陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「羅生門」

2009-09-08 | 映画───サスペンス・ホラー
1950年作の映画「羅生門」
言わずもがな、芥川龍之介の小説「薮の中」「羅生門」を、黒澤明が映画化したもの。もう半世紀以上も前の作品なんですね。
「薮の中」といえば、現代国語(いま、この科目名あるよね?)の教科書に載っていて、習った時には後味の悪い読後感でした。そんな闇に包まれた事件の真相の前後に、あるエピソードを加えることで、すこし報われるような物語にしたのが本作といえましょうか。

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平安時代末期。寂れた羅生門に、雨宿りしていた旅法師と、杣売、そして下人の男。三人は都で伝え聞いたある事件を退屈しのぎに話題にしている。
ある薮の中、通りかかった武士の夫婦に目をつけた盗賊は、夫を誘い出して縛り上げ、妻を手篭めにする。
のちに検非違使に捕まった盗賊の言い分では、自分が妻にそそのかされて、夫を太刀で刺したという。次に証言した妻は、夫の侮蔑のまなざしに絶えられずに、錯乱して気絶したら短刀が夫に刺さっていたと語る。巫女の口を借りた夫の霊によれば、盗賊についていくつもりの妻が夫を殺してと頼んだが、盗賊は拒否、夫が絶望して短刀で自刃した、という。
三者の証言が食い違うが、さらには、遺体の第一発見者である杣売が重なって、真相がさらにややこしいことに。

けっきょく、四人の言い分のどれが正しいわけでもなく、各自が手前勝手な理由から捏造していたであろうことが窺われます。
下人はそれを見抜いてしまいますが、そう言った彼さえも盗人まがいのことをして去る。すさみきった世の中で人の心が信じられないと嘆いていた旅法師だが、最後の杣売の行動に希望を見出す。

芥川小説のふたつの話をうまくつなげて、暗さをみごとに消化した名作ですね。
戦後すぐは、まだまだこういう明るい未来を感じさせるような作品が多かったのかも。最近はやたらダークなのがもてはやされていますよね。

四人の証言者の回想部分のうち、妻の部分だけが妙にリズミカルなボレロだったのは、なぜなんでしょう。
主演は、盗賊役に三船敏郎、妻は京マチ子、杣売には黒澤映画には欠かせない、「七人の侍」や「生きる」でもおなじみの志村喬。
三船の野方図的な男の演技は、真田広之が「八犬伝」でマネしたんじゃないかな、と思っています。

(〇九年七月三十一日)

羅生門(1950) - goo 映画


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