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ドイツ的で斬新な「世紀末ウィーンのグラフィック」_京都近美 2/24まで

2019年01月27日 | 美術館・展覧会

京都国立近代美術館で、展覧会「世紀末ウィーンのグラフィック」が行われています。19世紀末にウィーンで花を咲かせた芸術表現が、グラフィック作品として一堂に会します。

  • 印刷メディアが発達する時代、グラフィックには絵画とは異なるマスに伝わるデザインが要求された
  • 安く大量生産できる多色刷り版画にも、日本の浮世絵の刺激もあって多くの芸術家が取り組んだ
  • クリムトやシーレら著名なウィーン分離派のデッサン・グラフィック作品も多数展示


19c後半から国力の衰退が目立ち始めたオーストリア帝国にあって、世紀が変わる前後のウィーンの街はそうした現実から逃避するかの如く、あらゆる文化芸術面では繁栄を謳歌していました。第一次大戦で強国としての地位を完全に失う前夜に製作されたグラフィックアートからは、時代の荒波を文化面で切り開こうとするような強固な意志さえも感じます。



世紀末ウィーンと言うと、日本ではクリムトのエロチックな描写に代表される退廃的なイメージばかりを思い浮かべますが、実際には実に多様です。

音楽ではヨハン・シュトラウス2世やブラームスが活躍し、心理学ではフロイト、生物学では遺伝の法則を発見したメンデルと、世界中で知られるスーパースターがたくさん登場します。国立歌劇場、美術史美術館など現在も世界的に有名な建物も建設されており、ロンドン・パリ・ベルリンと並んでヨーロッパの最先端の文化都市の一つでした。

日本が初参加した1873(明治6)年の万国博覧会では、ウィーンでもジャポネスクが大いに話題となり、クリムトらが東洋の芸術表現に影響を受けています。文化面では本当に華やかな時代だったのです。

ヨーロッパ大陸は19c後半から20c初頭まで、長い歴史の下では巨大戦争に巻き込まれなかった稀有な時代でした。英仏は植民地の拡張、独伊は国家統一と着実に政治経済面での成果を上げていました。オーストリアは領内に抱えた他民族を制することはもはやできなくなっており、強国としては唯一瀬戸際に追い込まれていました。



展覧会を見ると、クリムトによって印象付けられた世紀末イメージをあまり感じません。ゲルマン系のドイツ人らしい、どこか生真面目で幾何学的なデザインが目立ちます。同時代のフランスのアール・ヌーヴォーよりもむしろ、第一次大戦後に花を咲かせたドイツのバウハウスのデザインの方との近さを感じます。

展覧会は4章構成です。

  • I ウィーン分離派とクリムト
  • II 新しいデザインの探求
  • III 版画復興とグラフィックの刷新
  • IV 新しい生活へ


I ウィーン分離派とクリムトでは、芸術とデザインの刷新のために守旧派の団体から”分離した”クリムトやシーレらが目指した表現を紹介しています。世紀末ウィーンのグラフィックを考えるにあたって、原点となるような表現です。

【国立美術館 所蔵作品総合目録検索システムの画像】 クリムト「ウィーン分離派の蔵書票」

クリムトの「ウィーン分離派の蔵書票」は、古代エジプト肖像彫刻のデザインを取り入れており、怪しげな印象も与えますが、下半の文字も目立っています。蔵書票という役割をしっかりと果すデザインになっています。

【国立美術館 所蔵作品総合目録検索システムの画像】 アンドリ「天使と二人の人物(2)」

アンドリ「天使と二人の人物(2)」は、宗教画をデフォルメして明るく描こうとしています。当時の世相を元気づけるような表現が印象的です。

【国立美術館 所蔵作品総合目録検索システムの画像】 エルンスト「湖」

III 版画復興とグラフィックの刷新では、日本の多色刷り版画の影響が強い作品が展示されています。エルンスト「湖」は、遠近法を使わず湖面に移る山の姿で立体感を表現しています。日本の版画の影響が色濃い作品ですが、究極なまでにシンプルな表現が目を引きます。

【国立美術館 所蔵作品総合目録検索システムの画像】 チェシカ他「キャバレー〈フレーダーマウス〉上演本第1号」

IV 新しい生活へでは、ポスター・カレンダーなど新たに登場した様々なメディアに合わせて制作されたグラフィック作品が展示されています。「キャバレー〈フレーダーマウス〉上演本第1号」はショーの内容を説明するパンフレットです。幾何学模様の美しさが目を引きます。夢の国へ誘うムードが漂ってくるようです。


向かい側の京都市美術館では改修工事が着々と進行中

この展覧会の作品は、アパレル会社・キャビンを創業した平明暘氏から2015年に京都国立近代美術館に一括寄贈されたものです。デザインを生業とするアパレル業にあって、世紀末ウィーンのデザインには大きな刺激を受けていたのでしょう。名品が揃っています。

ウィーンの美術は案外知られていません。新しい発見が多くある展覧会です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



世紀末文化を生み出したウィーン社会とは?

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京都国立近代美術館
世紀末ウィーンのグラフィック デザインそして生活の刷新にむけて
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:京都国立近代美術館、読売新聞社
会期:2019年1月12日(土)~ 2月24日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、2019年4月から目黒区美術館、に巡回します。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄東西線「東山」駅下車、1番出口から徒歩10分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→東山駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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