或る夜の事。
狐が或るパブリツク・ハウスへ入つて獨りで火酒入りのミルクをちろりちろりと舐めてゐたら、知り合いのお方が呼びもしないで傍へ寄つて來て狐に向かって「君は面白主義者ださうだね?」と云つた。
狐が或るパブリツク・ハウスへ入つて獨りで火酒入りのミルクをちろりちろりと舐めてゐたら、知り合いのお方が呼びもしないで傍へ寄つて來て狐に向かって「君は面白主義者ださうだね?」と云つた。
狐は無言で火酒入りのミルクを舐めてゐた。
「面白いか面白くないかで物事の大半を決めてゐると聞いているよ。ろけんろおるな生き様を突き進む心算なのだな。しえけなべいべな人なのだな。転がる石のやうに転がり給えよ。でも崖から墜ちてしまわぬやう気を付けることだね」
余計なお世話である。崖から墜ちてたまるか。私はそこまでファンキーではない。
「因みに私はおっぱい至上主義者である」
「面白いか面白くないかで物事の大半を決めてゐると聞いているよ。ろけんろおるな生き様を突き進む心算なのだな。しえけなべいべな人なのだな。転がる石のやうに転がり給えよ。でも崖から墜ちてしまわぬやう気を付けることだね」
余計なお世話である。崖から墜ちてたまるか。私はそこまでファンキーではない。
「因みに私はおっぱい至上主義者である」
……。おっぱい至上主義?
「私は辛い事があった時、『おっぱいがいっぱい』と呟くと心が安らぐおっぱい至上主義者である」
……。左様でございますか。
「この世でおっぱいほど素晴らしいものは無い」
……。左様でございますか。
「君も『おっぱいがいっぱい』と云ってみたまえ。きっと心が安らぐだろう」
……。私は別に辛くて堪らない心持ではありませんよ?
「君も『おっぱいがいっぱい』と云ってみたまえ。きっと幸せな気分になるだろう」
……。私は別に幸せな気分になりたいわけではありませんよ。
「四の五の言わずに『おっぱいがいっぱい』と云ってみたまえ。云えばわかる」
……。おっぱいがいっぱい。
「もっと大きな声で!」
……。おっぱいがいっぱい。
「もっと!」
……。おっぱいがいっぱい!
「おっぱいがいっぱい!」
おっぱいがいっぱい!
「おっぱいがいっぱい!」
おっぱいがいっぱい!
其の夜。
そのパブリックハウスでは知り合いのお方と狐の「おっぱいがいっぱい!」という叫び声が高らかに鳴り響き続けた。
知り合いのお方は幸せそうな顔をしていた。
狐は幸せな気分にはならなかった。
狐は何か痛みを感じた。が、同時に又歓びも感じた。
人の幸せとは、様々なものであるな。面白ひものだ。
人の幸せとは、様々なものであるな。面白ひものだ。
……。おっぱいがいっぱい……。
そのパブリック・ハウスは極小さかつた。
しかしパンの神の額の下には赫い鉢に植ゑたゴムの樹が一本、肉の厚い葉をだらりと垂らしてゐた。
しかしパンの神の額の下には赫い鉢に植ゑたゴムの樹が一本、肉の厚い葉をだらりと垂らしてゐた。
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