海に向かう人

小春日に気分も上向きいつものコースと違う海の見える道を辿りました。海沿いに歩いていると魚釣りをしている年配の男性が岩場に立っています。この辺りは釣りポイントらしく良く見かける光景です。
幼い頃、魚釣りが趣味だった亡き父に良く海へ誘われました。土曜日の夜には棹や餌の準備をしていた嬉しそうな父を思い出します。そのせいか釣り糸を垂らしている人を見るとつい懐かしさがこみ上げてきます。

湾向こうの山並（網場金比羅山）に週末登ったルートを頭でなぞりながら、カメラを向けてシャッターを切りました。

写真を撮り終えカメラをしまっていると、画像手前に写っている男性に手招きされました。手を広げこれぐらいの魚を釣ったというジェスチャーを繰り返しするのです。あの岩場に行くには足の状態と運動靴では無理かなとも迷いましたが行ってみることにしました。慎重に岩場を渡ってたどり着いた私に、すぐ籠から取り出してくれた獲物は、サンバソとクロメバル、カワハギ。それはジェスチャーの手にはおよそ届かない小さな獲物でした。小鯵は大漁。

定年を迎えて何にもすることがなくなり、毎朝６時から昼食は家に戻り夕方近くまで海釣りをしているとのこと。釣った獲物は絵を描く奥様の画材になったり近所にあげたりしているそうです。
戦後まもなく生まれて苦労が絶えない生活だったけれど、今はありがたい暮らしをさせてもらっていると、悠々自適の生活に申し訳なさそうな言いようで話されました。「退屈」の言葉を予想していただけに新鮮な驚きを覚えます。おそらく「退屈」とは満ち足りた生活を送って来た高度成長の末に生まれた私の世代の産物なのかもしれない。
不注意で大怪我をし足が不自由になったのを嘆いている自分が恥ずかしくなりました。いつまでもくよくよしている私を見て、亡き父が教えてくれたのかもしれません。

「おかげで今日は一日明るく過ごせました。ありがとうございました！」