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手塚眞監督舞台挨拶付き特集上映!まずは坂口安吾原作の新潟ロケ映画「白痴」(1999年)

2021-02-14 22:06:16 | Weblog


2/14(日)、シネ・ウインドで「白痴」を観てきました。





予告編はこちら。



坂口安吾の同名小説を原作とし、それを手塚監督が独自に解釈、安吾の故郷である新潟で撮影され、1999年に公開された映画です。
僕は2019年にもシネ・ウインドで上映された時に初めて観たので、観るのは2回目だったんだけど、今回は坂口安吾の原作も読んだあとだったのでより楽しめました。

主人公の暮らす町の設定や、戦時中に白痴の女と出会う物語は原作通りだけど、そこに主人公がテレビ局で働くという物語が加わっています。
基本的には戦時中の話なのに、焼け跡に現代のファッションモデルみたいな人達がいたり、テレビ局の設定は現代的だったり、美術がレトロフューチャー的だったり、全体的に時代を超越したような不思議な世界観なんですよね。

でも、その世界観だからこそ、戦時中から現代まで、ずっと戦争の悲劇が続いてるような感覚を表現できていたと思います。
テレビ局の内部は権力者に労働者がこき使われる地獄だったり、そんな彼らが作るメディアですらまったく国民のためを思って作られておらずに国民を洗脳していたりするという設定は、完全に現代を皮肉っていると思ったし、それは戦時中から変わらない日本の闇なのかなと思いました。

原作には登場しない銀河というアイドルが、テレビ局で主人公を翻弄する人物として描かれます。
で、その銀河という金持ちでわがままな女が、白痴のサヨといい対比になっていたと思うんですよね。

銀河は美人で金持ちの大人気アイドルだけど、主人公の伊沢は彼女に振り回され人間らしさを失っていきます。
対してサヨは白痴で(今でいう精神疾患みたいな感じですよね)無力で貧乏で地味な存在なのに、人生に絶望していた伊沢は彼女に出会ったことで少しずつ人間らしさを取り戻し、最終的に空襲の中を命がけで彼女を守って生き延びる生命力を手に入れていくように僕には思えました。

人生に絶望して自殺未遂を繰り返していた伊沢が、最終的にはずっと肌身離さず持っていたカメラも捨て、つまり自分の中でずっと縛られていた芸術へのこだわりも捨て、必死でサヨを守るという人間の生命力や愛情のようなものを取り戻す(僕はあそこに愛情はあったと思います)。
絶望の果てに最も醜いものから最も美しいものが生まれるという、本当に感動的なクライマックスになっていたと思います。

2時間半くらいある物語の中で、2時間くらいは戦時中の薄汚れた街並み、テレビ局の腐敗した権力とメディア、欲望にまみれた人間達ばかりが不思議な映像美の中で展開していくのですが、ラスト30分の大空襲の戦火の中を伊沢とサヨが逃げ延びるクライマックスがとにかく圧巻で本当に圧倒されるし感動するんです。
世界中の美しいものも醜いものも金持ちも貧乏人も何もかもを破壊し焼き尽くす戦争の暴力性を、実際に巨大セットの爆発&炎上という本物の圧倒的な迫力で描き、その中を命がけで手を取り合って必死に生きようとする二人の姿に、死の恐怖と絶望の果てに人間の本当に美しいものを見せられ心から感動しました。





手塚眞監督と安吾 風の館の坂口綱男の舞台挨拶もあったのですが、手塚治虫の息子と坂口安吾の息子の対談ってすごいですよね。
手塚監督が言っていたのですが、映画オリジナルキャラだと思われたアイドルの銀河のエピソードは、坂口安吾の「夜長姫と耳男」という別の物語から引用しているということでした。

それも読んでみたいですね。
というか、坂口安吾は「白痴」の短編集(映画化された「戦争と一人の女」や舞台化された「青鬼の褌を洗う女」なども収録)を読んだら面白かったので、シネ・ウインドが好きな新潟県民の一人としてやっぱりもっと読まなきゃなあと思わされました。





あと、ちょっとネタバレになるのですが、この映画は、最後に坂口安吾と思われる小説家が「白痴」の原稿を書き終える場面で終わるので、「夢オチ」と思われがちだけど、決して夢オチではないというお話をされていました。
この映画、戦争の焼け跡で子供が泣いている場面から始まり、戦後の坂口安吾の書斎で終わるという構成になっているので、要するにこれはメインとなる物語を表紙と裏表紙みたいな短いシーンで挟んだみたいな解釈で、どうやら合っているみたいです。

そして手塚監督の、冒頭の戦場では子供の泣き声を描き、最後の書斎では遠くから子供の遊び声が聞こえる、子供の声で始まり子供の声で終わらせたんだ、という言葉に、すごいことを考えるなあと感動してしまいました。いやー、まったく気付かなったです。
ちなみに、この最後の場面で後ろ姿だけで登場する、坂口安吾と思われる小説家を演じていたのが、誰であろう、安吾の息子である坂口綱男さんだったという話にもびっくりしました。





手塚眞監督、坂口綱男さん、ありがとうございました!
そしてこの映画、めちゃくちゃ好きなのにDVDも手に入らずに見返せずにいたので、またこうして見られて本当に良かったです!

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