわらじき)」「石(いし)敷」があります。土間に敷く瓦を「甎(せん)」と呼ぶ場合もあります。



瓦や石の敷き方として、「布敷(ぬのじき)」は土間の長方形と平行に敷きます。「四半敷(しはんじき)」は、土間の長方形と45度の角度で斜めになるよう敷きます。禅宗様の仏教寺院の仏殿・法堂でよく見られます。


石・布敷 <法隆寺 夢殿>


瓦・四半敷 <相国寺 方丈>

【Wikipediaへのリンク】 床

【Wikipediaへのリンク】 土間



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