
11/8(月)、イオンシネマ新潟南で、「ひらいて」を見てきました。
高校生の愛は、クラスメイトのたとえに片想いしている。
ある日、たとえの手紙をこっそり盗み読み、彼が違うクラスの病弱な美雪と密かに交際していると知った愛は、美雪と仲良くなりたいと言って近付き、次第に執着しはじめ、やがて二人は肉体関係を持ってしまう。
そんな、一見ありふれた高校生活の水面下で進行する、歪んだ三角関係を丁寧な感情描写で描いた青春映画。
どんどんひねくれて学校でも無秩序に自暴自棄に振る舞う愛が、人間臭くて僕は好きでした。
映画の冒頭、高校生達が放課後にチャラチャラ遊んでいるような日常が描かれ、そういうノリが苦手だし、苦手すぎてまったくそういう経験もできなかった自分は、最初は自分には合わない映画かなー…と思って見ていました。
でも、物語が進むにつれて、愛がたとえと美雪に執着して空気も読まずに暴走していく姿を見ていると、愛の人間臭さが魅力的に感じ、ちょっとだけど気持ちも分かるぞ…と、どんどん引き込まれ、好きな映画になっていきました。
好きな人が手に入らないから、好きな人の恋人に手を出してしまう。
しかも、同性愛者でもなのに、最初は演技で近付いたはずなのに、次第に本当に体を求め合う関係になってしまう。
自分はそういう経験があるわけじゃないから、ストレートに共感できるというわけではないけれど、共感を超えて伝わってくる気持ちがありました。
また、いわゆるベタではない、普通ではない三角関係の物語だけれど、気持ちはリアルだし、恋愛ってそういうことも起こりうるでしょ、という説得力がありました。
これはもう本当に声を大にして言いたいんですが、ヒットする恋愛映画って「共感した!」みたいな感想が散見されるし、宣伝する方もそういう売り文句で売り出したりしますが、本当にいい映画って、共感なんてできなくても、共感を超えて気持ちが伝わってくるものだと思うんですよ。
共感を売り出した恋愛映画って、逆を言えば共感できない人は楽しめないわけです。
でも、そうではなくて、登場人物の感情を丁寧に描き、人間の普遍的な姿を描くことさえできれば、どんな人にでも何かしら心に刺さるものを表現できる物語になると思います。
この映画「ひらいて」はそういう映画になっていたと思います。
あと、一番思ったのが、高校って授業も受験も人間関係も、あらゆる意味で物凄く窮屈で生きづらい世界だよなー!ということ。
自分もかつては高校生でしたが、よくあんな世界で生きていたよなーとか、人生やり直すとしてももう二度と無理だよなーとか、映画を見ながらそんなことまで考えてしまいました。
で、そのくらい僕が「高校」というものを卒業して10年以上経った今でも憎み嫌い続けている人間だからこそ、主人公の愛が途中から感情が暴走して、文化祭の出し物だろうがテストだろうが授業中だろうが、無言で好き勝手に逃げ出していく姿を見て、そういうことが出来なかった自分は羨ましくて痛快に感じてしまいました。
人を好きになったり感情のままに行動して暴走したり衝突して傷つけ合ったりそれでも言葉を交わしたりすることって、本当に授業を何回サボったとかよりずっと大事な体験なんだろうなと思いました。
だから愛みたいな子は、学校からしたら問題児なんだろうけれど、僕はすごく好きだし、ああいう部分を持っていたいなと思いました。
いや、多分本当は、僕自身も自分の中に愛みたいな部分があると思うんですが、そういう自分を出せずに生きていたなーとか、もうちょっと自分の気持ちに素直に生きられれば良かったなーとか、なんかもう映画の感想じゃなくなってますが、そんなことまで考えてしまいました。
また、主人公・愛役の山田杏奈さんが「ミスミソウ」「小さな恋のうた」や、ドラマ「荒ぶる季節の乙女どもよ。」などで本当に好きな女優さんなのですが、まさかこんな強烈な役をよくやったなと、彼女の表現の幅広さに衝撃を受けました。
一方、美雪役の芋生悠さんも「ソワレ」とか最近の「全員切腹」とかで本当に繊細な演技をする素晴らしい女優さんだなと思っていたのですが、病弱で内気な彼女の中で少しずつ感情が変化していく本当に繊細な演技を今回も見せてくれて本当に素晴らしかったし、まさか、二人の軽く濡れ場まであるとは驚きでした。
たとえ役の作間龍斗さんは初めて見まして、ジャニーズJr.の方でどうやらこれが演技初挑戦らしいのですが、一見成績優秀な物静かなイケメンなのに、美雪と付き合っていながらも別に何をするでもないあの感じ、父親に虐待されているのに何も抵抗できないあの感じ、高校生のまだ世界を知らないし行動力がないあの無力感、未熟さがすごく良かったです。
そして何より、たとえの父親役の萩原聖人さん、一見普通に振る舞うけれど行動の端々からどこか違和感があり、実際は息子を虐待しているという、あの、ベタな虐待キャラではなく、「実際こういう人いるんだろうな…」という嫌~なリアルさがじわじわくる感じ、すごい存在感だなと思いました。
最後に、首藤凜監督は「なっちゃんはまだ新宿」でも、女性に執着し続ける女性の物語を描いていたから、綿矢りささんのこの作品は得意分野だったのかもしれないですね。
あと、やっぱり自分は「勝手にふるえてろ」といい「私をくいとめて」といい、綿矢りささんの作品の女性主人公の面倒臭さが他人とは思えずにすごく好きですね…というわけで、原作も読みたいと思います!