美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

東大寺・お水取り ~幻想的な松明に厳かに祈る

2018年03月03日 | 祭・行事・季節の花


二月堂の舞台に向け登廊を上がっていく松明

東大寺で最も大切な宗教行事「修二会(しゅにえ)」の本行が始まっています。巨大な松明が二月堂の舞台で振り回される「お松明」は、毎年3/12の「お水取り」として特に有名です。しかし「お松明」は3/1~3/14の間、毎日行われています。極端に混雑する3/12ではなく、人混みが落ち着いている他の日に、東大寺にとっての大切な宗教行事を拝観することをおすすめします。

これは祭りではありません。厳かな気持ちで、春の訪れを告げる風物詩を体験してみてください。

「修二会」とは、仏教寺院で冬に行われる宗教行事です。僧が寺の本尊に「悔過(けか)」、すなわち懺悔することで人々の幸福を祈ります。日本全国の寺で行われていますが、東大寺や薬師寺など奈良の古寺で行われるものが著名です。旧暦の二月に行われていたことが、名称の由来とされています。

しかし明治に新暦になってから実施月を変えた寺もあり、現在はおおむね2月~4月の範囲で行われています。似たような名称で、1月の正月明けに行われる「修正会(しゅしょうえ)」もあります。寺によっては修二会との区別があいまいな場合もあり、統一された明確な定義はありません。

東大寺の修二会は「不退の行法」と称され、東大寺が存続する限り欠かさず続けられるものと位置付けられています。東大寺の修二会が始まったのは、奈良時代の752(天平勝宝4)年です。以来本当に一度も欠かさず続けられています。そのため2018年は1,267回目になります。これほど古く、かつ継続して続けられている宗教行事は世界的にも稀有でしょう。

東大寺を開山した良弁(ろうべん)の弟子である実忠(じっちゅう)が、大仏開眼の年に修二会を始めました。危機は幾度もありました。

1180(治承4)年の平重衡の南都焼討と、1567(永禄10)年の三好・松永の戦いの二度、二月堂や法華堂を除いて東大寺はほぼ全焼しています。この2度の兵火ではいずれも二月堂は無事だったことが、時の僧侶たちを奮い立たせました。焼失した大仏殿を弔う気持ちも強かったでしょう。

この後にもさらに大きな試練がありました。1667(寛文7)年には修二会本行中の失火で二月堂そのものが焼失しました。また太平洋戦争末期の1945年には、物資不足と軍による灯火管制が立ちはだかりました。この時は二月堂の扉に目張りをして光が外に一切漏れないようにし、何とか軍を説得したそうです。また松明でなくろうそくで行いました。


暗くなると二月堂に続々人が集まり始める

「お水取り」とは正確には、3/12の深夜(正確には3/13 AM1:00)に「閼伽井屋(あかいや)」から香水を汲む行事のことだけを指します。毎日行われるお松明も、3/12だけは松明の大きさが大きく、本数も11本と1本多いことから、修二会が「お水取り」という名で定着しました。おそらく報道の影響でしょう。

3/12だけは「籠(かご)松明」と呼ばれます。長さ8m・重さ80kgあります。他の日は重さが約半分です。私は3/12と3/3にそれぞれの松明を見ました。3/12の方がよく見ると大きいですが、正直大きさや迫力の違いはあまり感じません。それよりも3/12の混雑を避けることに意味があると思います。

3/12は二月堂前の広場に入場制限がかかり、最悪見れないこともあります。3/12以外の土日では人出は半分以下、平日ではさらに少なくなります。修二会はお祭りではなく宗教行事です。厳かな気持ちで拝観するには、極端な人混みは適しません。

開始時間になると二月堂前の明かりが消され、しんと静まり返ります。二月堂に向かって登廊を駆け上がる松明はとても幻想的です。練行衆が舞台の上で松明を振り回すと、巨大な火の粉が飛び散ります。火事が大丈夫かと心配になるほどの迫力があります。

練行衆の目に入ると危険なため「カメラのフラッシュ厳禁」と事前に説明されますが、少なからず守れない人がいます。地震の際の行動などで日本人はマナーがよいと思っている人が少なくないでしょうが、本当にマナーがよいのかははなはだ疑問です。


お松明の火の粉を被ると幸福になると信じられている

閼伽井屋の香水は、古くから若狭の神が10日間かけて二月堂に運んで献じたとされてきました。そのため福井県小浜市の神宮寺では現在も、毎年3/2に「お水送り」という宗教行事が行われています。若狭は京都とのつながりが深いですが、奈良とも縁があるとは驚きです。今年も多くの人に支えられ、修二会が執り行われます。

こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。



行法の臨場感と小沢昭一の語りが秀逸


東大寺「修二会(しゅにえ)」本行
http://www.todaiji.or.jp/contents/function/02-03syunie1.html

会期:毎年3月1日~15日(日付で固定)
会期中休日:なし
※お松明は3月1日~14日の毎日行われます。

お水送り(小浜市観光協会公式サイト)
http://wakasa-obama.jp/TouristAttract/TouristAttractDetail.php?64


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 飛鳥宮跡 ~日本の国の原点... | トップ | 細見美術館・京都「抱一の花... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

祭・行事・季節の花」カテゴリの最新記事