或る日の事でございます。
御釈迦様は極楽の蓮池の淵を独りでぶらぶら御歩きになっていらつしやいました。
池の中に咲いている蓮の花はみんな玉の様に真白でその真中にある金色の蕊からは何とも云えない好い匂いが絶間なく周囲へ溢れて居ります。
極楽は丁度朝なのでございましやう。
やがて御釈迦様はその池の淵に御佇みになつて一休みなさいました。
この極楽の蓮池の下は、丁度下界に当って居りますから水晶の様な水を透き徹して下界の景色が丁度覗き眼鏡を見るようにはつきりと見えるのでございます。
下界で狐と云う一匹の獣が蠢いていました。
狐はぐうたら者でふらふらと遊んでばかりいる怠け者です。
それ故、孤独地獄をとぼとぼと彷徨い歩く羽目に陥つています。
狐がふと上を見上げると、お釈迦様のお姿が見えます。
地獄に仏とは此の事です。
狐は御釈迦様にやつほほ~いと手を振りました。
しかし、御釈迦様は狐の姿に気が付くことなく、一休みなさった後にまたぶらぶら御歩きになり始めました。
たかが獣風情が御釈迦様の御目に留まることなどございますまい。
哀れ狐は俯いて孤独地獄をとぼとぼと歩き始めました。
しかし極楽の蓮池の蓮は少しもそんな事には頓着致しません。
その玉のような白い花は御釈迦様の御足の周辺にゆらゆら萼を動かしてそのまん中にある金色の蕊からは何とも云えない好い匂が絶間なく周囲へ溢れて居ります。
極楽ももう正午に近くなったのでございましょう。
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