2008年のイスラエル・フランス・ドイツ映画「戦場でワルツを」(原題:WALTZ WITH BASHIR)は、パレスチナ侵攻を題材にしたドキュメンタリータッチのアニメーション映画。
2006年の冬、イスラエル。
映画監督のアリは旧友と20数年ぶりに旧交をあたためる。
26匹の狂犬にいのちを狙われる悪夢にうなされるという友人は、中東レバノン侵攻時のトラウマがそうさせるのだったと告白。
西ベイルート海岸での奇妙なフラッシュバックが訪れる。夜のビル群をバックに照明弾が花火のように駆け上がり、全裸で海水浴にいそしんでいた兵士たちは、服を着て街中へくり出す。なんとも解しがたいふしぎな夢。かつて19歳でイスラエル国防軍として従軍した体験にからむ記憶だったが、詳細が思い出せない。その部分の記憶だけがすっぽり抜け落ちていた主人公は、かつての部隊の同胞たちを訪ね、戦時の記憶を辿ろうとします。
テロ分子抑圧の美名のもとに駆り出された兵士たちを待っていたのは、同胞の屍ですら踏みにじる非道な行為。戦況が不利と見るや、後続の部隊は兵士を見捨て、パレスチナの少年兵ですら無残に撃ち殺す。タイトルになった部分は、中盤のあるイスラエル兵の一人が市街地で銃を円舞するように回りながら乱射する狂気の沙汰をたとえたものです。
ふしぎな夢には、アリの両親のアウシュヴィッツでの恐怖体験も絡んでいました。
やがて、主人公はサブラ・シャティーラ虐殺事件の真相を知ることになります。
それはキリスト教徒のファランヘ党兵士が難民キャンプのパレスチナ人を強制退去させ、人知れず銃殺したこと。しかもそれはイスラエル側が裏で糸を引いていたという事実。手を下したのはイスラエルではないけれど、傍観者でありながら実行者と等しい罪の意識に苛まされて、アリはあの悪夢を見たことに気づかされます。
本編のほとんどがCGを用いた精巧なアニメーションなのですが、ラストに本物の虐殺現場の映像がさし込まれたあたりで、視聴者は現実に引き戻されます。全般的にクオリティとしては高いレベルにあるのですが、一部の人物の動きが紙芝居のようにぎこちなかったり、クリエイターらしい趣向に走ったりで戦争の真剣味を薄れさせる部分があるのが惜しいですね。
戦車や武器の部分だけをやたら凝ったようにつくりあげているあたりが、「地獄の黙示録」など名にしおう戦争映画に感化されたミリタリーマニアがつくった映像という気がしないでもない。反戦意識を高めるならもう少しドラマ性があったほうが効果的であったように感じました。フィクションに終わらせたくないために、あえてドキュメンタリーのようなかたちにして事実だけを視聴者に突きつけたかったのかもしれないですが。
監督はアリ・フォルマン。本作は主人公の名からもわかるとおり、自伝的な作品です。
本作に登場した人物は実在のインタビューに答えた方がたなので、アニメーションはその映像を下地にしてつくったものなのでしょう。動きが滑らかな部分とそうでない部分との落差が大きいです。日本の高度なアニメ文化で育った身としてはどうしてもそこが気になってしまいます。
主人公の相談に乗る精神科医が説くように、人が記憶を都合のいいように捏造できる生き物であったとするならば、戦争における恐怖はたちまちゲームのような快感に変わってしまいます。その境界なき危うさを訴えるために、あえてアニメーションで製作したのだとしたら、作り手の意図はよくわかります。ただ、戦争は嫌なものという空気を流すだけでなく、その戦争を止めるため、防ぐためにはどんな手だてがあるのか、そこを描き切ることがクリエイターを名乗る人には求められているのではないでしょうか。描写だけなら素人でもできる時代なので。
(2011年5月29日)
戦場でワルツを - goo 映画
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2006年の冬、イスラエル。
映画監督のアリは旧友と20数年ぶりに旧交をあたためる。
26匹の狂犬にいのちを狙われる悪夢にうなされるという友人は、中東レバノン侵攻時のトラウマがそうさせるのだったと告白。
西ベイルート海岸での奇妙なフラッシュバックが訪れる。夜のビル群をバックに照明弾が花火のように駆け上がり、全裸で海水浴にいそしんでいた兵士たちは、服を着て街中へくり出す。なんとも解しがたいふしぎな夢。かつて19歳でイスラエル国防軍として従軍した体験にからむ記憶だったが、詳細が思い出せない。その部分の記憶だけがすっぽり抜け落ちていた主人公は、かつての部隊の同胞たちを訪ね、戦時の記憶を辿ろうとします。
テロ分子抑圧の美名のもとに駆り出された兵士たちを待っていたのは、同胞の屍ですら踏みにじる非道な行為。戦況が不利と見るや、後続の部隊は兵士を見捨て、パレスチナの少年兵ですら無残に撃ち殺す。タイトルになった部分は、中盤のあるイスラエル兵の一人が市街地で銃を円舞するように回りながら乱射する狂気の沙汰をたとえたものです。
ふしぎな夢には、アリの両親のアウシュヴィッツでの恐怖体験も絡んでいました。
やがて、主人公はサブラ・シャティーラ虐殺事件の真相を知ることになります。
それはキリスト教徒のファランヘ党兵士が難民キャンプのパレスチナ人を強制退去させ、人知れず銃殺したこと。しかもそれはイスラエル側が裏で糸を引いていたという事実。手を下したのはイスラエルではないけれど、傍観者でありながら実行者と等しい罪の意識に苛まされて、アリはあの悪夢を見たことに気づかされます。
本編のほとんどがCGを用いた精巧なアニメーションなのですが、ラストに本物の虐殺現場の映像がさし込まれたあたりで、視聴者は現実に引き戻されます。全般的にクオリティとしては高いレベルにあるのですが、一部の人物の動きが紙芝居のようにぎこちなかったり、クリエイターらしい趣向に走ったりで戦争の真剣味を薄れさせる部分があるのが惜しいですね。
戦車や武器の部分だけをやたら凝ったようにつくりあげているあたりが、「地獄の黙示録」など名にしおう戦争映画に感化されたミリタリーマニアがつくった映像という気がしないでもない。反戦意識を高めるならもう少しドラマ性があったほうが効果的であったように感じました。フィクションに終わらせたくないために、あえてドキュメンタリーのようなかたちにして事実だけを視聴者に突きつけたかったのかもしれないですが。
監督はアリ・フォルマン。本作は主人公の名からもわかるとおり、自伝的な作品です。
本作に登場した人物は実在のインタビューに答えた方がたなので、アニメーションはその映像を下地にしてつくったものなのでしょう。動きが滑らかな部分とそうでない部分との落差が大きいです。日本の高度なアニメ文化で育った身としてはどうしてもそこが気になってしまいます。
主人公の相談に乗る精神科医が説くように、人が記憶を都合のいいように捏造できる生き物であったとするならば、戦争における恐怖はたちまちゲームのような快感に変わってしまいます。その境界なき危うさを訴えるために、あえてアニメーションで製作したのだとしたら、作り手の意図はよくわかります。ただ、戦争は嫌なものという空気を流すだけでなく、その戦争を止めるため、防ぐためにはどんな手だてがあるのか、そこを描き切ることがクリエイターを名乗る人には求められているのではないでしょうか。描写だけなら素人でもできる時代なので。
(2011年5月29日)
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