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ライト建築+絶品の大正モダニズム空間_芦屋 ヨドコウ迎賓館

2019年07月04日 | 城・屋敷・歴史遺産

近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)が設計した住宅建築が、ほぼ竣工当時の姿で芦屋に現存しており、一般公開されています。ヨドコウ迎賓館です。

  • 日本でライトがのこした住宅空間を堪能できる唯一の遺産
  • 1974(昭和49)年、大正時代の建築&RC(鉄筋コンクリート)造り、として初の重要文化財指定
  • 建物からは現在も大阪湾の絶景が楽しめ、100年前の大正モダニズムの栄華がしのばれる


大阪と神戸のほぼ中間で、タイムスリップしたような贅沢な空間を味わえます。阪神大震災でも大きな被害を免れた強運の持ち主です。


玄関へのアプローチ

ヨドコウ迎賓館は、ライトが基本設計を行い、帰国したライトの後を引き継いだ弟子・遠藤新(えんどうあらた)と南信(みなみまこと)によって、1924(大正13)年に竣工にこぎつけました。

竣工時のオーナーは灘五郷の名門造り酒屋・櫻正宗の当主だったため、文化財としては「旧山邑(やまむら)家住宅」と呼ばれています。山邑家は別邸として10年ほど利用した後に手放しており、1947(昭和22)年から現在の(株)淀川製鋼所の所有となります。社長邸や独身寮として使用された後、1989年から一般公開されています。

1974(昭和49)年と比較的早い時期に大正時代の建築として初の重要文化財に指定されたように、大正モダニズムの洋風住宅建築としても非常に貴重です。重文指定以降も3度、大きな保存修復工事が行われ、往時の趣を伝えています。今年2019年の2月までも、約2年間の修復工事が行われていました。


バルコニーから見た大阪湾

阪急芦屋川駅を降りて芦屋川沿いに山の方へ向かうと迎賓館に至る急な上り坂が見えてきます。地元ではライト坂と呼ばれており、急な坂を上がると体験できる別世界への登竜門のようです。

迎賓館は芦屋川が切り開いた渓谷の壁の上、山の斜面が突き出たような丘の斜面に建てられています。そのため現在でも南側の大阪湾や大阪、神戸の街並の絶景を楽しむことができます。

坂の途中の駐車場のからさらに上がったところに正門があり、ここからは平たんです。正門をくぐっても建物しか見えず、入口がどこかわからなくなるのですが、これもライトのマジックの一つです。通常とは異なり、正門から最も奥まった場所に玄関を配置しています。建物の不思議な外観を見ながら進んで行くと絶景が拡がったところに玄関がある、という演出です。

建物の外観は、石の複雑な造形を多用した、いわゆるライトらしいデザインです。明治村に移築された旧帝国ホテル・ライト館(中央玄関)や遠藤新が設計した西宮市の甲子園会館(旧甲子園ホテル)と共通点を感じさせます。


窓がかっこいい

4F建ての室内はほぼすべてを見学することができます。山の斜面に沿って階段状に建てられているのですが、小さい階段を多用することで高低移動をあまり感じさせません。迷路のように摩訶不思議な空間になっています。これもライト建築の特徴です。

部屋の入口や階段は随所で少し狭いと感じるほどに造られています。入口が狭いとその先の空間が広く感じられる効果を狙ったものと考えられています。廊下は見通しが悪く、初めて来る人はその先に何があるのだろうと思うため、ワクワク感を高める設計テクニックの一つです。

茶室のにじり口や日本庭園の通路で先が見渡せないのと同じ考え方であり、ライトがこうした日本文化まで把握していたのかと創造が働きます。

3Fに設けられた和室は、施主の要望で洋室から変更されたもので、室内空間だけが和風です。廊下は洋風なのでとても不思議な感じがしますが、室内の和の趣はきちんと保たれています。窓を大きくして光をたっぷりと取り込んでいます。障子の代わりにはめられた和のデザインのガラス窓や金属製の欄間がとても上質です。


3F和室

4Fには洋風の食堂が設けられ、教会のようなデザインで造られていますが、どこかキャンプ場のバーベキューのテーブルのように見えます。大きな暖炉を囲んだ客人を招いた食事にはうってつけの趣です。

4F食堂の南側には絶景のバルコニーがあります。この絶景も客人を間違いなくうならせます。昼は大きな青空を、夜は宝石のような夜空を楽しむことができます。100年前と変わらない極上の空間です。

【ヨドコウ迎賓館 公式サイトの画像】バルコニーから見た煙突

バルコニーからは建物の美しさも味わうことができます。石造りの煙突が、煙突ではなく塔に見えるように青空に突き出ています。船首から船の堂々とした姿を見ているようで、非日常感を濃厚に感じさせます。


4F食堂

甲子園会館(旧甲子園ホテル)と同じく、ヨドコウ迎賓館は100年前の夢の国がそのままタイムスリップしてきたような感があふれています。オーナーのヨドコウは巨額の維持費を負担していると思われますが、ここにしかない貴重な文化財を守る立派なメセナを果たしています。

古建築の取り壊しがよくニュースになりますが、維持するのもとても大変です。日本は文化財保護の国家予算がとても少ない国です。文化財を守り伝える意義と価値をあらためて考え直すよい機会にもなります。ぜひ訪れてみてください。わざわざ足を運ぶ価値があります。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



ライト建築があるのはアメリカ以外に日本だけ
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<兵庫県芦屋市>
ヨドコウ迎賓館
【公式サイト】https://www.yodoko-geihinkan.jp/

原則休館日:月/火/木/金曜(水/土/日曜日と祝日+イベント開催時のみ開館)
入館(拝観)受付時間:10:00~15:30

※団体ではない個人の見学には予約は必要ありません。
※この施設は、車いすやベビーカーでの観覧には適しません。



◆おすすめ交通機関◆

阪急神戸線「芦屋川」駅下車、北口から徒歩10分
JR神戸線「芦屋」駅下車、北口から徒歩20分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
大阪駅(梅田駅)→阪急神戸線→芦屋川駅

【公式サイト】 アクセス案内

※ヨドコウ迎賓館入口直前のライト坂は急な坂です。歩きやすい靴をおすすめします。
※この施設には無料の駐車場があります。
※休日やイベント開催時は、道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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