陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「わが青春に悔なし」

2010-03-26 | 映画──社会派・青春・恋愛
今年の3月23日は、黒澤明の生誕百年目。東京と大阪ではほぼ全作品を公開する企画が予定されているらしい。
黒澤映画といえば、「生きる」「羅生門」ぐらいしか観たことがなかった。最近、「悪い奴ほどよく眠る」が現代版にリメイクされてドラマ化されていたが、ドロドロした男女の愛憎サスペンスといった感じであまりおもしろくなかった。

1946年の映画「わが青春に悔なし」は、黒澤明監督の演出作品。学生運動家に恋心を寄せた女性がたどる、波瀾万丈の運命を描いている。
小津安二郎作品でその美貌に惹かれての原節子主演ときいて手にしてみたが、視聴後感はいまひとつ。
満州事変を機に、軍国主義に傾倒していく日本に対抗した学生運動「京大事件」を下敷きに、架空の人物で構成された女性の一代記である。

わが青春に悔なし<普及版> [DVD]
わが青春に悔なし<普及版> [DVD]東宝 2007-12-07売り上げランキング : 43051おすすめ平均 starstar加藤隼戦闘隊長は今(~o~)star「かえりみて悔いのない生活」を見つけた後の原節子の鬼気迫る大熱演に圧倒されるstar恐れ入りました・・。Amazonで詳しく見る by G-Tools



京都帝国大学の教授八木原は、学生の自由を重んじる理解者であったが、折からの反戦運動への弾圧に乗り出したファッショに、職を追われる身となった。八木原の娘、幸枝には父の教え子の野毛隆吉と糸川とが思いを寄せていた。安全路線の糸川よりも、どこか危険だが刺激的な野毛のほうに幸枝のこころは傾いていく。
しかし、保身を図った糸川は大学を無難に卒業して検事となり、いっぽう、左翼の運動家に転じた野毛は数年後、落ちぶれていた。
昭和十六年、幸枝は自活の道を求めて東京へ旅立つ。そこで、ひそかに反戦運動家として活躍していた野毛と廻りあい、同棲生活をはじめるが…。

とうしょは、幸枝・野毛・糸川の三人の思惑が時代を経て絡み合いつつ、戦時中という時代の荒波に翻弄されていくようなラブストーリーを想像したいたのだが、これが大違い。野毛はあっさり獄死してしまい、その遺骨を抱いて亡き夫の両親のもとへ参じた幸枝は、スパイの汚名を着せられて村八分にされている婚家の窮状を知る。そこで、野毛の母とともに、差別と戦いながら終戦を迎え、平和の到来と共に夫の恥辱がやっとのことそそがれるという話。

「悔いのない生活を」という夫の遺言、そして「華やかな自由の裏にある苦難に耐え、責任を果たせ」という父からの教えを守って、忍従の暮らしをした幸枝は、やがてその農村での指導者的立場を得ることがほのめかされているが、具体的になにが、どう、村の意識を変えたのかが描かれていない。

東大講堂の立てこもりや、浅間山荘事件などを見知った世代からすれば、学生運動が英雄視されるのは異質に感じる。
そして、野毛を演じた藤田進の学ラン姿は、老けすぎて無理が。農作業の場面も本職のお百姓さんからしたら、かなり手ぬるい描写としか思えない。汗水流す労働の喜びを伝えるために美化されているけれど、じっさい、あんな楽なもんじゃないとは、農家の出の知人の弁。

黒澤明の演出はままよかったけれど、脚本がよろしくないような。
それにしても、原節子は独りでも生きていけるような、逞しい女性をよく演じている。杉村春子となぜか共演も多い。役者を映画会社の専属にしていたからかもしれないが。

黒澤明は巨匠と呼ばれているわりには、作品によって当たり外れが大きいように感じる。あと作風もさりながら、無体で傲慢な演出ぶりの伝説ばかりが独り歩きしている。

(2010年1月30日)

わが青春に悔なし(1946) - goo 映画

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 松本清張ドラマSP「書道教授」 | TOP | 映画「ディープ・インパクト」 »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 映画──社会派・青春・恋愛