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京の夏の旅「輪違屋」 ~選ばれた者だけの夢の国が今に伝わる

2018年07月20日 | 城・屋敷・歴史遺産

夏に京都の非公開文化財の特別公開を行うキャンペーン「京の夏の旅」で、江戸時代の花街(かがい)の面影を色濃く残す島原(しまばら)の輪違屋(わちがいや)が公開されています。

島原は花街としての営業を1977(昭和52)年に終えていますが、わずかにのこされた花街として営業していた建物の内部を鑑賞できます。島原は京都の花街で最高格式を誇っていました。大夫(たゆう)と客たちが過ごした上質な空間には、選ばれた者だけが入ることができました。

島原は金さえ払えば遊べた「遊郭」ではありません。歌や舞といった文化や教養を楽しんだ「花街」なのです。


大夫の息遣いが聞こえてきそうな1Fの座敷

江戸時代初期の京都の花街では、2つの業態の店が協力し合って営業していました。置屋(おきや)は、芸妓(げいこ)や太夫(たゆう)を養育して派遣する店で、現在の芸能プロダクションのような立場です。置屋の中に客を入れることはありません。輪違屋は元禄時代に営業を始めた置屋でした。

揚屋(あげや)は客と芸妓・大夫が宴を催す部屋と飲食を提供する店で、現在の高級料亭やサロンに相当します。島原で輪違屋と共に江戸時代の建物が残る角屋(すみや)は、揚屋でした。

この中で宴を催す場所である揚屋は高級だったため、次第にカジュアルなお茶屋(おちゃや)業態が増えていきます。お茶屋は揚屋とは異なり、料理を自ら作らず、すべて仕出し屋に注文します。ここでいうお茶屋の業態は京都以外の多くの地域では呼び方が異なります。東京では待合(まちあい)と呼びます。

島原は幕末の大火のあおりで多くの店が祇園で営業するようになり、花街としての地位を低下せていきます。明治になるとさらに公家や武家の常連客もいなくなります。生き残るために置屋はお茶屋を兼営、揚屋はお茶屋に転換するところが増えます。輪違屋と角屋も明治以降はお茶屋としての営業も行っていました。


輪違屋の玄関

輪違屋は現在も置屋兼お茶屋として営業を続けています。そのため今回のような特別公開時以外は観光目的では入れません。店の客としてなら入ることができますが、ここは「一見さんおことわり」の店です。江戸時代のようにいわば、“選ばれた者”しか入ることができません。

現存する輪違屋の建築は、幕末の大火後の1857(安政4)年に再建されたものです。桂小五郎筆の掛軸が床の間に飾られています。伊藤博文が「幕末の名花」と呼ばれた桜木大夫(さくらぎたゆう)と遊んだ空間もこの中にあります。

輪違屋のシンボルにもなっている「傘の間」は2Fにあります。太夫道中に使われる傘を襖に貼り込んだ大胆なデザインで、現在のデザインとしてもとてもかっこよく見えます。ここで宴席を持てると、強烈な記憶ができることは間違いありません。



1Fの座敷もとても上質です。縁側の庇には和風建築では珍しい採光窓が取り付けられています。縁側の床は幅の細い板を美しい幾何学模様に組み合わせて作られており、細かい意匠からも特別感が伝わってきます。



現在の島原はほぼ完全に住宅街になっており、街並みとしての花街の面影はありません。輪違屋・角屋と花街への入口だった大門だけが、ここに選ばれた男女だけの夢の国があったことを伝えています。

花街文化のすばらしさを、今回の公開を機会にぜひ体験してみてください。角屋もあわせて京の夏の旅で公開されています。

こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。



十代目当主が語る幼き日の島原の思い出と大夫文化の本質


第43回「京の夏の旅」 輪違屋
https://kyokanko.or.jp/natsu2018/natsutabi18_01.html#02

主催:京都市観光協会
会期:2018年7月7日(土)~9月30日(日)
休館日:7/8 10:00-12:00
開館(拝観)受付時間:10:00~15:30
※他の京の夏の旅の公開施設より受付終了時間が30分早くなっています。
※靴を脱いで室内を見学します。床汚れ防止のため、裸足の場合は靴下を持参しましょう。
※この施設は観光目的では常時公開されていません。次の公開時期は未定です。

おすすめ交通機関:
JR嵯峨野線「丹波口」駅下車徒歩7分、市バス「島原口」バス停下車徒歩7分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
京都駅→JR嵯峨野線→丹波口駅
※この施設に駐車場はありません。
※道路の狭さと駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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