陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「庭から昇ったロケット雲」

2011-10-28 | 映画──SF・アクション・戦争
夢を追いかける姿はたしかに美しい。
でも、いい年した大人になったら、みんな夢を追いかけなくなるもの。きらきらと目を輝かせるような目標ではなく、もっと現実に即した打算的な、生活するための目標にすり替わってしまう。

2007年のアメリカ映画「庭から昇ったロケット雲」(原題 : The Astronaut Farmer)は、もと宇宙飛行士でありながら、農場を継いだ男がめざした夢に果敢に挑むすがたを描いたヒューマンドラマ。

アストロノーツ・ファーマー/庭から昇ったロケット雲 [DVD]
アストロノーツ・ファーマー/庭から昇ったロケット雲 [DVD]おすすめ平均 stars趣味は自主映画でどうぞ。stars全体的にパッとせずstars米国的家族愛のトホホな映画starsお父さんを支える家族が良かったstars 夢があるなあAmazonで詳しく見る by G-Tools



亡き父から受け継いだ農場を運営する、チャールズ・ファーマーは元宇宙飛行士だった。いつか独力で宇宙飛行を果たすという夢をすてきれないチャールズは、莫大な私財を注ぎ込んでまで、農場の片隅でロケットの製造をはじめる。妻はそんな夫を支え、双子の幼い姉妹と十五歳の息子は、目を輝かせて宇宙の素晴らしさを語る父親を尊敬しきっていた。
だが、チャールズの無謀な夢を知る街の人びとの反応は冷めたもの。友人の銀行家は融資を断り、借金まみれの土地の抵当権を奪おうとする。心療内科医は、チャールズを妄想癖だと判断する。

周囲の無理解をよそに、子ども三人だけを連れて自分の夢に邁進するチャールズだったが、大量の燃料を買い付けたことから軍からは核兵器製造を疑われ、FBI捜査官からは監視を受けてしまう…。

自家製ロケットで宇宙に飛び立つ。それだけでも命がけでたいへんなことなのに、チャールズに襲いかかる困難は山ほど。けれど、決してあきらめはしない。マスコミへのPRに売って出て、世間の注目を浴びることで計画を認めさせようとし、資金繰りがうまくいかねば、ない袖の金をひねり出そうとする。
彼がこんなに逞しいのは、支える妻と子があってのことですが、しかし、いつのまにか巨額の債権がふくらみ、家計は火の車。妻にも見放されかけたまま、やけのやけぱちで初作のロケットに乗り込んだチャールズは、酷い重傷を負ってしまいます。

はたして、彼に再挑戦のチャンスはあったのか?
この後の展開は、なんともご都合主義的ではあります。実話ではないだろうから、うさんくさい部分も多々ありますよね。そもそも、衛生面で周囲と隔離されていない農場から宇宙へ飛び立つ危険性もありますし、爆音で被害をこうむった住民がいなかったとも限らない。

宇宙飛行士っていうのは、ただ宇宙に飛び立ちたいだけではなくて、いろいろ実験したり、交信したりと任務を背負っているはずなのですよね。だから、ただ挫折した夢に返り咲きたい一念で、家族の生活を犠牲にするほど取り組むべきなのか、とも思います。
しかし、そもそも、どんな発明も、そのはじまりは一人の人間が独りよがりに精魂傾けた成果からでした。

私が感動を覚えたのは、チャールズの無謀なチャレンジが成功したことそのものではなく、実は反対していた銀行家たちが、成功を信じて疑わなかったこと、友人のいのちを地上に繋ぎ止めておくためにわざとしがらみを課してきたのではないか、と伺えるシーンがあったこと。それがなければ、あの奥さん、ころがりこんできた大金を夫の夢にかけることもしなかったでしょう。
ひとりの情熱というのは、周囲の人間を変えてしまう。結果はどうあれ、挑み続ける姿はやはり美しいのだと教えてくれる映画です。ただし、チャレンジするものは選ぶ必要はあるでしょうけれどね(苦笑)

そういえばこれ、新盤が出た時には「アストロノーツ・ファーマー」という原題をそのままタイトルに載せたようですが、別にあの邦題のままでもよかったような。「アビエイター」もそうなのですが、下手にカタカナにするより中身に沿った意味深な邦題をつけたほうが、かえって印象深くなりませんか。「庭」でなく「農場」のほうが良かったかもしれないですが。

夢を追いかける男のロマンを謳った作品ですが、チャールズの場合、家族もひたすら大切に愛しているので、芸のためなら女房も泣かす、という日本の昔ながらの身勝手さ(それを良心的にノスタルジックに描いて成功したのが、まさにNHKドラマ「ゲゲゲの女房」だったけれど)はあまり感じないのがいい。また、チャールズが夢を諦めざるをえなかった背景からくる隠された悲哀もにじませ、夢の実現は家族を守るという責任放棄と表裏一体ではないか、というリスクも説いています。
そのリスクを敢えて甘受したうえで、最終的に奥さんが夫の夢を支えたからこそ、うるわしいファミリードラマに仕上がったのです。

主演はビリー・ボブ・ソーントン。
監督はマイケル・ポーリッシュ。
ちなみに、ソーントンが「アルマゲドン」で共演したブルース・ウィルスが意外な役どころで友情出演しているので、そこもお見逃しなく。


(2010年10月5日)

庭から昇ったロケット雲 - goo 映画

庭から昇ったロケット雲 - goo 映画

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« マリア様がみてる二次創作小... | TOP | アニメ「輪るピングドラム」... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 映画──SF・アクション・戦争