狐の日記帳

倉敷美観地区内の陶芸店の店員が店内の生け花の写真をUpしたりしなかったりするブログ

合うは離れの始めにして、楽しみは憂いの伏する所なり。

2020年07月15日 14時51分10秒 | VSの日記
 「私達の稼業は人が豊かでないと成立しません」と、ある知人は微笑んだ。「私達の仕事は人の生存という意味では人に必要なものではありません。豊かな生活を彩る為に存在します。なので私達の稼業は緊急事態になれば経済が止まった状態になれば真っ先に切り捨てられます。人の心がさもしくなると私達の仕事は必要とされなくなります。この稼業をしている者は、そのことを常に理解して覚悟しています。私達は伊達や酔狂でこの職業を選んだのですから。安定を求めるならば別の職に就けばよいのです。命令されて無理矢理この職に就いたわけではない。そして辞めることも自由なのです。辞めればそれまでの蓄積は無に帰ります。復活することはありません」
 ……。残念です。まだやれるはずです。と私・狐は云った。
 「お金の問題ならば耐えることが出来ます。根無し草なのでそれなりの備えはしています。独り者なので守る者もありません。捨て身であり続けるのならばまだやれます。辞める理由はお金の問題ではないのです。理由は述べません」
 左様でございますか……。
 「もはやここまで。君には随分とお世話になりました。もうお会いすることもないでしょう。今生の別れです」
 左様ならば、私は貴方の新たな門出を祝いこれからの人生に幸があるよう祈ることにいたします。
 「ありがとう。私も君の人生に幸がたくさんあるように祈ることにするよ。それと、よい人を見付けたまえ」
 ……。






 その知人は笑顔で手を振って去って行った。
 ……。
 無念である。



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