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一流の男女が一流のセンスを競った夢の跡 ~角屋

2017年07月29日 | 城・屋敷・歴史遺産

角屋の暖簾、デザインがかっこいい

 

京都の島原(しまばら)は、日本最古の花街を源流とする街である。京都の花街と言えば今では祇園が圧倒的に有名になってしまったが、江戸時代までは島原が圧倒的に格式の高い社交場であった。

 

島原は1976年に花街としての役割を終えており、祇園のように日常的に芸妓・舞妓を見かけることはない。しかし普通の住宅地として静かに時が流れる中に、かつて最先端の文化や流行を愉しむ大人の社交場であった瞬間を今に伝える貴重な建物が今に伝えられている。それが角屋(すみや)だ。

 

角屋は、花街の中で「揚屋(あげや)」という業態を担う店で、客が太夫(たゆう)(江戸で言う花魁)などの高級遊女を呼んで遊んだ、今でいう高級料亭である。客層は公家や上級武士、豪商といった政治・経済・文化のリーダー層であり

 

客は太夫と遊ぶための指名料として大金を支払うが、太夫に気に入られなければ、応じてもらえなかった。太夫はその美貌はもちろん、和歌・俳諧・琴・琵琶・書道・茶道・香道・華道・囲碁・双六といった当時のあらゆる文化・教養のセンスを兼ね備えており、現代の芸能人のスーパースターのような女性だった。そんな教養レベルが高い太夫を満足させられる男性だけが、太夫との同床を伴う一夜の恋を体験することができた。

 

揚屋という店で何ができるかは、明確な説明が難しい。花街関係者にお叱りを受けるかもしれないが、我こそはと思う男性が太夫を口説くゲームを楽しむ場、というのがおそらく最も近しいと思っている。

今とは違い自由な恋愛などありえなかった江戸時代の京都で、自らの懐と器の大きさを太夫にアピールして口説く遊びが、富裕層にはこの上ない風流だった。揚屋は、金を払えさえすればば誰でも性的もてなしを受けられる「遊郭」ではない。

 

花街のイメージが「遊郭」に変貌していくのは、江戸時代の後半で、薄給の下級武士が多かった江戸で特に顕著だった。京都でも庶民の集まる繁華街に近い祇園が「遊郭」としての性格を増していくようになる。

 

台所、木目の格子デザインに注目

 

角屋の建築は、島原に花街が移転してきた1641年から少しずつ増築されたもので、選ばれた男たちの夢の国であった揚屋としての建築では唯一今に伝わっている。宴会場の表具には、電気がなかった時代に、蝋燭の煤がこびついて取れないようだ。しかし、ここで一夜の遊びを楽しんだ男女の享楽が煤として積み重なっているようで、煤の黒光りがかえって何とも香しい。

 

建物各所のデザインも実にかっこいい。尾形乾三の器のデザインのように、現代でも立派に通用すると思う。やれ公家だ武家だと言った格式優先ではなく、身分を超えて一流のセンスとは何かを愚直に追求した瞬間の跡がこの建物には受け継がれている。

 

宴会座敷の脇の廊下、品格ある黄色い壁が選ばれた男たちを香しき園へ誘う

 

角屋は幕末史の上でも重要な舞台となった。西郷隆盛や久坂玄瑞ら勤王の志士たちが、鴻池・加島屋など豪商を招いた資金調達の会談の場となった。一方の新選組も、勤王の志士たちを追って店で狼藉をはたらくこともあった。暗殺前夜に剣の腕がたつ芹沢鴨を泥酔させようと宴席を持ったのも角屋だ。

 

フランス革命前夜、ルイ15世の妾として権勢をほしいままとしたポンパドゥール夫人は、現在のフランス大統領官邸であるエリゼ宮を邸宅とし、文化サロンのリーダーとして知られている。日本で言うと江戸城大奥に文化サロンを開いていたようなもので、京都の角屋に集った大物とは一概に比較はできないが、いずれもかけがえのない文化を今に伝えていることは間違いない。

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

 

 室内の様子と角屋の歴史が詳しく紹介された公式ガイド

(角屋文芸社)

 

 

 

角屋

開館期間 3月中旬~7月中旬、9月中旬~12月中旬

     2Fの宴会座敷の見学のみ要予約

休館日 開館期間中の月曜(例外が発生する可能性もあるので訪問前にご確認ください)

公式サイト http://sumiyaho.sakura.ne.jp/

 

 


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