新型インフルエンザ対策

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1918のインフルエンザ・パンデミックにおける主要な死因は細菌性肺炎

2008年08月24日 | このごろの新型インフルエンザ関連情報
CIDRAP  (米国) 研究:1918年のインフルエンザ・パンデミックにおける主要な死因は細菌性肺炎

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 1918年に流行したパンデミックの死亡者の大多数は、インフルエンザ・ウイルスそのものの侵襲によるものではなく、2次性細菌性肺炎であったことが確認され、研究者達は現在のパンデミック対策に抗生物質と細菌性肺炎ワクチンも備蓄すべきであると主張する論文を、今週発表した。  

 国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の専門家達は1918年のパンデミックの犠牲者達58人の保存されていた肺組織を調べると共に、数千の遺体解剖記録を分析して、彼らの結論を”感染症雑誌「Journal of Infectious Diseases」”に発表した。
 「組織学および細菌学的分析結果から、大多数の患者の死亡原因は2次性細菌性肺炎によるものであることが示唆される」、とデービットM・モレンズ医師、ジェフェリー・・タウベンバージャー博士、および NIAIDのアンソニーS・ファウチ長官等による論文に記載されている。

 1918年のパンデミック際して多くの発病者達が短期間で死亡していることは、患者の大多数がウイルスの直接的肺への侵襲、または免疫システムのウイルスに対する異常反応により死亡したとの印象が強く持たれてきた。
 しかし今回の新研究は、ウイルスが気管支や肺の細胞を傷害した後に発生した細菌の侵襲が、死者の90%以上の死亡原因であったことが示されている。
 「簡単に言えば、ウイルス感染が最初の打撃を与え、続いて発生した細菌感染がパンチをかまして患者をノックアウトさせた」、とNIAIDのファウチ長官は説明する。

肺切片所見と剖検記録分析

 研究者達は分析するのに2つの戦略をとった。最初に、米軍病理施設に保存されている1918年のパンデミックで死亡した兵の肺組織から、新しい顕微鏡標本を作成し直して分析した。
 次に、1918年頃の文献を探し、剖検により細菌学的情報が記載されている109件の文献を選び出した。15ヶ国から合計8398体の剖検記録が記載されている。
 ほとんどの肺組織検査で、現在ウイルス感染による変化と考えられている組織像を伴った重症急性細菌性肺炎像、またはその単独像が明らかになった。そこには気管支上皮細胞の傷害も含まれている。細菌はしばしば大量に集塊をなして観察された。
 文献の中で肺組織の細菌培養を行った報告が96あり、合計5266人の死者が対象となっている。わずか4.2%で細菌が増殖してなく、より質の高い剖検が行われたと推定される研究では、3074人の患者が対象になっているが、92.7%で少なくとも1種類以上の細菌が肺組織の細菌培養で増殖している。1887人の患者で血液培養をしているが、70.3%で細菌が陽性となっている。
 パンデミック発生時には多くの専門家達は、死亡原因が、当時分かっていなかったウイルスそのものよると考えてはいなく、良く知られていた上気道にしばしば常在する肺炎起因菌による、重症2次性肺炎によると考えていた。細菌は、肺炎球菌、溶血性連鎖球菌、ブドウ球菌であった。
 研究者達はまた、比較的軽かった1957年から1958年に流行したパンデミックに関しても調査し、やはり多くの死亡原因が2次性細菌性肺炎であったとの結論を得た。さらに1968年から1969年のパンデミックに関しても調査されたが、適切な文献は少なかったものの、やはり類似の結論を得ている。
 「その多くが忘れられている特記すべき初期の病理学者達の研究を含む、90年間の事実の重みは、パンデミック・インルエンザによる肺障害による死亡が、感染ウイルスと上気道に常在する細菌の2次感染の相互作用によるものであったことを明るみにだしている」、と研究論文では語られている。

 スペイン・インフルエンザの重症度の説明は、それでも不十分

 研究者達は、1918年のパンデミックの極度の重症性の説明は、今回の研究結果でも十分つけられていないと語る。理由は、今回の研究で多くの異なった細菌の感染を確認しているが、それらは特に毒性を増した強毒性細菌ではなかったと推定される。むしろ彼らは、気管や気管支上皮細胞に、感染力を増し、傷害を起こす傾向の強いインフルエンザウイルスは、上気道に常在する細菌の肺への重度な感染の道を開くと推定する。

