晴山雨読ときどき映画

“人生は森の中の一日”
山へ登ったり、本を読んだり映画を観るのは知らない世界を旅しているのと同じよ。
       

「仮想儀礼」 篠田節子著

2009年04月24日 | 
「信者が三十人いれば、食っていける。五百人いれば、ベンツに乗れる」
作家になる夢が破れ家族と職を失った正彦。
不倫の果てに相手に去られホームレス同然となった矢口。
2人はアメリカの9・11事件でワールドトレードセンターが、宗教を理由に破壊されるのをTVで目撃する。
長引く不況の下で、大人は漠然とした不安と閉塞感に捕らえられ、若者は退屈しきっている。正彦と矢口は、宗教ほど時代のニーズに合った事業はないと、古いマンションの一室で借り物の教義と手作りの仏像で教団(聖泉真法会)を立ち上げることに成功し巨大な富を得る。(上巻)

長くは続かず、スキャンダルの末に教団は財産を失うことになる。
しかし、残った信者たちの抱える心の傷はビジネスの範疇をはるかに超えていた。家族から無視され続けた主婦、ホテルで飼われていた少女、実の父と兄から性的虐待を受ける女性…
居場所を失った者たちが集う教団は、次第に狂気に蝕まれてゆく。(下巻) 
(以上アマゾンより引用)

   発売日 2008/12/19

10日間の図書館へ返却する延滞を気にかけながら読了したのは、彼らが最終的にどこにたどり着くのかを知りたかったから・・・
精神的に脆弱だと自認する私は宗教を願いながら、いつもどこかで覚めたものを感じてしまう。正彦が創設した聖泉真法会は世間を騒がせたオウム教や、おっちゃんと崇められ女性信者と集団で住んでいたイエスの箱舟を彷彿とさせた。
心の渇きは理解できるが、カルト的になる彼らはとても信じられない。
むしろ、お金をもうける目的で教祖となった正彦が、良心の疼きを感じ始め葛藤していく姿が分かった。
いったんは正彦は狂気に蝕まれてゆく彼女らを畏れ逃れようとしたが、土壇場で聖泉真法会を立ち上げた責任を取り、彼女らの苦しみを受け止める覚悟を決め、結局真の救済者となったのだ。彼は、彼女らの犯した罪をかばって14年間の刑務所暮らしで償うことになる。これも分からない・・・。私は冷たい人間だろうか。へらへらした男だが、弱さから来る矢口の無償の愛にも似たような彼女らへの接し方は驚きだった。
カルト化し追い込まれていく若い女性達の狂気は、オウム真理教の男性信者が理論的に偏っていくのと違って、感情的にのめり込んでいくように表現されていたのは女性的だと思えた。

篠田節子はエンターテインメントでありながら、性差を根底とする現代の苦悩を書き続ける作家なのだろう。上手な話の運びについつい篠田ワールドに引き込まれてしまう。嫌いな作家ではない。


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2 コメント

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おもしろそうですね (ganです。)
2009-04-26 23:39:58
仮想儀礼、面白そうですね。
初めて読んだ篠田節子さんの作品が『女たちのジハード』でした。
ブログを読んで、図書館に行ってみようかなぁ~!と思いましたよ!
思うだけかも~?
西村京太郎、赤川次郎の軽~い本ばかり読んでいると、ちょっと重たい本は疲れるようになりました。(笑い)

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男性の感想を伺いたいので (bamboo)
2009-04-27 09:05:28
GANさん是非読んで下さい。新聞の日曜書評欄で褒めてあった作品です。ganさんが「女たちのジハード」を読んで以来篠田節子さんのファンだと覚えていますよ。

正彦が暴走した女性信者によって陵辱されるシーン(発想)は驚き物でした。凄い作家さんだと頷けます。なるほど、そう来たか・・・という感じでした。女は怖いと女である私自身が思わされました
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