山伏が揃い、神事を前に祈っています
京都にある新熊野神社は、“しん”ではなく“いまくまの”と呼びます。東山の三十三間堂の近くにひっそりと鎮座しています。
平安時代末の源平争乱時に武家たちを翻弄し、熊野詣をこよなく愛した後白河上皇が特に思い入れを込めて創建しました。京都らしい難読固有名詞にふさわしい由緒を持っている神社です。毎年正月明けに、京都でも有数の火祭り神事である「左義長(さぎちょう)」が行われます。
正月明けに、竹や木を組んでしめ飾りなどを焼く火祭りを「左義長」と呼ぶのは、一見耳慣れないと思います。しかし地方で異なりますが「とんど」「どんと」「どんど」と言った通称には聞き覚えがある方が多いでしょう。全国的には「左義長」と呼ぶ方が少数派かもしれません。
後白河上皇は生涯の間に熊野詣を34回行ったとされています。回数の真偽はさることながら、片道一か月ほどかかったと言われる旅程を、朝廷と武家が入り乱れて権力争いを行った平安末期にこれほど多く行ったことはまさに驚嘆です。どれほどの影響力と経済力を持っていたかは想像を絶するばかりです。
新熊野神社は、後白河上皇が院政を行った邸宅である「法住寺殿」の鎮守社として上皇が勧請し、創建されました。日本の歴史を象徴する文化遺産として世界中の観光客を惹きつける「三十三間堂」も、「法住寺殿」の神宮寺として上皇が平清盛にプレゼントさせたものです。
平清盛や源頼朝が時の権力者として知られていますが、その陰では清盛も頼朝も思うようにはコントロールできなかった後白河上皇が、今に伝わる数多くのかけがえのない文化財を造らせていたのです。
境内全てを覆いつくすようなクスが見事
東大路を進んで新熊野神社に近づくと、クスの巨木が自然と目に入ります。後白河上皇の手植えとされています。この木の樹齢に関する科学的な真偽は聞き及びませんが、クスは数千年を超える寿命もありうることから、とても神秘性を秘めた見事な巨木です。まさに聖なるパワースポットであることを知らしめる生きたオブジェです。
コンパクトな境内の中心で左義長が行われます。焚火への点火前には祭囃子に合わせて獅子舞が行われ、正月らしさを演出します。火がつけられると瞬く間に炎が燃え上がります。炎が高いほど「吉」とされています。
寒空の下で焼餅の香ばしさが食欲をそそります
境内では焼餅やぜんざいがふるまわれます。左義長の火で焼いた餅を食べると無病息災になるとする言い伝えに因んだ風習です。
京都では新熊野神社の他にも熊野信仰のスポットがあります。聖護院近くのの熊野神社、永観堂近くの熊野若王子神社です。三社を合わせて「京都三熊野(みくまの)」として現在でも親しまれています。いずれも修験道との関連があり、神秘的な空間を醸し出しています。パワースポットや後白河上皇のファンの方には、京都では欠かせないスポットです。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさんあります。
中世の日本の二代巡礼路から中世社会を再発見
新熊野神社
http://imakumanojinja.or.jp/
原則休館日:なし
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