 研究者達は、将来起きるパンデミックが、人に適合した1918年のウイルスに類似のウイルスで発生するなら、2次性細菌性肺炎が過去のパンデミックのように、主要な死因となると考えている。もしそうなら、パンデミック対策としてワクチンの開発や効インフルエンZナ薬の備蓄だけでなく、抗生物質や細菌性肺炎を防止するための肺炎球菌ワクチンも備蓄すべきであると主張する。
 しかしながら、また研究者達は次のようにも考えている。 
 もし将来起きるパンデミックがH5N1ウイルスの変異型だとした場合、過去のパンデミックから学んだ内容は、必ずしも適用出来ないかも知れない。それらウイルスの病原性のメカニズムは、ウイルスが人に十分適合していないことと、動物での発病様式が通常と異なることから考えても、非定型的と考えられる。その一方、もしH5N1ウイルスが完全に人に適合したなら、その発生するインフルエンザの病態像は過去のパンデミックのそれに類似してくる、と研究者達は考察している。

研究は仮説を変える

 インフルエンザ専門家で、ナシビルのバンデルビルト大学医学部の予防医学講座の主宰者であるウイリアム・シェファー博士は、新研究は1918年のパンデミックにおける死亡原因に関する考え方を大きく変えるだろう、と語っている。
 「これまでの考え方として、2種類の死亡原因が考えられていて、その1つがインフルエンザ・ウイルスが直接的原因となるものだ」、とシェファー博士はCIDRAPに説明する。
 「インフルエンザ・ウイルスは単独でも肺炎を起こす。そうした場合、多くの患者で発病から死亡まで非常に早く、それは極度に毒性の高いインフルエンザ・ウイルスにより引き起こされるように思う。ステロイド投与中の患者に対するインフルエンザ・ウイルスのようにである」。
 しかし今日でも時々合併症として起きる細菌性肺炎は、抗生物質の無かった時代では多くの患者の死亡原因となったと、同博士は推察する。
 「それ故、インフルエンザの死亡原因には2種類あったと考えるのが一般的である。しかしウイルスによる死亡原因の方がより重要とするのも、一般的感覚にはある。理由は発病者の死亡までの期間が非常に短いことが上げられている」。
 しかし、今回のモレンズと共同研究者達の発見では、2次性肺炎の方が、より一般的死亡原因であるとされている。
 「非常に少ない検体での結論ではあるが、私は彼らが細菌性肺炎が、ほとんど全ての検体で認めたことに驚いている。私は考え方を考えざるを得ない」。
 同博士は研究結果に影響を及ぼしている可能性あるバイアス(偏り)として、根拠が剖検所見および材料から得られていることである。対象は偏ったサンプルから得られている、すなわち対象は病院で死亡し、そこで剖検されたと考えられる。ということは彼らは比較的当初は重症ではなく、死亡までの期間は、家庭で亡くなった患者よりも長かったと考えられる。家庭で短期間で亡くなった患者は剖検されていないだろう、と博士はコメントする。
 それにも関わらず今回の研究は重要な影響を及ぼすと博士は言う。なぜなら1918年のパンデミックにおける細菌性肺炎の関与の重要性が確認されたからだ。
 「私はいまだ、1918年のパンデミックにおける死因のバイモデル説を否定するだけの確信は持っていない(今回の研究で死因のほとんどは細菌性肺炎によるものだという考え方を支持するだけの確信はない:訳者)。彼らはバイモデル死因説の後者、すなわち細菌性肺炎を全面的に主張している。しかし、彼らが全ての死亡者の原因を探索したわけでないことは確かなことだ」。

 シャフナー博士によると、パンデミック対策における細菌性肺炎に関しては、すでに論議されているという。
 「しかし、トニー・ファウチ博士がこれらの議論に名前を連ねていることは、彼がワシントンでの対策作りの中心的役割を担っていることを考えると、対策に弾みがつくと思われる」。
 博士によると、連邦政府は公衆衛生的危機に備えて抗生物質を含む薬剤や医学的用品の備蓄は行っているが、これらは主として炭疽菌に対するシプロフロキサシンのようなバイオテロ対策一環としてであるという。しかし、抗生物質の中にはバイオテロと細菌性肺炎両者に共通して用いることが出来る抗生物質もある。
 連邦政府の備蓄品には、細菌性肺炎に対するワクチンは含まれていない、とシャフナー博士は言う。しかしながら65歳以上の人々の40~50%は、連邦政府の勧奨に従って肺炎球菌ワクチンの接種を受けていると、博士は説明している(高齢者の多くがインフルエンザ等に際して肺炎球菌性肺炎で死亡するため、米国では高齢者に肺炎球菌ワクチン接種を勧奨している。我が国でもそのような自治体も多い)。

(「海外直近情報集」より)