京都・南禅寺は数ある京都の禅宗寺院の中でも別格の趣を感じさせます。別院・南禅院のような天皇の山荘としての品格に加えて、今回ご紹介する方丈が醸し出す天皇の住居としての品格があるからでしょう。応仁の乱で一旦リセットされた五山のさらに上という足利義満による人為的な権威付けによる品格は、江戸時代初期の再建で見事に蘇っています。
本坊の白壁のデザイン
南禅寺の伽藍は東山に向かってまっすぐ造られています。三門を過ぎ少しずつ坂を上っていくと、白壁に幾何学模様が施された見事なデザインの建物が見えてきます。禅宗寺院に多い屋根の破風のデザインですが、この南禅寺・本坊の破風はことさらカッコいいのです。東山の森の緑が借景になることもあり、一目で「京都に来た」ことがわかる写真が撮れます。インスタ映え間違いなしです。
南禅寺の方丈拝観の受付入口は本坊にあります。本坊とは、現代の仏教寺院では寺を運営管理するオフィスの役割をする建物によく使われる表現です。受付を済ませ廊下を歩くと、最初から幽玄で雅な空間が目に飛び込んできます。国宝の方丈と名勝の方丈庭園です。
【公式サイトの画像】 方丈
方丈は一般的の禅寺とは明らかに異なる佇まいです。というのも、そもそも禅寺として建てられたものではなく、御所の建物を移築したものだからです。1611(慶長11)年、ほぼ徳川家の権力を確立した家康は、1591(天正19)年に秀吉が造営した京都御所をリセットして新築します。
その年、豊臣政権時代から天皇を務めてきた後陽成(ごようぜい)天皇が強引に退位し、家康が推していた後水尾天皇(ごみずのお)が即位します。後陽成天皇は当初、弟の八条宮智仁親王(はちじょうのみやとしひとしんのう)への譲位を望んでいました。しかし智仁親王が秀吉の猶子(ゆうし、養子のように家督相続を第一義としない緩やかで形式的な親子関係を結ぶ制度)なっていたことで、家康に難色を示され、実子ながらも不仲だった後水尾天皇に不本意ながら譲位することになります。
1611(慶長11)年の御所新築は、徳川の肝いりで即位した後水尾天皇への祝儀と豊臣時代の遺構を消去する目的があったと考えられます。御所の建物は建て替えの際に下賜されることはよくあります。現在の南禅寺・方丈は、秀吉が造営した京都御所のうち、清涼殿もしくは女院御所の対面御殿のいずれかを移築したものです。
方丈(南側)庭園の借景の東山、ここでしか味わえない
御所の建物は造営当時の最高級の意匠がなされます。権力を手中にしたばかりの秀吉や徳川にとっては、自らの権威づけのためになおさら気を遣いました。南禅寺・方丈には、己と向き合うことに究極の理想を求めた厳しい臨済宗寺院に、王朝文化という究極の余裕を重ね合わせた佇まいがあります。剛と柔が絶妙に調和しています。
方丈庭園は、白砂の静寂、東山の借景の緑、大きな空の解放感が三位一体となって、まさにここでしか味わえない価値を提供しています。自然に人口の造形美を組み合わせるのが大好きな日本文化の理想形がここにあります。
方丈西側の如心庭
如心庭は、京都市内を見下ろす西側にあるため、緑はさほど目立ちません。だからこそでしょうか、壁に囲まれた枯山水庭園の中には、白砂と石以外の植物は一切ありません。南側の方丈庭園と異なり、余裕は一切ありません。禅寺の原点である己と向き合う張り詰めた世界が表現されています。南禅寺は、庭ごとに変わる佇まいがとてもわかりやすく表現されています。
豊臣から徳川に天下が移ったことにより天皇になり損ねた八条宮智仁親王にも、徳川幕府は後水尾天皇に次ぐ最大限の配慮を見せています。それが桂離宮の造営です。現代に伝わるかけがえのない京都の景観の多くは、秀吉から徳川三代の時代に造られています。
江戸時代初め、時代の政治潮流を見極めながら、金地院崇伝を筆頭とする南禅寺関係者は生き残りをかけていました。そんな強い思いを現代に伝えるのが方丈です。南禅寺が今でも禅寺の「五山の上」としての風格を感じさせる理由は、天皇を頂点とする王朝文化を空間として残したからにほかなりません。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
お部屋が華やぎます
南禅寺
http://www.nanzen.net/index.html
原則休館日:年末(12月28日~31日)
※公開期間が限られている仏像や建物があります。
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