陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「地獄の黙示録」

2011-07-30 | 映画──SF・アクション・戦争
1979年の映画「地獄の黙示録」(原題 : Apocalypse Now)は、フランシス・フォード・コッポラがベトナム戦争の真相を鋭くえぐった戦争ドラマ。53分間の未公開の追加映像を収録した三時間超えの特別完全版で視聴しました。

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1967年、異常な暑さを迎えたベトナムのサイゴン。
空挺部隊、諜報部の若き大尉ウィラードに密命が下る。軍の命令に背いた将校ウォルター・E・カーツ大佐を暗殺せよ、というものだった。士官学校を首席で卒業してのち、朝鮮戦争でも戦功をたて多くの叙勲歴をもつカーツは、将来を嘱望された人物だった。そんな彼がなぜ、軍を裏切り、ジャングルの奥地にみずからの王国を築いて現地人に崇められているというのか。

疑問を抱きながらも、ウィラードは使命の中身を伏せたまま四人の部下を連れて、巡回艇に乗り込んだ。しかし、カーツの懐へ近づくたびに、ウィラードは米兵の狂気の沙汰を目撃し、軍の報告書から浮かび上がるカーツ像に親しみを覚えはじめる…。

同様のベトナム戦争の真実を描ききったものに、1986年の「プラトーン」がありますが、これに比べると本作にはなにか胸の底に後味の悪さがこびりついて離れてくれません。きれいに仕上がっているけれど、なにかすっきりしない。

任務の途中で護衛を頼むべくして合流した、キルゴア中佐はナパーム弾の乱発で村を襲うと狂喜乱舞。銃弾が飛び交うなかで、数少ない部下のひとりに危険な遊びを強制しようとする。ベトナムの農村を植民地化しているフランス人移民からは、ベトコンの根をつくったのは他ならぬアメリカだと愚痴をこぼされる。現地人の襲撃に遭って、部下をふたり、三人と失い、そしてまた精神に異常を来したような奇行がめだつように。

そして、ついに対面したカーツ。この男は、はたして偉大な指導者だったのか、それとも気違いじみた男だったのか。米兵の愚挙をさんざん目にしたウィラードが、最後にカーツをどう扱うのかが見もの。

「ゴッドファーザー」の監督コッポラの作だけあって、カーツがマフィアの首領じみて描かれているのが気になります。カーツの登場での顔のほとんどを覆う闇の演出は、なかなかに趣き深く、黒の深みを生かしたドラクロワ絵画を見るような心地さえ抱きます。
またコッポラが巨額の私財を投じてまで完成に漕ぎ着けただけに、スケールのあるロケーションで撮影されています。しかし、戦闘シーンの迫力でいうならば、近接戦での実戦の恐怖をまざまざと描いた「プラトーン」のほうが、リアリティがありますね。「プラトーン」ならば主人公が正義の鉄槌を下すことによって、かろうじてアメリカの良心をかいま見せてくれるわけだけれども、本作は長時間ぬるぬると熱い泥湯に浸けられたうえに、虚脱感が残ってしまう映画ではあります。
どこか台詞が詩的めいているのも、ジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』をベースに脚色したドラマだからなのか。この気持ちわるさというのは、あまりにヴィジュアルに美化されすぎた暴力の描写ではなかったかと。

主演は、カーツ大佐に「欲望という名の電車」「ゴッドファーザー」のマーロン・ブランド。病に冒されたという設定の割には肥満していて、無理があったように感じます。ウィラード大尉は、マーティン・シーン。ハリソン・フォードやデニス・ホッパーが助演。
しかし、いちばん鮮烈な印象を残したのはキルゴア中佐を演じた、ロバート・デュヴァル。「アラバマ物語」での精神異常の青年役では、不気味な存在感を放っています。

脚本は、ジョン・ミリアス。
音楽を担当したのは、監督の父親カーマイン・コッポラ。ヘリが村を空爆するシーンで流れるワーグナーの『ワルキューレの騎行』があまりにも有名ですね。戦争シーンにクラシックを流すというのは「史上最大の作戦」でもありましたが。

1979年度のアカデミー賞では、撮影賞・音響賞を受賞。カンヌ国際映画祭ではパルムドールに輝き、ゴールデン・グローブ賞でも監督賞・助演男優賞・作曲賞を得ています。

(2010年1月30日)

地獄の黙示録・特別完全板(2001) - goo 映画

地獄の黙示録(1979) - goo 映画




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