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京の夏の旅「長楽館」 ~京都にのこる明治エスタブリッシュメントの痕跡

2018年08月13日 | 城・屋敷・歴史遺産

長楽館(ちょうらくかん)は、京都・祇園にある明治の洋館ですが、案外知られていません。八坂神社の境内の東に隣接していますが、祇園エリアの”和”のイメージに遮られているのでしょうか。

明治末から大正にかけて、京都を代表する迎賓館として存在感を発揮していました。そんな100年前に上流階級が集った空間が特別に公開されています。京都の近代を確かめることができる貴重な機会です。


喫煙の間、イスラミックな幾何学タイル

長楽館は1909(明治42)年、「明治のたばこ王」と呼ばれた村井吉兵衛が建てた別邸です。設計はアメリカ人建築家のJames McDonald Gardinerです。横浜・山手に移築された「外交官の家」、明治村に移築された「京都聖ヨハネ教会教会堂」が、彼の作品として重文に指定されています。

1909(明治42)年はくしくも、東京・赤坂の迎賓館が、当時皇太子だった大正天皇が暮らす東宮御所として完成した年でもあります。日露戦争に勝利し、中国大陸進出を本格化、悲願だった不平等条約改正にも目途がついた、ニッポンの世相としてはいわば”イケイケどんどん”の時代でした。

日本のたばこ事業は、日露戦争時に戦費調達のため国家による専売制になるまでは、民間企業の自由競争でした。この専売制は1985(昭和60)年に現在の日本たばこ産業(JT)が発足するまで続きました。村井は1904(明治37)年にたばこ事業を国家に引き渡す際に莫大な補償金(=事業売却収入)を手にします。その補償金により京都に別邸として長楽館を、東京・永田町に純和風の本邸を建設します。


入口からして宮殿のような趣

長楽館の建物外観はルネサンス風ですが、館内は部屋ごとに様式を変えてデザインされています。1-2Fは西洋を中心に中国やイスラムの様式が採用されています。今回の京の夏の旅で特別公開される3Fだけが和風です。

【公式サイトの画像】 迎賓の間

長楽館は現在、カフェ・レストランおよびオーベルジュ(ホテル)として使用されています。玄関入ってすぐ右手の「迎賓の間」はロココ調の応接間で、現在はアフタヌーンティー専用の部屋として使用されています。貴婦人たちが集うのにふさわしい落ち着きと華やかさを兼ね備えた佇まいです。


玄関ドアのガラス細工は竹林をあしらったアール・ヌーヴォー調

2Fは主にカフェとして利用されています。異なる部屋でお茶をいただくと、お茶の味が変わると感じられるほど、部屋の個性の違いが楽しめます。長楽館は建設当時の世紀末に人気のあった様々な意匠が取り入れられていますが、なぜかアール・ヌーヴォーは窓など限られた部分に限定されています。村井のさりげなさへのこだわりなのでしょうか。


3Fに上がると驚きの空間の変化を目にする

赤い絨毯を敷き詰められた重厚でクラシカルな階段で3Fにあがると、一転”和”のデザインになります。ジブリのアニメの建物に登場するような斬新な変化に驚かされます。

【公式サイトの画像】 御成の間

御成の間(おなりのま)は、格式の高い折上格天井書院風に造られており、特に大切なお客様に使ってもらうことを意図したと見受けられます。北側の火打窓からは、緑に包まれた京の街の絶景が楽しめます。夏には五山送り火も見えるでしょう。


円山公園の緑と北山の遠景

長楽館は大正時代には京都を代表する迎賓館としても使用されていました。伊藤博文や英国皇太子、ロックフェラー氏など当時の世界を代表するエスタブリッシュメントたちが訪れています。館内に入った時の第一印象として、多くの人が”金に糸目をつけずに造った”、とお感じになると思います。

長楽館の華やかな時代は長くは続きませんでした。オーナーの村井吉兵衛がこの世を去った直後の1927(昭和2)年、金融恐慌に巻き込まれて村井一族が経営する銀行は破綻、長楽館や永田町の本邸は売却されます。

長楽館は複数のオーナーを転々とした後、現在の長楽館の先代オーナーが1954(昭和29)年に入手します。地道に修復を続け、1965(昭和40)年にレストランとホテルを開業、現在に至ります。永田町の本邸は売却直後に比叡山延暦寺に「大書院」として移築され、現在も延暦寺の迎賓施設として使用されています(非公開)。本邸の跡地は現在、東京都立日比谷高校です。

こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。



戦災を免れた京都に数多く残る近代洋館建築の魅力を解説


京の夏の旅「長楽館・御成の間」
【主催者による公式サイト】https://www.kyokanko.or.jp/natsu2018/natsutabi18_01.html#03

主催:京都市観光協会
会期:2018年8月8日(水)~9月30日(日)
原則休館日:8/18,19,28、9/2,5,8,10,11,15,16,19,22,28、9/29 10:00~14:00
入館(拝観)受付時間:10:00~16:00
※「京の夏の旅」の他の公開施設とは期間が異なります。
※3F御成の間は靴を脱いで見学します。床汚れ防止のため、裸足の場合は靴下を持参しましょう。
※長楽館の1-2Fは、通常はレストラン・カフェ・バー・ブティックとして利用されています。「京の夏の旅」期間以外の、店舗とオーベルジュ利用者の館内見学については長楽館にお問い合わせください。
※3F御成の間は、オーベルジュ宿泊者のみ常時見学できます。

長楽館
【公式サイト】http://chourakukan.co.jp/



おすすめ交通機関:
京都市バス「祇園」バス停下車、徒歩5分
JR京都駅から一般的な下記ルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
烏丸口「京都駅前」D1/D2バスのりば→市バス86/100/106/110/206系統→「祇園」バス停

【公式サイト】 アクセス案内

※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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