細見美術館が持つ見事なコレクションを披露する開館20周年記念展の第二弾、「抱一の花・其一の鳥」が始まりました。細見美術館の江戸琳派のコレクションは、若冲コレクションとともに日本でも有数です。
同じ琳派でも、宗達・光琳ら京都の絵師たちによる雅さとは異なる表現が江戸琳派の絵師にはあります。時代が後でもあり、画風がとても洗練されています。抱一は、京琳派や円山・四条派など偉大な先輩たちの作品をとても熱心に研究しました。江戸琳派の作品にはそんな研究成果がよく表れています。京琳派からどのように差別化を図ったのか、京都・岡崎に足を運んで確認してみてください。
展覧会は、タイトルにもつけられているように江戸琳派の二代巨頭・酒井抱一と鈴木其一の作品を中心に構成されています。春夏秋冬と季節を追って展示されています。植物と鳥をモチーフにした作品、いわゆる「花鳥図(かちょうず)」が多いことに気づかれる方も多いでしょう。
京琳派は植物と動物を一緒にモチーフにした作品は多くありません。しかし若冲や円山派など京琳派より後の京都画壇では「花鳥図」は珍しくはなくなります。
どうやったら光琳を上回る表現ができるのか、抱一は来る日も来る日も考えていたことでしょう。江戸琳派の画風は洗練されています。モチーフが持つ美しさを情緒豊かに表現しています。動植物を巧みに組み合わせ、季節感の表現を重視しています。抱一は俳人でもあり、俳句で言う季語を絵の中でどうやって表現するかを考えたのでしょう。
鈴木其一の「藤花図」は、藤棚から垂れ下がる満開の薄紫色の花を掛軸に一杯に描いています。余白は少なく藤の花の存在感がとても強調されています。藤が満開となる5月上旬の少し前にこの掛軸が床の間を飾っていると、ぽかぽか陽気が近づいていることをストレートに感じさせます。
しかし京で重視された雅さは表現にはありません。伝統的なやまと絵の平面的な描写ではなく、写実的です。京の貴族階級が喜ぶ特別な空間やモチーフを描いたものでもありません。江戸琳派は、モチーフ表現がとてもわかりやすくてカッコいいのです。
【公式サイトの画像】 展覧会チラシ裏面 鈴木其一「藤花図」
抱一の「雪中檜に小禽図」は、彼が京琳派や円山派をよく研究していたことを感じさせる作品です。ヒノキの枝葉に雪が積もっている描写は、円山応挙の「雪松図」の雪の描写を彷彿とさせます。スタイルよく伸びる幹はファッションモデルのようにすらりとしています。琳派の特徴的な技法「たらしこみ」をふんだんに用いることで、まさに木が生きていると感じさせる豊かな表情に仕上げています。
この絵にも優雅さは感じません。でも、とてもカッコいいのです。冬の床の間でいただく茶の味を、とても引き締めてくれるような絵です。
其一と並ぶ抱一の高弟だった池田孤邨(いけだこそん)の「四季草花流水図屛風」は、金碧画の中に光琳のような平面的な川を描いています。一方、草花の描写がとても写実的で洗練されています。京の雅と江戸の洒脱を一緒に詰め込んだようで、とても興味深い作品です。
【公式サイトの画像】 展覧会の見どころ
酒井抱一「雪中檜に小禽図」
池田孤邨「四季草花流水図屛風」
武家や豪商など、江戸のクライアントの好みがよくわかります。琳派は後世になるほどどんどん洗練されていく、このことがとてもよくわかる展覧会です。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
細見の琳派コレクションの集大成図録
細見美術館
開館20周年記念展II 細見コレクションの江戸絵画 「抱一の花・其一の鳥」
http://www.emuseum.or.jp/exhibition/ex058/index.html
主催:細見美術館、京都新聞
会期:2018年3月3日(土)~4月15日(日)
原則休館日:月曜日
※展示作品には、展示期間が限られているものがあります。
※この展覧会は、他会場への巡回はありません。
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