三島由紀夫「豊饒の海」を読み終えた。
村上「1Q84」(文庫版)完結のあとにでもゆっくり、と考えていたのが、BOOK2の途中一休みから読み出したら止まらなくなり、結局最後まで読みきってしまった。作品は唯識や輪廻転生をモチーフとしており、難解な部分も多かったが、先に読んだ「金閣寺」の余韻を引き継ぐ作品を何か読みたかったこともあり、楽しい読書だった。それと、偶然とはいえ、思い入れの強い村上「1Q84」との並行読みは、「1Q84」へのより深いコミットという意味で、面白い体験だったと思う。
余韻に浸りながら、図書館から「『豊饒の海』創作ノート」(三島全集第14巻)を借りてきて読んでいる。箇条書きの羅列であるが、面白い。
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・西郷隆盛は貧し。
・従道さんの母、株をやったが、十四万坪を三千円で買ひ、狩にきて、三千円で約束。木戸や伊藤博文アト口。
・従道大臣してゐて月給五百円。使ひ切れぬ。従兄大山元帥がバンク出来た故入れておけといひ、目黒と渋谷3千円で買ひたり。青山の墓地三銭なりし。
・宮様が西郷家から岩倉家へ婚資として四百万出す。そのとき、岩倉家つぶさぬため。(妃殿下のお里ゆゑ、宮、共産党出ては大へんとたのむ)
・酒をおいしいと思ふと、酒の中に美味が植ゑつけられ、又、酒のみたくなる。私だけ、酒だけでハ自己の存在も世界の存在もない。この交互因果に世界が存在してゐる。交互因果をたどってみると いつのむかしからこれ
・(私なしに酒なし、酒なしには私なし。)よって同時。
・フランス渡来の葡萄酒を主人公と副主人公がおそるおそる呑む場面。二人の反応の差。(この酒に、アラヤ識とぜんま法の同時交互因果)主人公の世界との違和感、酔の不思議と、人間との乖離 これが第四巻の解脱にかかる。最後の伏線。
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第一巻「春の雪」で、この巻の主人公松枝清顕が、宮家のいい名づけとなった聡子を身ごもらせてしまったことで、上を下への大騒ぎとなる周囲をよそに、祖母の放つセリフがすごい。
「宮様の許婚を孕ましたとは天晴れだね。そこらの、今どきの腰抜け男にはできないことだ。そりゃ、大したことだ。さすがに清顕はお祖父様の孫だ。それだけのことをしたのだから、牢へ入っても本望だろう。まさか死刑にはなりますまいよ」
作品が実話に題材をとっていると知り、この“お祖父様”がだれなのか知りたかったのだが、創作ノートを読んで腑に落ちた。作品を読んでこそ匂いたつ世界が、ここにある。
村上「1Q84」(文庫版)完結のあとにでもゆっくり、と考えていたのが、BOOK2の途中一休みから読み出したら止まらなくなり、結局最後まで読みきってしまった。作品は唯識や輪廻転生をモチーフとしており、難解な部分も多かったが、先に読んだ「金閣寺」の余韻を引き継ぐ作品を何か読みたかったこともあり、楽しい読書だった。それと、偶然とはいえ、思い入れの強い村上「1Q84」との並行読みは、「1Q84」へのより深いコミットという意味で、面白い体験だったと思う。
余韻に浸りながら、図書館から「『豊饒の海』創作ノート」(三島全集第14巻)を借りてきて読んでいる。箇条書きの羅列であるが、面白い。
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・西郷隆盛は貧し。
・従道さんの母、株をやったが、十四万坪を三千円で買ひ、狩にきて、三千円で約束。木戸や伊藤博文アト口。
・従道大臣してゐて月給五百円。使ひ切れぬ。従兄大山元帥がバンク出来た故入れておけといひ、目黒と渋谷3千円で買ひたり。青山の墓地三銭なりし。
・宮様が西郷家から岩倉家へ婚資として四百万出す。そのとき、岩倉家つぶさぬため。(妃殿下のお里ゆゑ、宮、共産党出ては大へんとたのむ)
・酒をおいしいと思ふと、酒の中に美味が植ゑつけられ、又、酒のみたくなる。私だけ、酒だけでハ自己の存在も世界の存在もない。この交互因果に世界が存在してゐる。交互因果をたどってみると いつのむかしからこれ
・(私なしに酒なし、酒なしには私なし。)よって同時。
・フランス渡来の葡萄酒を主人公と副主人公がおそるおそる呑む場面。二人の反応の差。(この酒に、アラヤ識とぜんま法の同時交互因果)主人公の世界との違和感、酔の不思議と、人間との乖離 これが第四巻の解脱にかかる。最後の伏線。
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第一巻「春の雪」で、この巻の主人公松枝清顕が、宮家のいい名づけとなった聡子を身ごもらせてしまったことで、上を下への大騒ぎとなる周囲をよそに、祖母の放つセリフがすごい。
「宮様の許婚を孕ましたとは天晴れだね。そこらの、今どきの腰抜け男にはできないことだ。そりゃ、大したことだ。さすがに清顕はお祖父様の孫だ。それだけのことをしたのだから、牢へ入っても本望だろう。まさか死刑にはなりますまいよ」
作品が実話に題材をとっていると知り、この“お祖父様”がだれなのか知りたかったのだが、創作ノートを読んで腑に落ちた。作品を読んでこそ匂いたつ世界が、ここにある。